大学院まで進学する方の場合、かなりの割合の方が修了後の進路として企業や大学で活躍する研究者を希望していると思います。
一方で、企業や大学等の研究者、大学教員となることは、やはり容易ではありません。
アカデミアでの活躍を目指すためには、情報を正しく認識することが大切です。
公的データから見る研究者や大学教員への就職状況
文部科学省が毎年更新している「学校基本調査」を参照すると、全体としての傾向を見ることができます。
ここでは卒業・修了直後に「研究者」や「大学教員」などになった人数を中心に見ていきましょう。
以下、それぞれ関係するデータの情報源も併せて紹介します。
参考:文部科学省「学校基本調査-令和3年度 結果の概要-」
学部卒業後に研究者として就職
令和3年3月に学部卒業後に就職した人は43万2790人と報告されています。
そのうち、研究者に分類されているのは390人です。
また、105人が大学教員となっているようです。
したがって、大学を卒業する人のうち、研究者や大学教員として就職する人は大学卒業後就職した人のうち、約0.12%しかいません。
なお、この区分では、「公的研究機関、大学附置研究所又は企業の研究所・試験所・研究室などの試験・研究施設」において研究に従事するものを研究者としています。
つまり、「研究者」とは大学などの研究機関だけでなく企業も含まれていることに注意してください。
個別のケースは学校基本調査の調査結果だけでは不明ですが、公的機関で募集される研究関連職は大学院修了者(特に博士号取得者)であることが条件となることが多いため、学部卒で研究者となった多くは企業に入社していると推測できます。
修士課程修了後に研究者として就職
令和3年3月に修士課程を修了後、就職した人は5万4386人と報告されています。
そのうち、研究者になったのは2986人、大学教員となったのは370人となっています。
これらの二つを合わせると修士課程修了者の約6.2%となるので、学部卒と比べて50倍以上も研究者や大学教員になれる可能性が高まることがわかります。
ただし、修士号だけでは助手や助教、技術補佐員(テクニシャン)までの職位にしか就けない可能性が高いため、大学教員としてのキャリアアップを目指すのであれば、就職後も博士号の取得は目指したほうが良いでしょう。
それ以外の修士課程修了者はどのような職業に就いているかというと、開発に関わる製造技術者が約1.5万人、情報処理・通信技術者が約8千人、大学教員以外の教員が約2千人となっています。
博士課程修了⇒研究者
続いて、博士課程修了後に研究者となった人の割合を見ていきましょう。
令和3年3月に博士課程を修了後、就職したのは1万919人と報告されています。
そのうち研究者となった人が2349人、大学教員になった人が2411人となっています。
つまり、博士課程修了後に就職した人の約43.6%が研究を中心とする職業についているということになります。
また、研究者や大学教員を含む「専門的・技術的職業従事者」となった人全体では、1万76人であり、博士課程修了者の約92.3%は専門家や技術者としての道を歩んでいることになります。
ただし、内訳を細かく見てみると、「専門的・技術的職業従事者」のうちの2717人は「医師・歯科医師」であり、これらの方は大学院修了前から就業していた可能性が考えられます。
博士課程修了者の場合は、非正規雇用の中でも、博士研究員(ポスドク)と呼ばれる、研究を生業とするアカデミアの登竜門的な職業もあり、令和3年の報告では、1510人がポスドクとなったことが報告されています。
令和3年3月の博士課程の修了者は1万5968人と報告されているため、就職者とポスドクとなった方以外の約4千人は、就職先が見つからずに非常勤講師やアルバイトなどで一時的にしのいでいたり、行方不明になっていることも事実です。
大卒の場合と異なり、博士課程の修了時には年齢が20代の終わりや30代となっていることから、気持ちを切り替えて企業就職を目指す方もいらっしゃいます。
ポスドクについてはこちらもぜひご覧ください。
非専業やアマチュアの研究者として生きる道もある
ここまでは生きていくためのプロフェッショナルな仕事として「研究者」や「大学教員」についてデータを見てきました。
しかし、「研究者」というのは本来的には職業というよりも、その人の物事に対する姿勢や生き方を説明する言葉と捉えるのがよいでしょう。
つまり、仕事としてだけではなく、趣味や余暇の過ごし方にすることもできるのです。
もちろん、大掛かりな機材や人員が必要なものは難しいですが、いわゆる「在野研究者」「アマチュア研究者」は意外と多いものです。
彼らは、例えば趣味の天体観測で新しい星を発見したり、近くの野山にいる生物の詳細な観察記録を取っていたりするでしょう。
実は、遺伝学の祖とされるメンデルは司祭としての仕事の傍らで遺伝の法則を発見しました。
また、特殊相対性理論を発表した当時のアインシュタインも、実は名も知られていない一介の特許局員でした。
どちらも成果が認識されるまでに時間がかかっていますし、時代や国が違うので一括りにするのは難しいですが、現代日本でも高校生が大発見をすることがあったりもします。
不断の努力やある程度条件が揃うことなどが求められますが、「研究者」や「科学者」となるチャンスは誰もが持ち得るのです。例えば、「Co-LABO MAKER」のように実験機器を借りたり、分析を委託することができるサービスも存在しています。
このようにして、アマチュアとして研究を続けることで満足できる方も少なくないでしょう。
学生のままできる研究で小さくとも成果を出そう
大学院生であれば、研究が生活の大部分を占めているので、研究することが当たり前です。
しかし、大学院進学を待たずに学部生の時点で研究することも不可能ではありません。
研究活動の費用は文部科学省や経済産業省の助成金が主流ですが、「コラボリー」等で民間の財団などの助成金の情報を探したり、「academist」のクラウドファンディングで資金を調達するといったことも出来るでしょう。
萌芽的で小さな研究によってはずみを付けて、より大きな研究費を獲得するというのは、大型の研究費を獲得している研究者がよく行っているやり方です。
逆に言えば、小さな研究を積み重ねずにいきなり大きな研究ができる方はあまり多くないでしょう。
学会や論文で発表した業績は研究者を目指すうえで重要な評価指標になります。
研究成果が得られた際には積極的に業績として残していけると良いですね。
参考:コラボリー
情報を制するものが優位となる
ここでは学部、修士課程、博士課程全体に関する卒業者・修了者の人数や研究者・大学教員となった人数を扱いましたが、さらに深掘りしていくと、分野ごとの詳細な状況を知ることもできます。
ぜひ、ご自身の専門分野における進路状況について、信頼性の高い公的な統計データを使って調べてみてください。
また、今回は文部科学省の「学校基本調査」の統計データの内容を紹介しましたが、他にも各省庁で様々な統計データが公開されています。
例えば、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」では研究者や大学教員を含む様々な職種の給与を調べることもできます。
是非こうした情報を読み解く力を強化しましょう。