大学院まで進学する方のなかで、将来の進路として企業や大学で活躍する研究者を目指す方は多くいます。しかし、研究者や大学教員としてのキャリアを実現することは、決して簡単ではありません。
アカデミアでの活躍を目指すには、正確な情報を把握することが大切です。
公的データから見る研究者や大学教員への就職状況
文部科学省が毎年更新している「学校基本調査」を参照すると、全体としての傾向を見ることができます。
ここでは卒業・修了直後に「研究者」や「大学教員」などになった人数を中心に見ていきましょう。
以下、それぞれ関係するデータの情報源も併せて紹介します。
参考:文部科学省「学校基本調査-令和3年度 結果の概要-」
学部卒業後に研究者として就職
令和6年3月に学部卒業後に就職した人は45万1,794人と報告されています。
そのうち、研究者に分類されているのは481人です。
また、60人が大学教員となっているようです。
したがって、大学卒業後に就職した人のうち、研究者や大学教員として就職する人は、全体のわずか約0.12%に過ぎません。
なお、この区分では、「公的研究機関、大学附置研究所又は企業の研究所・試験所・研究室などの試験・研究施設」において研究に従事するものを研究者としています。
つまり、「研究者」とは大学などの研究機関だけでなく企業も含まれていることに注意してください。
個別のケースは学校基本調査の調査結果だけでは不明ですが、公的機関で募集される研究関連職は大学院修了者(特に博士号取得者)であることが条件となることが多いため、学部卒で研究者となった多くは企業に入社していると推測できます。
修士課程修了後に研究者として就職
令和6年3月に修士課程を修了後、就職した人は5万9,761人と報告されています。
そのうち、研究者になったのは3,716人、大学教員となったのは387人となっています。
これらの二つを合わせると修士課程修了者の約6.86%となるので、学部卒と比べて57倍以上も研究者や大学教員になれる可能性が高まることがわかります。
ただし、修士号だけでは助手や助教、技術補佐員(テクニシャン)までの職位にしか就けない可能性が高いため、大学教員としてのキャリアアップを目指すのであれば、就職後も博士号の取得は目指したほうが良いでしょう。
それ以外の修士課程修了者はどのような職業に就いているかというと、開発に関わる製造技術者が約1.5万人、情報処理・通信技術者が約8千人、大学教員以外の教員が約2千人となっています。
博士課程修了⇒研究者
続いて、博士課程修了後に研究者となった人の割合を見ていきましょう。
令和6年3月に博士課程を修了後、就職したのは1万967人と報告されています。
そのうち、研究者として就職した人は2,737人、大学教員として就職した人は2,126人です。
つまり、博士課程修了後に就職した人の約44.34%が研究を中心とする職業についているということになります。
また、研究者や大学教員を含む「専門的・技術的職業従事者」となった人全体では、1万76人であり、博士課程修了者の約91.48%は専門家や技術者としての道を歩んでいることになります。
ただし、内訳を細かく見てみると、「専門的・技術的職業従事者」のうちの2,737人は「医師・歯科医師」であり、これらの方は大学院修了前から就業していた可能性が考えられます。
博士課程修了者の場合は、非正規雇用の中でも、博士研究員(ポスドク)と呼ばれる、研究を生業とするアカデミアの登竜門的な職業もあり、令和6年の報告では、1,461人がポスドクとなったことが報告されています。
令和6年3月の博士課程の修了者は1万5,673人と報告されているため、就職者とポスドクとなった方以外の約3,200人は、就職先が見つからずに非常勤講師やアルバイトなどで一時的にしのいでいたり、行方不明になっていることも事実です。
大卒の場合と異なり、博士課程の修了時には年齢が20代の終わりや30代となっていることから、気持ちを切り替えて企業就職を目指す方もいらっしゃいます。
それ以外の修士課程修了者はどのような職業に就いているかというと、開発に関わる製造技術者が約1万4,471万人、情報処理・通信技術者が9,911人、大学教員以外の教員が1,360人となっています。

文部科学省「令和6年度 学校基本調査 卒業後の状況調査」より独自に作成
ポスドクについてはこちらもぜひご覧ください。
大学教授になれる確率はどのくらいなのか?
大学や大学院で研究を続けていると、「将来、大学教授になれる人はどれくらいいるのだろう?」と気になる方も多いでしょう。
一般的に、博士課程を修了した人のうち、最終的に大学教授に就く人は「数%程度」といわれています。教授のポスト数は限られており、博士号取得者の人数が増えても、教授の枠が同じように増えるわけではありません。
また、大学教員として採用された後も、助教や講師、准教授と段階を踏んでキャリアを積んでいく必要があり、すべての人が教授まで昇進できるわけではないのが現実です。分野や大学の事情、タイミングによる影響も大きく、「努力すれば必ず教授になれる」とは言い切れません。
だからこそ、大学教授という進路は「可能性の一つ」として捉えつつ、研究で身につけた力をどのように社会で生かすかを、早い段階から考えておくことが大切だといえるでしょう。
大学教授になるまでの一般的なキャリアパス
大学教授になるまでのキャリアは一つに決まっているわけではありませんが、多くの場合、いくつかの段階を経て進んでいきます。研究者として経験を積み重ねながら、教育・研究の両面で評価されていくのが一般的な流れです。
まず押さえておきたい代表的なキャリアパスは、次のとおりです。
| 内容 | |
| 博士課程修了 | 専門分野の研究を深め、博士号を取得する。 論文執筆や学会発表を通じて、研究者としての基礎力を身につける段階。 |
| 博士研究員(ポスドク) | 任期付きの研究職として研究実績を積む時期。 論文数や研究費の獲得など、次のポジションにつながる成果が強く求められる。 |
| 助教・講師 | 大学教員として研究と教育の両方を担い始める。 教育経験を積みながら、引き続き研究成果を出すことが重要。 |
| 准教授 | 独立した研究者として研究室を主宰し、教育・研究の両面で中心的な役割を担う立場。 教授候補として評価される段階。 |
| 教授 | 教育・研究・大学運営において責任ある立場を担う。 ポスト数は限られており、到達できる人はごく一部に限られる。 |
博士課程修了後すぐに大学教員のポストを得られるケースは珍しく、ポスドク期間を経てから助教や講師として採用されるケースが一般的です。また、すべての人が順調に昇進できるわけではなく、途中で任期満了を迎えたり、企業や別の分野へ進路を変えたりする人も少なくありません。
近年では、一定期間内に成果を上げることで安定したポストを得られるテニュアトラック制度を導入する大学も増えていますが、いずれのルートでも競争は厳しく、教授職が限られたポジションであることは理解しておく必要があるでしょう。
「教授になれない=研究者として失敗」ではない
大学教授になれる確率が決して高くないと聞くと、不安に感じてしまう人もいるかもしれません。しかし、教授になれなかったからといって、研究者として失敗したわけではありません。これは、研究の世界を考えるうえでとても大切な考え方の一つです。
そもそも大学教授は、研究者キャリアの中の「一つの役割」にすぎません。実際には、企業の研究開発職や公的研究機関、専門性を生かした技術職・分析職など、研究経験を評価される進路は数多く存在します。研究で培った「課題を見つけ、仮説を立て、検証する力」は、アカデミアの外でも強みになります。
また、助教や准教授として研究と教育を続ける人もいれば、途中で企業に移り、別の形で研究に関わり続ける人もいます。進路は一つではなく、途中で方向を変えることも珍しくありません。
大切なのは「教授になれるかどうか」だけで将来を判断するのではなく、自分が研究を通じて何をしたいのか、どんな形で社会に関わりたいのかを考えることだといえるでしょう。
非専業やアマチュアの研究者として生きる道もある
ここまでは生きていくためのプロフェッショナルな仕事として「研究者」や「大学教員」についてデータを見てきました。
しかし、「研究者」というのは本来的には職業というよりも、その人の物事に対する姿勢や生き方を説明する言葉と捉えるのがよいでしょう。
つまり、仕事としてだけではなく、趣味や余暇の過ごし方にすることもできるのです。
もちろん、大掛かりな機材や人員が必要なものは難しいですが、いわゆる「在野研究者」「アマチュア研究者」は意外と多いものです。
たとえば、趣味の天体観測で新しい星を発見したり、近隣の自然環境で生物の詳細な観察記録を取ったりしている人もいます。
遺伝学の祖・メンデルは、司祭としての職務のかたわら、エンドウ豆の交配実験により遺伝の法則を発見しました。
また、特殊相対性理論を発表した当時のアインシュタインも、実は名も知られていない一介の特許局員でした。
どちらも成果が認識されるまでに時間がかかっていますし、時代や国が違うので一括りにするのは難しいですが、現代日本でも高校生が大発見をすることがあったりもします。
不断の努力やある程度条件が揃うことなどが求められますが、「研究者」や「科学者」となるチャンスは誰もが持ち得るのです。たとえば、「Co-LABO MAKER」のように実験機器を借りたり、分析を委託することができるサービスも存在しています。
このようにして、アマチュアとして研究を続けることで満足できる方も少なくないでしょう。
学生のままできる研究で小さくとも成果を出そう
大学院生であれば、研究が生活の大部分を占めているので、研究することが当たり前です。
しかし、大学院進学を待たずに学部生の時点で研究することも不可能ではありません。
研究活動の費用は文部科学省や経済産業省の助成金が主流ですが、民間の財団などの助成金の情報を探したり、「academist」のクラウドファンディングで資金を調達することも可能です。
萌芽的で小さな研究によってはずみを付けて、より大きな研究費を獲得するというのは、大型の研究費を獲得している研究者がよく行っているやり方です。
言い換えれば、小さな研究を積み重ねずにいきなり大規模な研究に取り組める人はほとんどいません。
学会や論文で発表した業績は研究者を目指すうえで重要な評価指標になります。
研究成果が得られた際には積極的に業績として残していけると良いですね。
情報を制するものが優位となる
ここでは学部、修士課程、博士課程全体に関する卒業者・修了者の人数や研究者・大学教員となった人数を扱いましたが、さらに深掘りしていくと、分野ごとの詳細な状況を知ることもできます。
ぜひ、ご自身の専門分野における進路状況について、信頼性の高い公的な統計データを使って調べてみてください。
また、今回は文部科学省の「学校基本調査」の統計データの内容を紹介しましたが、他にも各省庁で様々な統計データが公開されています。
たとえば、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」では研究者や大学教員を含む様々な職種の給与を調べることもできます。
公的統計や実績データを的確に読み解く力は、キャリア戦略を立てるうえで強力な武器となります。進路に迷った際には、一次情報に基づいた判断が将来を左右すると覚えておきましょう。






