抄録(しょうろく)とは、学会発表へ参加するときや研究論文を投稿するときに必要になる抜き書きのことです。
学会発表や研究論文の執筆に慣れていない大学生や大学院生は、この抄録の書き方に戸惑うことがあるかもしれません。
この記事では、大学院生&理系学生に特化した就活サイト「アカリク」のアカリクリポーターズが、抄録の基本的な書き方から書くときのコツまで詳しく解説します。
抄録とは
抄録とは、研究論文を端的にまとめたものです。一般的には、400字程度と短い文字数でまとめます。また、さまざまな著者の抄録をまとめた冊子を抄録集と呼びます。大学生や大学院生の方は、卒業論文を執筆した際に、それらをまとめた抄録集を読む機会があるかもしれません。
抄録のように、研究論文の内容を端的にまとめた文章を読むことで、読者は著者の研究内容や研究結果を短時間で把握することができます。
そのため、学会大会やシンポジウムなどで発表するときには、しばしば抄録の提出が求められます。
抄録の書き方とコツ
抄録は、一般的に「背景、目的、方法、結果、考察、結語」という6つの項目で構成されています。
ただし、文字数制限の関係でやむを得ない場合に限り「考察」と「結語」は割愛してもよいとされている場合もあります。
それぞれの項目でどのようなことを記載するか、書き方のコツと合わせて詳しく解説します。
背景
背景には、その研究を行うに至った経緯を記載します。
背景で意識すべきコツは、その研究の問題を解くことの意義について説明することです。
その研究でどのような問題に取り組もうとしているのか、その問題についてこれまでにどのようなことが解明されていて、どのようなことが未解明か、など、あなたが考える研究の意義を分かりやすく記載しましょう。
目的
目的には、背景を踏まえて学会発表や学術論文において、その研究で何を明らかにしたいのかを記載します。
目的で意識すべきコツは、あなたの研究のどこに新規性があるのかを説明することです。
その研究では、具体的にどのような問題を解決、解明することをゴールとしているのか、そのゴールに到達するために、どこに新規性をもたせたのかについて明記しましょう。
研究の到達目標は、数値や客観的指標で示す必要があります。
なお、研究の新規性についてより詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
目的の部分では、まず最初に、研究の目的をはっきりと明記しましょう。
「本研究の目的は〇〇である」と結論ファーストで書き始めると読みやすくなります。
その次に、研究の新規性について触れましょう。
書き方としては「先行研究においては、〇〇を使って類似の調査を行っていたが、本研究では〇〇を利用して研究を行った。」などと書くとよいでしょう。
方法
方法には、目的に到達するための具体的な手法を記載します。
方法を抄録の中で分かりやすくするコツは、その抄録の読者がその研究の妥当性を確認するために必要な情報を記述することです。
文字数に余裕があれば、実験や調査に使用した機器やソフトウェア、データの取得方法など読者が追試験できるように順序立てて実験、調査方法を記載すると良いでしょう。
このとき、結果や考察に書くべき内容と重複しないように注意しましょう。
おそらく抄録の中で最もボリュームが厚くなるのがこの方法の箇所になります。
例えば、実験研究であれば、各条件のサンプルサイズ、比較を行う条件についての説明が必要です。
また、比較条件だけでなく、条件間の共通の手続きについての説明も必要です。
書き方の例を詳しく知りたい場合は、公開されている過去の学会発表の抄録があれば参考にするとよいでしょう。
その抄録を読んだだけで読み手が研究の方法を理解できるように具体性をもたせて書きましょう。
結果
結果には、方法によって得られた結果を数値または客観的指標で記載します。
コツは、「目的」で示した到達目標を信頼できる数値または客観的指標という形で、結果を述べることです。
抄録に図表を用いることが可能であれば、分かりやすいように用いてもよいでしょう。
統計学的な解析結果を提示する際には、国際的に推奨されている形式であるかどうかを確認しておきましょう。
結果を記述する際には、研究の全体結果などの大きな部分から書き始め、次いで各実験セグメントの詳細な結果について書いていくと、読みやすくなります。
考察
考察では、結果を踏まえて設定した目的に対してどのような成果が得られたのか、また研究の意義や新しい知見について得られたことを記載します。
コツは、結果で得られた信頼できる数値、客観的指標や過去の先行研究にもとづいて議論を行うことです。
得られた結果はどのような条件において当てはまるのか、どのような条件において当てはまらなくなるのか、さらに今後の展望などについても記述します。
今回の研究で得られた結果と先行研究のつながりを意識して、本研究ではどのような研究価値を提供したのかを分かりやすく書いていきましょう。
結果で報告した内容と対応させて、その結果が得られた原因を記載していくことで分かりやすくまとめることができます。
結語
結語(けつご)では、まとめとして全体の要約を行います。
抄録によっては、結語を「まとめ」や「結論」と言い換えているものもあります。
結果と結語の違いとしては、結果は「実験によって生じた状態」であり、結語は「前提から考えて導き出された答え」といえます。
結果は、結語を導き出すための材料であり、結語は、先行研究とのつながりの中で、目的とセットで書かれるべき最も重要なエッセンスです。
書き方のコツは、最低でも研究の背景、目的、方法、考察の核となる部分を取り溢さずに、まとめることです。
読者の中には、結語に書かれた研究結果と考察を見て、その学会発表を聞くかどうかを判断する方もいるので、最後まで気を抜かずに記述しましょう。
例えば、結語では以下のように本研究の目的・結果・考察・今後の展望を短くまとめるとよいでしょう。
「本研究では、〇〇について明らかにすることを目的として、〇〇という結果を得られた。従来の研究とは異なり、〇〇という観点から〇〇という手法を取り入れて研究を行った。本研究において、新たに〇〇であることが証明された。今後は〇〇などのさらなる詳細な研究を行っていきたい。」
抄録作成時の注意点
抄録には「背景、目的、方法、結果、考察、結語」という一般的な構成以外にも、様々な規定があります。
規定は、学会大会やシンポジウムによって異なりますが、多くの抄録において定められているよくある注意点を以下で紹介します。
文字数制限
抄録には文字数制限が設けられていることがあります。
文字数制限がない場合でも、文字の大きさが指定され、ページ数制限が設けられていることがあります。
いずれにしても、論文の内容を要約する必要があります。
図表を入れる場合は、その分のスペースを考慮する必要があります。
また、抄録に限った話ではありませんが、図表がカラー写真の場合、抄録がモノクロ印刷される場合のことを考えて、新たに画像処理を加える必要があります。
例えば、折れ線グラフなどを入れる場合、モノクロで印刷されると白線と黄線の違いが分からなくなってしまいます。
この場合、線の形状を実線と点線にするなどの工夫を加えることが必要となります。
引用方法
ほかの文献から引用する際には、どこからが引用箇所なのかを明確にする必要があります。
また、引用した文献は、最後に参考文献として記載しましょう。
引用の仕方については、以下のページを参考にしてください。
「である」調・用言で終わる文を使う
抄録では「ですます」調ではなく「である」調で文章を書くようにすることが一般的です。
論文では、論理的かつ客観的な事実を記述しなければなりません。
「ですます」調は、丁寧な印象を与えることができる一方で、「である」調にあるような断定的で客観的な印象を与えることができません。
また、体言止めは極力避け、用言で終わる文を使うようにした方が良いです。
体言止めで書くと、文章と文章のつながりが分かりにくくなってしまい、読者に誤った解釈をさせてしまう可能性があるためです。
著者・共著者の名前は研究への貢献度順にする
著者が複数人いる場合、一般的に著者名は研究への貢献度順に記載します。
研究を主導した人を筆頭著者(first author)といい、一番最初に記載します。
著者・共著者の順番は非常に重要な問題です。
読者は、論文を読んだだけでは誰がどの程度その研究に貢献したのか分かりません。
そのため、例えば、医学系などのジャーナルでは、それぞれの著者の貢献度について具体的な説明が要求されることもあります。
具体例として、一般社団法人日本教育工学会の執筆の手引きには「共著で論文を投稿する場合の著者順は、投稿される論文内容に最も貢献した者を筆頭著者とする」という記載があります。
また、最も一般的な方式は、上記に説明したようなその研究に対する相対的な貢献度順ですが、大規模な共同研究がよく行われる物理学などの分野では、アルファベット順に著者・共著者を記載することもあります。
例えば、2015年5月14日にPhysical Review Letters誌に掲載された論文では、論文著者数は5,154人であり、著者名はアルファベット順になっています。
参考:一般社団法人日本教育工学会 (2016)「執筆の手引 _ 論文誌 _ 日本教育工学会(JSET)」
参考:G. Aad, et al. (2015)「 Combined Measurement of the Higgs Boson Mass in pp Collisions at s√=7 and 8 TeV with the ATLAS and CMS Experiments」
「謝辞」の欄を設ける
謝辞とは、指導や支援を受けた相手に対して感謝の意を示すために相手の名前を記載することです。
研究費の援助を受けた場合などは、抄録の最後に別途「謝辞」という欄を設け、後援者の名前を記載します。
謝辞の対象になるのは以下のような人たちです。
- 研究データを提供した個人や組織
- 研究設備を提供した個人や組織
- 研究資金の提供者
共著者として名前を記載するか、または後援者として謝辞の欄に名前を記載するかということに関して明確な規定はありません。
なお、卒業論文、修士論文、博士論文の場合、単一著者が基本であり、指導教員などの協力者は謝辞の欄に名前を記載します。
執筆後はチェックを依頼する
抄録を作成したあとは、共著者などの他の人に必ずチェックしてもらいましょう。
論文の内容を要約する中で、自分の研究内容が伝わりにくくなってしまっているかもしれないからです。
確認の意味も込めて、他の人にチェックしてもらうことは非常に大切です。
まとめ
最後にここまでの内容をまとめます。
- 抄録の構成は、一般的に「背景、目的、方法、結果、考察、結語」という6つの項目で成り立っている。
- ほとんどの場合、文字数制限またはページ数制限が設けられている。
- 引用をする際には細心の注意を払う。
- 「である」調と用言で終わる文を使う。
- 著者・共著者の名前は研究への貢献度順に並べる。
- 必要に応じて「謝辞」の欄を設ける。
抄録を書く際にはルールや注意点を守って書きましょう。
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