研究者の改姓事情

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女性研究者は結婚をしたら旧氏(姓)で研究を続けるもの?

日本は世界で唯一、夫婦別姓を認めていない国といわれています。

選択的夫婦別氏(姓)にかんする議論がありますが、多くの研究者にとっても関心事であるかもしれません。

 

【参考】

法務省:選択的夫婦別氏制度(いわゆる選択的夫婦別姓制度)

http://www.moj.go.jp/MINJI/minji36.html

 

夫婦と氏の問題は、日本の場合は戸籍制度と深く関係しています。
結婚と婚姻については実は誤解も多く、本来「親族研究」を専門とする社会人類学学徒の間でもあいまいになっていることもあります。

わたしが専門としている社会人類学では「女性婚」「交差イトコ婚」「平行イトコ婚」…異文化の婚姻制度については基礎知識として学んでいたりするのですが、そもそも現在の日本の婚姻制度や養子縁組制度についての研究はあまり聞きません。

この記事では、研究や子育ての観点から、結婚にともなう氏の選択についてまとめていきますが、

まずは現行の日本の婚姻制度について一度整理してみたいと思います。

 

結婚=入籍 ではない

そもそも、「入籍」という言葉のせいで混乱してしまわれがちなのですが、結婚というのは、「妻が夫の家の戸籍に入る」というわけではありません。

「入籍する」→「婚姻届を出す」法的に結婚することを「入籍する」と表現されることは多いのですが、入籍とは、既にある戸籍に入ること。現在は結婚すると新しい戸籍が作られるのが基本なので「入籍」は誤用になります。そのため新聞では「婚姻届を出す」などと書くのを原則としています。

https://mainichi-kotoba.jp/photo-20210321

戸籍とは、親族関係を登録公証する公文書です。戦後、1948 年以降日本の戸籍制度は、家単位ではなく夫婦を基本単位としています。つまり、ひとつの戸籍に入るのは、夫婦とその未婚の子どもまでであり、子どもの配偶者や孫を入籍させるということはできないのです。

結婚をするというのは、ふたりの人間がお互いに、自分の親の戸籍から出て、二人で新しい戸籍を作るということです。どちらかが、もう一方の家の戸籍に入るというわけではないので、男女が全く平等です。「お嫁に行く」とか、「婿を取る」という言葉はありますが実態は、お互いに自分の家(親の戸籍)を出て独立した世帯を作ることになります。

新しい戸籍を作るという届出が「婚姻届け」です。「家督を継ぐ」とか「家を継ぐ」とか、そういう概念は実は民法上は60 年以上前に消滅しています。

仮に、親の戸籍を出ずに、つまり未婚の状態で女性が子どもを産んだとしても、「ひとつの戸籍に入るのは夫婦とその未婚の子のみ」という規定はかわりません。その場合、生まれた子は、その祖父母、つまり未婚の母の両親の戸籍には入れないので、未婚の母は親の戸籍から抜けて、自らが筆頭者となる新たな戸籍を編製し、その新たな戸籍に生まれた子が記載されるという手続きになります。

子孫を作るということは、戸籍から抜けることを意味します。世代ごとに戸籍は新たに作られていくもので、引き継いだり、守ったりしていくものではないのです。

(ちなみに、「婚姻届け」と別に「入籍届け」というものも存在していますが、全くの別物です。これは、未婚のまま出産した子を認知した父親の籍に入れる時や、再婚する人の子が親の結婚相手の籍に入る時、離婚後戸籍筆頭者ではない方の親の籍に子どもを入れる時などに必要になる届けです。)

 

妻方の氏(姓)を名乗ることに特別な手続きはいらない

新しく戸籍を作る際、現行の日本の法では夫婦はひとつの氏、つまり同じ苗字を名乗ることになっていますから、氏を統一する必要があります。この時に、夫婦どちらかの結婚前の氏を選択することになります。慣例として、男性のほうを選ぶ夫婦が圧倒的に多いのですが、ここで女性のほうの氏を選ぶこともできます。

 

【参考】

平成 28 年度「婚姻に関する統計」(厚生労働省)

https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/konin16/dl/01.pdf#page=10

 

厚生労働省の調査では、現在日本で妻方の氏をえらぶ夫婦は4%程度となっています。

どちらの場合も手続は同じです。婚姻届けを記入する際、夫の氏、妻の氏、いずれかの□にチェックを入れるだけです。よく夫婦別姓の必要が「男女の同権」の実現のための問題として議論されがちではありますが、現行の制度的に男女が不平等になっているというわけでもないと思います。男性側の氏を選ぶことがデフォルトになっているわけでは決してなく、どちらを選ぶことも可能なのです。

免許証、パスポート、銀行口座、クレジットカード、それらが紐づく各種ネットサービスのドメインなどなど、氏が変更されると手続きが必要になり、不便が生じるのは避けられません。夫婦のうちどちらかがその不便を負わなければならないわけですから、話し合い、個別のケースで選択するのが道理かと思います。

 

結婚や氏の選択だけで義両親と親子関係は発生しない

また、苗字の件とはそれますが、関連して結婚後、戸籍から抜けた後の親とのことも合わせて整理してみましょう。

同一の戸籍に入るのが夫婦とその子までと示されても、結婚により氏がかわるということは、同じ氏を持つ人、すなわち配偶者の親族となんらかの関係が発生するように感じる人もいます。しかし、法的な義務と権利と姓は全く別の問題です。

戸籍は夫婦を基本単位としているので、法的には、婚姻届けを出したからと言って、どちらの氏(姓)を名乗ったにせよ、配偶者の両親と親子関係が結ばれるわけではありません。
また、当然のことながらこれまでの親子関係が解消されるわけでもありません。

つまり、結婚により自分の氏が配偶者の両親の氏と同じになったとしても、配偶者の両親の娘、息子になったわけではないのです。結婚をすると、夫婦間の扶養の義務や相続の権利が発生しますが、配偶者の両親に対しては扶養の義務も相続の権利も発生しないのです。

なので、例えば、ある人(ここでは Aさんとしましょう)が、両親よりも先に亡くなり、Aさんの配偶者(Bさんとします)がのこされたとします。そのAさんの配偶者Bさんが、亡くなったAさんに代わって(その義務はないのにもかかわらず任意で)Aさんの両親の老後の介護をしたとします。Aさんの両親がBさんを実子のように思っていたとしても、Aさんの両親が亡くなった際に、Bさんには Aさんの両親の財産を相続する権利はありません。

仮に、介護のためにBさんがAさんの両親の家に移り、Aさんの両親と同居していた場合であっても、生前になんらかの手続きをしていなければAさんの両親の家が遺産としてBさんのものになることはありません。
Aさんの両親が亡くなると、Aさんの両親の名義であったその家は、Aさんの両親の子であるAさんのキョウダイに相続権があります。(Aさんが一人っ子で両親に他に子がいなかった場合は、両親のキョウダイ、つまりAさんのオジオバが相続することになります。オジオバが既に他界していた場合はその子、つまり甥姪が相続することになります。どこまでいっても、Bさんに相続権が回ってくることはありません。)

婚姻関係があったのは、AさんとBさん個人であって、制度上はその親とは関係がないわけです。

ここでは介護と遺産の例で示しましたが、家業と事業用資産の承継という問題が発生する場合もあります。こういった事態を防ぐための手段が、養子縁組制度です。婚姻と同時に夫婦のいずれかが配偶者の両親と養子縁組も行うことにより、配偶者の両親とも法的な親子間の義務・権利関係を結ぶというものです。
特に男性が配偶者の女性の両親と養子縁組関係を行う場合、いわゆる「婿養子」と呼ばれます。「婿養子」「嫁養子」いずれも民法上の規定がある用語ではありません。婚姻の際、男性が改姓し、女性側の氏を名乗る場合、この「婿養子」であると誤解を受けることが多いのではないかと思います。
実際には、婚姻届けの提出とは別の手続きが必要です。

養子になれば、扶養義務も発生し、推定相続人になることもできます。(この養子縁組関係は、婚姻時に同時に行ったとしても、婚姻とは別の手続きになるので、夫婦が離婚した場合も別途離縁の手続きをしない限りは、自動的に解消されるものではありません。)
逆に言えば、ここまでしないと、女性の場合も男性の場合も、どちらの苗字を名乗ったにしろ、結婚しただけでは配偶者の両親に対してまでは権利も義務も発生していないということです。

「自分の両親の世話は兄と兄嫁に任せ、自分は夫の両親の面倒を見る」

というスタイル、実際にはよくあるものかもしれませんが、そうするべきスタイルというわけではありません。結婚していようがしていまいが、男女いずれも、自分の両親に対して責任があります。結婚することによって、それが無くなるわけでも増えるわけでもありません。

(…いや、配偶者に対する新たな責任が生まれるのが婚姻ですから、増えてはいるわけですが、しかし助け合うのが夫婦です。)

 

改氏による不自由

ここまで改氏をともなう日本の結婚という制度について整理してきました。では、改氏がどのような場面で不都合や不利益につながるのか、考えていきましょう。

改氏に伴う諸々の手続きの手間や費用はいうまでもありません。役所への届け出ですべてが完結するわけではなく、運転免許証からパスポート、銀行口座にクレジットカード、複数の事柄について個別に一つずつ自分で対応する必要があり、それぞれの手続方法を調べるところからです。窓口が開いている時間が限られるものについては、平日の午前中に時間をつくって足を運ばなければならないことも多く、書類に不備があればまた出直しとなることもざらです。

免許証などの公的な書類に掲載される情報を更新していないと罰則の対象になったり、名義が公的書類と一致しない銀行口座が凍結されることもあったりと、各種の改氏(姓)手続きは避けては通れないことになっています。

手続き上の問題を別にしても、研究者に限らず、会社勤め等、キャリアを積んでいる多くの人はあえて改氏したいとは思わないことがほとんどです。

そのため、社会的に「旧氏(旧姓)で仕事をする」という選択が理解される場面も増えてはいます。

しかし企業の規則や慣習にもよりますが、制度として旧氏(旧姓)の利用を認めてはいるものの、実際には使いにくかったり、担当部局に煩雑な手続きが生じることに気を使って、旧氏の利用を諦めて改姓の手続きをする人も多いと考えられています。

 

【参考】
旧姓使用の現状と課題に関する調査報告書(男女共同参画局)

https://www.gender.go.jp/research/kenkyu/maidenname_h28_research.html

 

また、旧氏を使って仕事をしていたとしても、履歴書や職務経歴書には戸籍上の姓名を使うのがルールとされています。

一方で、ポスドクの場合、就職活動や助成金申請の際に重要視されるのは研究業績であり、当然、書類手続き上でもその研究業績と一致する姓を示すことは重要です。大学院生や研究者には通常、学位記、学会発表、論文発表、出版、特許出願等、これまでの研究蓄積がありますから、結婚前に使ってきた名前を結婚後も使うという人は多いかと思います。

科研費は、「登録名」として、戸籍名とは必ずしも一致しない名前(旧姓。またはペンネームや屋号のような研究ネームを使う方もいます)で各種の申請ができるようになっています。

同様に、旧姓で学位が取得できたり、戸籍名と一致しない名前で教鞭が取れる大学もあります。しかし、説明や一定の手続きは必要になり、複数の大学で非常勤を掛け持ちしていたり、所属が複数ある場合、その手間は軽視しがたい不自由につながることは否めません。

また、登記や特許申請、税務署類など、戸籍名でしか受け付けられない制度も多く、研究生活において旧氏だけを貫くことは実質的に不可能です。旧氏と戸籍名の使い分けに混乱してしまうことも珍しくありません。

 

旧姓の身分証明という選択肢

国際学会への参加の際などに、パスポートネームと研究活動における登録名が一致していないと、不都合が生じることもあります。

わたし自身は、国際シンポジウム参加の際に、会場となったホテルのセキュリティで、参加者名簿と身分証明書の名前が一致しないという理由で足止めされてしまった経験があります。名簿のほうのスペルに誤りがあったことが原因でしたが、あえて発表者として登録する名前と戸籍上の名前を分けている場合には、トラブルが発生する可能性があるな、と感じました。

国際シンポジウムなどでは、開催者側がまとめて参加者の宿泊施設を確保する場合もあります。そのような場合にも、発表者として研究業績と統一しておきたい名前と、宿泊者としてパスポートと一致させておくべき名前に齟齬があるのは、不便をきたします。

こういった場面で選択的夫婦別氏制度導入の必要性を強く感じるわけですが、暫定的方法として、「旧氏による公的な身分証明書を確保する」という方法があります。

実は日本のパスポートは戸籍に記載されている氏名以外の呼称を併記することができます。「社会生活上通用しているものであることが確認され、かつ、申請者の渡航の便宜のため特に必要であると認める場合」に認められるものなので、旧氏は十分にこの対象に含まれるでしょう。

 

【参考】

旅券(パスポート)の別名併記制度について(外務省)

https://www.mofa.go.jp/mofaj/ca/pss/page3_002789.html

 

研究者が改氏する場合、それまでの研究業績と一致する旧姓をパスポートに併記することはひとつの選択肢になりえます。また、パスポートだけでなく、住民票やマイナンバーカード、運転免許証も同様に旧姓併記制度もあります。

 

【参考】

住民票、マイナンバーカード等への旧氏の併記について(総務省)

https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei/daityo/kyuuji.html

 

マイナンバーカードは名前と住所が写真付きで証明される正式な身分証明として扱われるので、これらにより旧姓での身分証明ができると、学会等の研究活動だけでなく、銀行や各種の契約等、様々な場面で旧姓を使える可能性が増えます。

※ただし、あくまで「旧氏」として利用できる場合があるというだけなので、婚姻による「改氏」の手続きが不要になるわけではありません。戸籍筆頭者にならなかった側の、つまり結婚により戸籍上の改氏をしたひとは、結婚後には各種届出や手続きの手間がかかることはかわりません。

また、こういった各種身分証明証の旧姓併記のための手続きには「旧氏が記載された戸籍謄本」が必要になるので、本籍地から離れた場所に居住している場合など、人やタイミングによっては手続きのハードルが高いこともあります。

夫婦の氏は子の氏にもなる

また、婚姻届けをする際に選ぶ氏は、その後の夫婦の社会生活だけでなく、その後生まれてくる(かもしれない)その夫婦の子の苗字になるものでもあります。子どもの名付けに無関心な親はいないと思いますが、その前哨戦として、二択でも選択肢があるならば、一度たちどまって考えてみるべきではないでしょうか。

結婚やそれにともなう氏の選択を考えるとき、まだ子どもについては具体的イメージがない場合も少なくありません。それに対し、苗字すなわち氏にかかわる選択となると、親や親戚への配慮が先立ってしまうものです。決して軽視できるものだとは思いませんが、しかし、上述したように同じ戸籍に入るのはあくまで夫婦とその未婚の子だけです。夫婦のうちのどちらの氏をつかうのかは、同じ戸籍に入るふたりと、将来増える(かもしれない)家族の問題として考えておくことも有意義です。

さらにいえば、(もし)離婚した場合も影響があります。婚姻時に想定して考えるのは「縁起でもない」と思われる場合もあるかもしれませんが、やはり氏の選択には大きく関わってくる問題です。

離婚の際、夫婦は戸籍を分離しますが、この時にも氏の問題が発生します。夫婦ふたりだけならば、旧氏に戻すか、結婚後の氏を名乗り続けるか、夫婦のうちの一方が自身についての選択をして、新しい戸籍をつくるか、親の戸籍に戻るか決めるということだけですが、子どもがいた場合には、問題が複雑化します。

一般的によくあるケースは、結婚時に夫方の氏を選択していた夫婦が離婚をし、妻は旧氏に戻し、子どもは母親、つまり妻方が引き取るというものです。この場合、子どもも手続きをして母親と同じ氏に変更するか、変更せずに一緒に暮らす親と異なる氏を名乗るかです。どちらの場合も、学校や社会生活などでやはり不便が生じるはずです。

さらに母親がその後別の相手と再婚して、再婚相手の氏を名乗る事になった場合には、子どもについても再び氏の選択が迫られます。これが、婚姻時に妻方の姓を選択していた場合には、子どもの姓も産まれた時から母方なので、母親が引き取る場合に特に氏に関しては問題が生じることはなく、離婚時は、元夫側が旧氏に戻すか婚姻時の氏を名乗り続けるかを選択すればいいことになります。

もちろん、離婚した場合に子どもを引き取るのが母親であるとは限りませんし、離婚したからといって必ずしも結婚前の氏に戻したり、子どもが一緒に暮らす方の親の戸籍に入らなければならないとうわけでもありませんから、様々な可能性があります。

ただ、「結婚したら妻が夫の姓に変えるのが当たり前」「離婚したら旧姓に戻すもの」「離婚したら子どもは母親が引き取るのが常識」「親子は苗字が同じなのが普通」という考えでなんとなく他の選択肢をスルーしてしまうと、結果的にとても面倒なことになるかもしれません。

 

研究と子育て

研究者と子育ての観点でいえば、たとえば学会の託児所の利用や、科研費等研究費利用の関係(注)、また国外出張が多い場合など、子どもを同伴する場面の多い方の親の姓が子どもの姓と一致しているほうがいいと考えることがあるかもしれません。

注:科研費では、「託児費用」も研究課題の研究遂行上必要且つ、臨時的に必要な費用である場合支出対象。

 

【参考】

科研費Q&A 【Q44771】(文部科学省)

https://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/hojyo/faq/20210121-mxt_kouhou02-1.pdf

 

親子の通称氏が異なる場合、親が旧氏で社会生活を送っている場に子どもを同伴する場合などに、子ども自身に自分の名前だけでなく、親の旧氏も言えるように教えておくことが有効なこともあります。
普段自分が知っている、自分と同じ苗字と別の氏で親が呼ばれていることに戸惑ったり、「○○さんの子」ということで、周囲から子ども自身の姓名も誤って認識されることもありえます。
また、はぐれたときや何らかの事情で親が呼び出される際に、親本人は戸籍名で呼ばれても旧氏で呼ばれても反応できますが、周囲が認識している通称で探してもらったほうがやはり早く見つけてもらえるはずです。

同じように、子と親の社会生活上の姓が一致していない場合は、保育所や学校などに緊急連絡先として職場の電話などを届ける際にも注意が必要です。子育てにかかわる書類の場合には、保護者名の欄には子どものものと一致する戸籍名を書くことが多いかと思いますが、職場で呼び出してもらう際には、普段職場で使っている通称で呼んでもらう必要があります。このことをしっかり伝えていないと、場合によっては誤解から「そのような者はこちらにはおりません」と取り次いでもらえなかったり、急を要する連絡がたらい回しになってしまうかもしれません。

逆に、そのような不自由があるとしても、研究の際と子育てにかかわるときの名前とが切り離されているほうが、子どもの人権を守ることにつながる、自身の立場の切り替えがしやすいなど、都合がいいと考える場合もあるでしょう。

親としての名と、研究者としての名で使い分けができると、子どものほうも「○○先生の子ども」という印象をもたれることがないのがメリットだと感じるという方の話もあります。

同氏ならば保護者としての身分が示しやすく、逆に別氏ならば親と子は別人格だということを強調しやすくなるわけです。

最も望ましいのは、日本においても選択的夫婦別氏が認められることなのかもしれません。しかし、戸籍制度がある以上、改正にはまだ時間がかかりそうです。

なのでせめて「結婚したら女性の氏を男性の氏に変えるもの」という考え方から脱却することができないかな、と思うのです。

一度決めると変えることは困難ですから、氏の選択は結婚というタイミングでその後の様々なライフステージを想定して、ふたりで話し合うことが重要なのではないでしょうか。

文責:小川絵美子(日本学術振興会特別研究員RPD)

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