大学院などで研究を行うにあたり、論文を書いたり読んだりする機会があると思います。
論文には様々な種類があり、種類ごとに書かれている内容や特徴が異なることはご存じでしょうか。
本記事では、論文の種類にはどのようなものがあるのか、その中でも原著論文とは何なのか、原著論文の探し方について解説していきます。
論文にはどのような種類があるのか
論文には大きく分けて「原著論文」、「レビュー論文」、「学位論文」、「レター」、「会議録」があります。
以下ではそれぞれの特徴について順番に紹介していきます。
原著論文
一般的に「論文」と言われた際に指すのは、この「原著論文」です。
著者が独自に行った研究に基づき、取り扱う問題が原則的に一つであり、同じ条件の下で別の人が実験を行った場合にその論文の内容を再現でき、目的と結果が明確に示されており、第三者の専門家により厳格に査読されていることなどが特徴です。
レビュー論文
総説論文や調査論文とも呼ばれます。
レビュー論文は、特定の分野の重要な先行研究を集めて、組織立ててまとめた論文です。
レビュー論文自体に新たな発見等はありませんが、その分野に関して俯瞰的に捉えることができます。
レビュー論文で扱われているテーマについて、何が解決されており、何が解決されていないのかが浮き彫りになるため、その分野に関する研究を始めるに際して読んでおくべき論文ともいえます。
学位論文
学位論文には、卒業論文、修士論文、博士論文が含まれます(場合によっては博士論文のみを指すこともあります)。
内容としては原著論文に似ている場合が多いですが、一つの論文で複数の問題を取り扱っている場合もあります。
博士論文に関しては国会図書館やCiNii等のデータベースにも保存されており、誰でも読むことができます。
レター
学術雑誌に掲載されるためには、厳格な査読システムを乗り越える必要があり、かなりの時間がかかります。
そこで、その分野に関する研究者に新たな成果や知見を出来る限り早く報告したいときに書くのがレターです。
内容は、既に発表された論文に対する新たなアイデアの提案やコメント、批判などであり、雑誌を介して著者や読者と意見を交わす形式です。
レターのみを掲載している雑誌もあります。
会議録
学会抄録とも呼ばれます。多くは学会発表の予稿であり、研究の目的・方法・結果などを少ない文字数で簡潔にまとめたものです。その分野の研究の動向をつかんだり、自分が参加できなかった学会の大まかな内容を把握したりするのに便利です。
分野によっては会議録も原著論文と同等の評価を受けることもあります。
原著論文とは
ここまで、論文の大まかな種類とその特徴についてご紹介してきました。
論文には色々な種類があり、役割がそれぞれ異なるということがお分かりいただけたかと思います。
ここでは、一般的に論文といった場合に指す「原著論文」とは何なのか、より詳しく見ていきます。
原著論文の定義はさまざま
先ほども述べた通り、原著論文とは、大まかに説明すると、著者のオリジナリティがあり、厳格に査読された、再現性のある論文のことです。
ただし、どのような論文が原著論文として認められるかという細かな定義は、学会や分野ごとに異なります。
以下に、3つの学会における原著論文の定義を紹介します。
- 日本看護科学学会
【原著論文】
「看護学の知識の発展に貢献する研究論文であり,オリジナルなデータもしくは分析に基づいたもの.得られた知見と実践への示唆が論理的に述べられているもの.」
- 観光学術学会
「原著:実証的または理論的研究の成果として、高度のオリジナリティと完成度を有する学術論文。」
- 日本人間工学会
「原著論文: 著者の研究成果をまとめた著述であって,新規性・ 有用性・客観性のあるものとする.抄録(和文,英 文,キーワード.以下同じ.)を含め,原則刷り上が り 8 ページ以内とする.」
原著論文を投稿したい場合は、その学会による原著論文の規定をよく読んだうえでそれを満たしたものを作成する必要があります。
引用:日本看護科学学会「日本看護科学会誌投稿規程」
引用:観光学術学会「観光学評論 編集・投稿規定」
引用:日本人間工学会「『人間工学』誌投稿規程」
レビュー論文との違い
ここでは、原著論文と、同じく代表的な論文の種類であるレビュー論文とを比較し、それぞれがどのように異なるのかについて、より詳しく見ていきます。
目的の違い
原著論文は、筆者がオリジナルの研究や実験を行い、ある研究課題に対する独自の知見を示すことを目的としています。
筆者オリジナルの研究データに基づくことから、「一次文献」とも呼ばれます。
一方、レビュー論文は、ある分野やテーマに関して既に行われた研究を分析し、俯瞰することが目的です。既存の研究成果を基に構成されるため、「二次文献」と呼ばれることもあります。
内容
原著論文は、著者自身が設定した研究課題に基づき、データを集めて検証を行い、 結果を導き出します。
研究背景、仮説、方法、結果といった構成で成り立ち、最後に将来的な課題を述べるパターン等がみられます。
一方でレビュー論文は、その分野に関する先行研究を集めて分析し、客観的な視点でそれらの論文の共通点や抱える問題点などを指摘し、その分野の現状に関する知見を示します。
原著論文の基本構成
原著論文を読んだり、執筆したりする際には、論文の構成を理解する必要があります。ここでは、原著論文の一般的な構成について詳しくみていきましょう。
1. タイトル(Title)と要約(Abstract)
タイトルは、研究の「テーマ・方法・対象・成果」をわかりやすく示し、読者が一目で内容を把握できるようにします。
要約(Abstract:アブストラクト)は、論文全体の内容を短くまとめたものです。研究の背景、目的、方法、結果、そして結論を簡潔に説明し、読者が概要をすぐに理解できるようにします。文字数は100〜300語程度を目安とし、「この研究で何を明らかにしたのか」が一目で伝わるように構成しましょう。
2. 序論(Introduction)
序論は、研究全体の方向性を示す重要なパートです。
まず、研究テーマの背景や社会的な意義を説明し、なぜこのテーマに取り組む必要があるのかを明確にしましょう。 次に、先行研究を整理しながら、これまでに明らかになっていることと残された課題を示します。 そして、「本研究では何を明らかにするのか」を具体的に述べることで、読者が研究の目的を理解しやすくなります。 最後に、研究から得られる知見や期待される効果を簡潔に示すと、序論全体が引き締まるでしょう。
3. 方法(Materials and Methods)
方法のパートでは、実験や調査をどのように行ったかを詳しく述べ、ほかの方が再現できるように記述しましょう。
具体的には、次の内容を明確に示します。
- 対象(サンプル数・選定基準)
- 機器・材料
- 実験手順
- 測定方法
- データ処理法
方法の記述では、誰が読んでも同じ結果が得られるように、明確さと一貫性が求められます。
使用した材料や手順、条件を具体的な数値で示し、研究の流れを「実験設計・実施・分析」の順で整理すると、論文全体がわかりやすくなります。できるだけ曖昧な表現を避け、研究の過程が論理的に追えるように意識することが大切です。
また、倫理的配慮が求められる研究では、その承認手続きや配慮内容についても明記する必要があります。
4. 結果(Results)
結果のパートでは、研究で得られたデータや観察された事実を、客観的かつ論理的な順序で示します。
本文では主要な数値や傾向を簡潔にまとめ、図や表を活用して視覚的にわかりやすく提示します。 この段階では、ほかの研究との比較や解釈は行わず、客観的な事実の報告に徹することが重要です。 必要に応じて、詳細な分析結果や補足データは付録に分けて示すと、全体の構成がすっきりします。
感情的な表現を避け、明快で再現性のある記述を心がけることも大切です。
5. 考察(Discussion)
考察パートでは、研究で得られた結果をどのように理解し、どんな意味があるのかを説明します。
まず、結果が仮説や目的とどのように関係しているのかを整理し、見えてきた新しい発見や特徴をまとめましょう。 続いて、ほかの研究と比べて共通点や違いを確認し、自分の研究がそのなかでどんな位置づけになるのかを示します。 また、データの限界や研究上の制約についても触れておくと、信頼性の高い考察にもなります。
今後の課題や次に取り組むべき方向性を簡潔に述べることで、研究の発展性や応用可能性を示せるでしょう。
6. 結論(Conclusion)と今後の展望
結論は、研究全体を締めくくり、読者に研究の意義を明確に伝える大切なパートです。
まず、序論で示した目的や課題を振り返り、それに対してどのような成果を得たのかを簡潔にまとめます。続いて、その成果が学術的・社会的にどんな価値を持つのかを整理し、研究が分野の発展や理解の深化にどのように貢献したかを示すことも大切です。
さらに、研究の限界や今後の課題に触れることで、次の展開へとつながる展望を伝えられるでしょう。
7. 参考文献(References)と付録(Appendix)
参考文献は、研究で引用・参照した文献を、指定された書式に従って正確にまとめるパートです。 著者名や発行年、タイトル、掲載誌、巻号、ページ番号などを統一した形式で整理し、可能であれば、読者が確認しやすいようにDOIやURLを添えているケースもあります。
付録(Appendix)には、計算の詳細や追加の図表、プログラムコード、アンケート票といった本文に収めると流れが重くなる補足資料をまとめます。付録をうまく活用することで、本文の構成をすっきり保ちつつ、研究の信頼性と再現性向上につながるでしょう。
原著論文の探し方
前章では、原著論文とはどういったものなのかについて説明しました。
それでは、数ある論文のなかから、原著論文を効率的に探すにはどうすればよいのでしょうか。
この章では、原著論文の探し方について、3つの方法をご紹介します。
論文に「原著」と書かれている
原著論文には、「原著」や「原著論文」など、原著論文であることがわかるように書かれているものもあります。
例えば、日本心理学会の運営する『心理学研究』では、原著論文の1ページ目の右上に「原著論文 Original Article」と書かれています。
探している分野の雑誌にも書かれている可能性があるので、確認してみることをお勧めします。
参考:日本心理学会「心理学研究」
絞り込み検索ができる検索サイトもある
医中誌Web、メディカルオンライン、最新看護索引Webなどの論文検索サイトには、原著論文に絞って検索する機能があります。
検索条件設定画面や検索結果画面にて「原著論文」にチェックを入れると、検索条件に合った原著論文のみ表示されます。
参考:医学中央雑誌刊行会「医中誌Web」
参考:株式会社メテオ「メディカルオンライン」
参考:日本看護協会図書館「最新看護索引Web」
「原著論文」を入れて検索する
CiNiiなどの論文データベースで、検索欄にキーワードと合わせて「原著」や「原著論文」という言葉を入れて検索すると、そのキーワードの原著論文がヒットします。
しかし、「原著」という言葉が含まれているだけで原著論文ではない論文がヒットするなどノイズもあります。
また、原著論文にすべて「原著」と書かれているわけではありません。「原著」との記載がないために検索にかからない原著論文も多くあるため、見逃してしまう可能性もあります。
原著論文を読むときのポイント
原著論文を読む際は、一度ですべてを理解しようとせず、要点を押さえながら段階的に読み進めることが大切です。慣れてきたら、引用文献をたどって関連研究にも目を向けると、知識の広がりを感じられるでしょう。
ここでは、原著論文を読む際に押さえておきたいポイントをまとめて解説します。
アブストラクトと結論から全体像をつかむ
アブストラクトは、論文全体を短くまとめた要約で、研究の背景・目的・方法・結果・結論が簡潔に示されています。
まずここを読むことで、その研究がどんなテーマを扱い、どのような成果を得たのかを大まかに理解できます。 一方、結論の部分には、研究の核心となる成果や主張が整理されており、筆者が最も伝えたいポイントが凝縮されているのが特徴です。
アブストラクトと結論を先に読むことで、論文の全体像を把握でき、重要なポイントを効率よく理解できます。
図表やデータに注目して結果を理解する
論文を読むときは、まず図や表などのデータに目を通すと、結果を効率よく理解できます。
図表には、研究で得られた数値や傾向が整理されており、本文に入る前に確認しておくと全体の流れをつかみやすくなります。 チェックする際は、軸ラベルや単位、凡例をしっかり確認し、どんな変化や関係が示されているのかを意識しましょう。
また、付録や補足資料に掲載された詳細データにも目を通すと、研究内容をさらに深く理解できるはずです。
引用文献から関連研究をたどる
参考文献一覧には、その研究に基づいている先行研究が示されています。まずは、自分の関心に近いテーマの文献を選び、そこに挙げられた引用文献を確認していくことで、研究の背景や流れを整理できます。
さらに、引用文献を手がかりに、引用元や被引用先の論文も調べると、分野全体の発展や研究のつながりをより深く理解できるでしょう。
まとめ
今回の記事では、論文の種類とその特徴、原著論文とは何なのか、原著論文の探し方についてお伝えしてきました。
ポイントをまとめると以下の通りとなります。
- 論文には、原著論文、レビュー論文、学位論文、レター、会議録といった種類がある
- 原著論文とは、大まかにいうと、筆者がオリジナルに研究を行って執筆し、査読を受け、再現性のある論文のことである
- 原著論文の定義は組織などによって異なる
- 原著論文とレビュー論文は目的や内容が大きく異なる
- 原著論文を探すには、論文の1ページ目を確認する、絞り込み検索を行う、キーワードと「原著論文」という言葉を合わせて検索する等の方法がある
論文の種類や原著論文の特徴を理解し、今後の研究活動や文献調査にぜひ役立ててください。




