【実例付き】研究テーマが思いつかない…どうやって考える?研究ことはじめ

研究・大学生活

「研究テーマを考えてきて」と言われたけれど何も思いつかない、研究テーマを変えることになったけれど何から手を付けてよいかわからない…。

今回のコラムでは、理系大学院生のみなさんに向けて研究テーマの思考法をご紹介します。

研究テーマの設定は研究の第一歩ですから、しっかり悩んで決めるとよいと思います。

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はじめに:研究テーマに求められる要素

研究としてやる以上は学会などの場での発表や最終的には論文として発表したいものです。

研究テーマの内容を考える前に、研究テーマに求められる条件や要素を考えてみましょう。

書いた論文が採用されるための条件としては、一般的に新規性、有用性、信頼性などが求められます。

こうした観点は論文の評価だけでなく、学会発表や研究費の申請でも重視されるポイントです。

ここではひとつずつ順に説明します。

参考: 近藤邦雄 (2009) 「査読者の眼: より良い論文を執筆するために

新規性

研究として取り組む以上、明らかにしようとする内容がこれまでの研究では扱われてこなかった、または十分に明らかになっていないことが求められます。

当然ですが、誰かがやった研究をもう一度やってもそれは研究成果とは呼べません。

新たな実験や解析手法など、その研究者のアイデアが提案されているかどうかが判断されます。

この部分が分かりにくい場合には、より慎重に言及する必要があります。

逆に、実験自体は従来のものであっても、そこから新たな知見が得られるのであれば新規性は十分にあると言うことができます。

簡単な言葉で表せば、いままで知られていなかったことがその研究で明らかになったかどうか、という観点です。

有用性

誰のための研究なのか、ということも重要です。

誰の役にも立たない研究というのは評価されにくいものです。

もちろん、分野によっては基礎的で直接なにかの役に立つ訳ではない、という研究もたくさんあるかと思います。

それでも、間接的にでもその研究と社会との接点はあるはずです。

研究が対象としている社会課題は何なのか、あるいは研究成果を利用することでなにかが明らかになるなど、研究が与えるインパクトをしっかりとアピールする必要があります。

研究計画の立案段階では、データに関してどういった指標で評価しようとするのか、という視点で考えてみると良いでしょう。

信頼性

研究で得られたデータが信頼できるかどうか、解析が妥当な手法であるかどうかなどです。

研究計画の段階では、予定している手法で十分信頼できるデータが得られるかどうか、主張しようとしている仮説や理論がそのデータで十分に示せるかどうかを考えてみると良いでしょう。

研究テーマの思考法

ここまで、研究のゴールである研究発表という観点から、研究の過程で必要な要素についてご紹介しました。

これらを踏まえ、ここからは今回の本題である研究テーマの考え方をいくつかご紹介します。

まずは文献調査

まずは既往研究(先行研究)を調べてみましょう。

既に行われていることをあらかじめ確認しておくことで余分な実験を減らすことができます。

また、研究分野での動向やトレンドも知ることができるはずです。

どこまでが明らかになっていて、まだわかっていないのはどのようなことでしょうか。

論文だけでなく、採択された研究費や大型共用設備の研究課題なども参考になります。

例えば、CiNii Researchというサービスを使えば科学研究費助成事業に採択された研究課題や論文・図書などの研究成果などを横断的に検索することができます。

また、微細構造解析プラットフォームのウェブページでは、電子顕微鏡などの共用分析装置の利用報告書が公開されています。

どのような目的でどのような分析を行ったか、どんな装置が必要なのか、という事例を見ることができるので参考になります。

逆に、研究室で所有している装置でどういった解析ができるかという観点からも参考になる部分があるでしょう。

こうした情報から研究分野の動向や他の研究者がどのような研究テーマに取り組んでいるか伺うことができます。

参考:国立情報学研究所「CiNii Research

参考:微細構造解析プラットフォーム「利用報告書

自分の強みを考えてみる

自分や所属研究室の持つノウハウや技術などの研究シーズや強みを考えてみましょう。

これまでの課題を自分たちの強みを活かすことで克服するというのも研究テーマの切り口としては有効です。

例えば、過去の研究で開発したプロセスや所有している分析装置などを利用して新しい結果が得られないか、というものです。

もし潤沢な資金が用意できるのであれば、新たな装置を導入するというのもひとつの選択肢として検討するのもよいでしょう。

また、このようなシーズと組み合わせるアプローチでは、思いきって異分野の研究に参入するというのもひとつの手です。

分野の外からの新しい発想でこれまでの課題を打開できれば、大きなブレイクスルーにつながる可能性もあります。

手を動かして考える

実際に手を動かして考えてみましょう。

これは、既往研究の再現実験や条件を変えて実験をやってみるなどです。論文を読むだけでは気にならなかったポイントに気づくこともあるかと思います。

結果に影響を与える新たなファクターが見つかれば、新発見につながるかもしれません。

また、再現実験が報告通りにならないことも少なくありません。簡単に再現できると思っていたのに、いざやってみようとすると雰囲気や温度の制御が必要で、簡便な装置では環境が再現できなかったりといったこともあります。

こうした再現の難しさは、そのまま既往研究における課題と考えることができるので、これをより簡単な環境で再現できるようにする、などといったテーマを考えることもできます。

再現実験で何か面白いことが起こればそれを種にテーマを考えてみるのも良いでしょう。

ディスカッションする

研究室内外の同僚や指導教員とディスカッションしてみましょう。

その際、事前に既往研究の調査や予備実験をやっておくと議論が捗ります。新たな視点が入ることで自分ひとりでは見落としていた視点に気付くことがあるかもしれません。

研究計画の中で関わってくるような共同研究者に相談すれば、相手にとっても無関係の問題ではありませんから、きっと相談に乗ってくれるはずです。

特に、指導教員は文献さえ事前にしっかりと調べていれば、議論のための時間は用意してくれるという人が多いのではないでしょうか。

自分のやりたいことを考えてみる

自分のやりたいこと、興味のあることを起点に発想をふくらませてみましょう。

もちろん研究室としての方向性や既往研究からの意味付けは重要ですが、自分がちゃんと興味を持っているテーマなら多少の困難にもめげずに乗り越えられるのではないでしょうか。

そういう意味では自分が心から興味を持てる研究テーマに取り組むことが重要ではないかと思います。

自分のやりたいことが思い浮かばない、見つからないという方もいるかと思います。そのような場合には、初めに戻って身の回りの研究者がどのような研究に取り組んでいるか見てみましょう。

彼らにその研究の面白い部分ややりがいを聞いてみると、自分の興味がどういったことに向いているか見えてくるかもしれません。

もし自分の身近に自分の研究テーマと近い研究者がいないという場合は学会に参加してみましょう。

全国規模の学会でなくても構いませんので、小さな研究会のポスター発表などに出かけて行き、色々と話を聞いてみると良いでしょう。

実際の研究テーマ設定例

ここでは、筆者の学部卒業研究の事例をご紹介します。
読んで頂くと、研究の進捗とともにテーマが変化していることが分かるかと思います。
新規性のある研究テーマになればなるほど、当初の想定通りに研究が進まないことも多くなってくると思います。粘り強く結果を出すという姿勢も重要ですが、当初の研究テーマにあまり固執せず、実際に研究を進めながら柔軟に軌道修正するというのもひとつのアプローチです。
卒業論文、修士論文の執筆スケジュールを立てながら、ある程度先を見越して研究を進められると良いでしょう。
筆者の当時の研究は、所属研究室の教授が直属のテーマであり、それと並行して外部の研究者と連携した共同研究も実施しました。

4–5月

指導教員や共同研究者との打合せを行うとともに、既往論文の調査を踏まえて仮テーマを設定しました。この内容は、これまでの研究室での取り組みを基に、新たな手法で特性の向上を目指した新規合金を開発するというものでした。共同研究としては、外部の研究者が開発している材料についてその解析を担当し、ディスカッションを行いながら新規材料の開発を目指すというものでした。

6–9月

仮テーマに沿って実験を実施しました。
8月中頃に大学院入試、9月に研究室内での進捗報告会がありました。

この時点で卒業研究としては三分の一ほどになりますが、期待したような結果が出ず、当初の研究テーマとして考えていた手法では成果が出ないのではないかと考え始めました。
並行して共同研究者との実験も進めました。こちらについては当初期待していた通りの結果が得られ、順調に進みました。

10–12月

秋の学会シーズンで、1件のポスター発表に申し込んでいました。
当初期待していた結果が出ず、打開策も見つからない中での発表だったので大変苦しみましたがどうにか発表を乗り切りました。

当初考えていた手法ではうまくいかないという思いが強くなっていたため、別の方向性を模索した実験を行うようになりました。

当初考えていた特性とはまったく別の方向性ですが、これらの実験でなんらかの結果を出すことができそうな兆しがあったので、12月に行われた研究室内での中間報告会でその旨を報告し、指導教員からのフィードバックも受け、その路線で進めていくことになりました。

共同研究のほうでは分析を担当した研究成果が論文として投稿され、受理されました。

1–2月

卒業論文の締め切りが迫る中、執筆と並行して実験を進めました。
幸い、年末にコアデータが得られたので、年明け以降は考察に必要な補助データを集めるといった状況でした。結果的には1月後半まで実験を行い、それらの結果をまとめた卒業論文を2月初めに提出しました。

まとめ

今回のコラムでは「研究テーマが思いつかない」という場合の発想法について紹介しました。

まとめてみると、

  • 研究テーマを考える前に、研究に求められる以下の要素を確認しましょう。
    • 新規性
    • 有用性
    • 信頼性
  • 研究テーマの考え方については、以下の5点を検討してみましょう。
    • 初めにまずは文献調査をする
    • 自分の強みを活かす
    • 実験をやってみる
    • ディスカッションをする
    • 自分のやりたいことを考えてみる

研究テーマの設定は研究計画設定の第一歩です。研究の進捗に応じて軌道修正するのはまったく悪いことではありませんから、最初の段階では「何を目指して研究をするのか」という方向付けと考えれば良いと思います。
「研究テーマが思いつかない」と悩んでいる読者の皆様が研究テーマを考える一助になれば幸いです。

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