企業に就職されるときに最も気になること、それは仕事内容ではないでしょうか?大学の仕事は、忙しい先生達の様子を見ていると大体想像がつくけれど、「民間企業で働く博士たち」は一体何をしているのでしょうか。あなたのやりたいことは、仕事としてできるのでしょうか?
私自身の場合
私は現在、民間企業の中でも事業会社(自社で事業を行っている会社をこう呼びます)でデータサイエンティストとして働いています。昨今この「データ分析」枠で活躍している博士持ちの方々が増えてきています(職種として新しい枠なので、今後どうなるのか分かりませんが…)。抽象的になってしまいますが、私の仕事内容について簡単にご紹介いたします。
データ抽出・分析
他部署から、「会社に関するこういうデータを出して欲しい」という要望がひっきりなしに来ます。その都度、どのような目的があるのか、どういう形が良いのか、いつまでに必要なのか、などの要件をヒアリングして、一番使いやすい形でお届けします。それまでプログラミングに関してはあまりやってきませんでしたが、自分でSQL(データを抽出・整形するための言語です)を書かなくてはならないので、見よう見まねで書いています。
技術選定・検証
業務をよりよく回していくために、新しい技術を積極的に取り込んでいくことは、とても重要です。ですが、昨今のAIブームで、人工知能で業務改善をうたう技術があふれていますし、営業文句を鵜呑みにしてしまうと、本当にやりたいことはこの技術ではできないことが分かる場合もあります。導入してからそのようなことが分かっても困るので、お試しでちょっと使ってみて、「本当にやりたいことができるのか」をチェックするのが技術検証です。心理実験でも、プログラムをいろいろ試して機能を比較することはあったので、それと似たような作業になります。少し違うのは、コストや時間、最近だと計算量やクラウド環境をどれくらい使用するか、という観点も必要になってくる点です。
コンサルティング的なこと
社内の業務改善の一環として、コンサルティング的な役割を担うこともあります。こちらの手元には様々なデータがありますので、問題を抱えている部署のデータを持ってきて、データから改善可能性について解釈・検討します。コンサル、と言ってもビジネス的な観点や経験が浅いため、その都度調べたり、対象部署の役割や目標についてしっかり理解しないとデータの解釈がとんちんかんになったり、的外れな提案をしてしまうことになります。百戦錬磨のプロコンサル、とまでは動けませんが、試行錯誤しつつ一緒に課題解決のために動いています。
広報的なこと
ポジティブな文脈で、対外的に会社の名前を出すことは、とても大切なことです。どんな点でメリットがあるかというと、採用です。「良い人に入ってもらえる」という点で、企業の知名度を挙げることは大変重要なのです。みんなが名前を知っている大企業は、やはりそこに憧れて優秀な人が集まります(知られていないだけで、良い企業というのはたくさんありますが)。微力ながら、欲しい人がいそうなところで会社のアピールをする、という業務もたまに行っています。
組織サポート
大学でも「研究室運営」をしている方は多いかと思いますが、同じように会社の各部署も組織です。そのため、組織としてうまく回っていくために、所属するメンバーが担当を決めて少しずつ貢献しています。私はやや古株にあたるので、新しく入った人たちの様々なサポートをしたり、情報共有をするためのマニュアル・ドキュメントを作る作業を担当しています。こういったことは、大学での「教育」やラボ運営に似ている部分があり、その人の背景知識にあわせてどういう伝え方をすれば良いのかを考える、といった考慮が必要になってきます。
共同研究
私の所属先はいくつかの大学と共同研究をしており、その窓口や実動を担当しています。元々大学にいたこともあり、話がしやすいからだと思います。企業側から研究を見ていると、結構価値観の違いを感じることがあり、どちら側の言い分も頷ける身としては、間に入ってうまく落とし所を見つけようとすることもあったりします。
さて、ここまで読んで頂けた方は分かるかと思うのですが、「博士らしいこと」はほとんど無いかと思います。技術検証と共同研究あたりにその片鱗があるくらいで、それ以外には特に関係が無いことばかりで、私としても初めて経験しながら探り探りやっています。職種として「研究職」ではありませんので、それは仕方がありませんし、私の目的が「博士持ちが研究職以外で生きていく道を模索すること」なので、このような仕事をしていることは私自身ある程度納得している状態です。今はビジネスマンとしてちゃんと仕事をこなせるようになることを目指していますが、いつかは「私でないとできないこと」を見つけたいと思っています。
民間にいる博士持ちの方々のお仕事
民間企業において博士持ちとしてその能力を最も発揮できるのは、おそらく研究所や研究機関において研究ポジションに就くことだと思います。これだと、ほぼアカデミアと変わらない、あるいはよりよい環境で研究に専念できます。こちらに関しては当たり前すぎるので割愛いたします。
その他、私の周りの博士持ちの方々が就職されているのは、専門性の高い事業会社やシンクタンク(政府や企業の調査を請け負う会社です)、コンサルティング会社が多いです。
専門性の高い会社の例としては、「臨床心理を専門とする方が、メンタルヘルス調査を請け負う会社に就職する」あるいは「自然言語処理や機械学習を専門とする方が、データサイエンティストとして就職する」などが挙げられます。このような場合は、専門性のマッチングが一定達成されているため、それまで培ってきた専門知識を活かす機会は多く、「専門性が活かされている・無駄にならなかった」と感じられると思います。
しかしながら、このように研究を通して得た専門性がそのまま社会的な価値として転換可能な分野は非常に少ない状況です(私もこちらに属します)。そのため、ほとんどの人達は、研究を行うために獲得した汎用的な能力や、その一部を活かす道を探すことになります。コンサルティング会社はその一つであると言えます。
コンサルティング会社の場合は、基本的に他の企業の課題解決を行うことが仕事になるのですが、その際に必要な文献や資料を調査してまとめる能力や、プロジェクトを取りまとめて進めていく能力は、博士取得時の経験を活かすことができる部分と言えます。また、私のように「データ分析」という経験を評価されて職に就くこともあり得ます。
企業でやりたいこと
民間企業では、大学と異なり、それまでやってきた自分の研究や、専門性を直接活かした業務を続けることは一部を除き困難です。その中で、「自分のやりたいこと」を成し遂げるためには、改めて自分が「研究を通して成したかったこと」について考えてみる必要があるのではないでしょうか。研究は単なる行為に過ぎず、それを通して何を得たかったのか、何を成したかったのかについて自覚することが必要になります。そしてその目的を民間企業で実現するにはどうしたらいいのか、という観点を持つことができれば、自分に合った職種や企業を選択することができるようになるでしょう。
[文責・平田 佐智子(博士(学術))]
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