データで見る博士号取得者のキャリアチェンジ

博士の日常

はじめに

博士号を取得する方々の多くは、修士課程から博士課程を通じて培った専門性を活かしたキャリアを望まれることと思います。また、そのキャリアとして最も一般的だと信じられているのは、いまだに「大学などの教育機関や、公的研究機関」であることが多いのではないでしょうか。ただし、これらの機関で任期の無い職に就けるのは、残念ながら一握りの研究者に留まっています。多くの博士号取得者は、どこかのタイミングで「生きていくために」どのようなキャリアを歩むかを決断しなければならないときが来ます。

今回はNISTEPの博士人材追跡調査の報告書の一部を参照しながら、年齢と共に大学院生~博士号取得後の状況と、民間企業における年齢の扱いについてまとめます。あくまで、私の場合と私の周辺の方々の事例によるものではありますが、今後キャリアチェンジを検討しなければならない方々の一助になれば幸いです。

NISTEPとは?

■NISTEPとは?
「文部科学省 科学技術・学術政策研究所(NISTEP)は、国の科学技術政策立案プロセスの一翼を担うために設置された国家行政組織法に基づく文部科学省直轄の国立試験研究機関であり、行政ニーズを的確にとらえ、意思決定過程への参画を含めた行政部局との連携、協力を行うことが期待されています。」(出典:https://www.nistep.go.jp/about

NISTEPの報告書から分かること

まず、NISTEPの博士人材追跡調査について簡単に説明をしておきたいと思います。この調査では、2012年と2015年に博士号を取得した方々をそれぞれ対象として、同時期に調査を行っています。博士号取得後0.5年後と3.5年後、という表現が出てきますが、同一集団の0.5年後と3.5年後ではなく、別の集団になります。そのため、「同一集団の変化」と捉えることはできない、という点に注意しておきたいと思います。

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「博士号取得後0.5年」と「博士号取得後3.5年」

さて、この「博士号取得後0.5年」と「博士号取得後3.5年」がどういう時期かと言いますと、このような状況であることが想像されます(分野によって取得時の年齢は大きく異なりますので、あくまで一例として捉えて頂けたらと思います)。

■博士号取得後0.5年:博士号を取ったばかりで、ポスドクや研究員を始めて半年経ったくらいの時期。未来は概ね明るく、これから研鑽を積んで研究のキャリアを切り開いていこうという気概に満ちあふれている。ストレートで博士号を取得している場合、27~28歳くらい。

博士号取得後3.5年:博士号取得後そのまま学振PD(3年任期)を取っていた場合は、その任期が終わり次の職に就いて半年くらい経った頃。ほとんどの人がまだ任期付きの職に就いているが、そろそろ助教職などにトライしたいと考えている。ストレートで博士号を取得している場合、30~31歳くらい。

これらの状態をふまえてNISTEPの調査結果(図1-2)を見てみましょう。博士号取得後0.5年と3.5年の各タイミングにおいて、「自身のキャリア展望」について分野別に示したグラフです。0.5年後では、保健以外の全ての分野において「大学や研究機関で研究者として働きたい」と返答している層が7割を超えています。これは、先述の通り、これからキャリアを積んでいくことで最終的に安定したポジションに辿り着ける、だから辿り着きたい、という意気込みの表れであると言えます。

hirata01-博士人材追跡調査データ-半年後

図1. 博士修了から0.5年後の今後のキャリア展望について(年代別)
(科学技術・学術政策研究所(2018)『「博士人材追跡調査」第2次報告書』に基づきアカリクが作成)

hirata01-博士人材追跡調査データ-3年半後

図2. 博士修了から3.5年後の今後のキャリア展望について(年代別)
(科学技術・学術政策研究所(2018)『「博士人材追跡調査」第2次報告書』に基づきアカリクが作成)

では3.5年後の方はどうでしょうか。左端の「大学・研究機関で安定したポジション」を望む割合が全ての分野において増えています。この傾向は、「安定的なポジションにチャレンジするタイミング」であるから、と解釈が可能です。ただ、一部の分野(理学・農学・人文)では、「研究以外の仕事をしたい・研究以外の仕事でもよい」も微減している状態となっています。博士号取得後数年経ち、自分がどのようなキャリアを歩んでいくか、その可能性を考えた結果、これらの分野では「研究以外の仕事をする」という選択肢を取らない、あるいは取りたくないと感じる層が増えていることになります。また、これは「これまでこんなに頑張ってきたのだから、研究者としてのポジションを追求するべき」、といういわゆるサンクコストの呪縛に囚われている状況とみることもできます。

それでは、それぞれのタイミングで民間企業へのキャリアチェンジを考えた場合、企業側からはどのように見られるのでしょうか?

新卒とは

学部生の時に就職活動をされた方は、「新卒」についてご存じのことと思います。新卒とは、「教育機関を卒業して、就労経験が無い状態」を指します。そのため、新卒採用を行った企業は新卒社員に対して「仕事のイロハ」から教え込み、数年かけて仕事ができるように教育していきます。なお、大学院生でも卒業後すぐに就職した場合は新卒扱いとなり、仕事のやり方を一から学ぶことができます。また、分野的に経験が無くても厳しい目で見られないため、未経験で新しい分野に飛び込む場合でも、新卒としてであれば比較的入りやすい状態であると考えられます。何らかの理由で大学院を中退した場合であっても、新卒扱いとなります(中退の理由をしっかり説明できる必要があるかもしれません)。

ですので、博士号取得後すぐの27歳位であっても、新卒として企業に就職することは可能であると言えます。ただし、博士号取得者を受け入れたことのない企業に関しては、博士号について理解できず、「単に年を取っている未経験者」としか捉えられないため、メリットを感じられず採用しないところもあります。

ポスドクは実務経験無し、助教以上は実務経験有り

博士号取得後真っ先に研究者がキャリアとして選択する「ポスドク・任期付き研究員」ですが、残念ながらまだ企業が考える「実務経験」として捉えてもらえないことが多いように感じます(企業研究職は除く)。ですので、企業によっては前職がポスドク・研究員であっても新卒扱いとする場合と、中途扱いとする場合があります。これらの扱いの基準は企業の方針に依存しますので、一概に言えない部分があります。

なお、任期付きであっても、助教以上であれば、実務経験として認めてもらえる印象があります。そのため、助教以上の職位として雇用された経緯があれば、中途採用として企業に入ることになるかと思います。中途採用の場合は、新卒と異なり「これまでの経験を活かして、即戦力として能力を発揮する」ことが求められますので、どのようなことをしてきたのか、ということが問われます。また、仕事をする上での一般的なお作法は既に習得済みとみなされます。

なお、3.5年後で30歳前後の場合、同年代としては何回か転職を重ねてきた人達と同じ土俵で戦うことになりますので、これまでの研究経験をどのように「活かせるものとして語れるかどうか」が重要になります。

博士号取得後の進路を考える

研究者として生きていくとしても、民間企業へキャリアチェンジするにしても、一番のネックは「最初の就職先」を確保するところであると言えます。特にポスドクを長年継続してしまうと、最終的に大学や研究機関に着地できた場合は問題無いのですが、常勤として雇用されず、実務経験が無いまま年齢を重ねていくと、中途採用でアピールできる経験が積めないため、民間企業への転向も厳しくなってきます。

博士号取得も大切ではありますが、自分が本当に取り組みたいことは何か、そのために必要なのはどのようなキャリアなのか、そのようなキャリアを歩むためにはどの時期に意志決定をしなければならないのか、といったことも予め考えておく必要があります。そのために、「大学・研究機関しか眼中にない」という狭い視野を、早い段階から「それ以外の選択肢」にも向けておき、情報収集することで、自らの専門性を活かす道がたくさん見つかる可能性があります。

[文責・平田 佐智子(博士(学術))]

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