「電機メーカーに入れば勝ち組」と言われることがありますが、業界名だけで一律に判断することはできません。電機メーカーには重電、家電、情報通信機器などの異なる事業が含まれ、若手の賃金水準も学歴と事業区分によって変わるためです。
実際に25〜29歳の年収換算額を比べると、大学卒では情報通信機械器具製造業、大学院卒では電気機械器具製造業のほうが高くなっています。ただし、これらは産業全体の平均であり、個別企業の給与や働きやすさを示すものではありません。
この記事では、公的統計から確認できる就職者の内訳と若手の賃金水準をもとに、電機メーカーを一括りに評価できない理由と、企業ごとの条件を比較する方法について解説します。
1.電機メーカーを一括りに評価できない理由
電機メーカーという言葉は、重電や家電、情報通信機器を手がける会社をまとめた業界上の呼び名です。公的統計では1つの産業として扱われていないため、業界全体の就職者数や賃金を単一の数字では評価できません。2つの統計における区分の違いは以下のとおりです。
| 統計 | 電機に当たる区分 | 電子部品の扱い |
|---|---|---|
| 学校基本調査(産業別就職者数) | 電気・情報通信機械器具製造業の1区分 | 電子部品・デバイス・電子回路製造業として別区分 |
| 賃金構造基本統計調査(産業中分類) | 電気機械器具製造業と情報通信機械器具製造業の2区分 | 電子部品・デバイス・電子回路製造業として別区分 |
電機に当たる区分は統計によって1つにも2つにも分かれる
学校基本調査の産業別就職者数では、製造業の内訳として電気・情報通信機械器具製造業という1つの区分で集計されています。同じ範囲は、賃金構造基本統計調査の産業中分類では電気機械器具製造業と情報通信機械器具製造業の2つに分かれます。集計の粗さが違うので、就職者数を調べるときと賃金を調べるときでは、確認する表も区分の名前も変わると考えてください。
出典:文部科学省「令和7年度学校基本調査 卒業後の状況調査 産業別就職者数」
出典:厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査 一般労働者 産業中分類 第1表 年齢階級別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(E 製造業)」
電子部品はどちらの統計でも電機とは別に集計されている
電子部品・デバイス・電子回路製造業は、就職者数の表でも賃金の表でも、電機とは別の区分として置かれています。電気・情報通信機械器具製造業の就職者数にも、電気機械器具製造業と情報通信機械器具製造業の賃金にも、電子部品を主とする会社の分は入っていません。志望先が電子部品や電子デバイスを主とする会社であれば、同じ表の別の区分を確認することになります。
同じ電機メーカーでも参照する賃金は異なる
電機メーカーと呼ばれる企業でも、主力事業が違えば参照する賃金の区分も変わります。異なる区分の平均を混ぜてしまうと、志望企業に近い待遇水準を確認できません。
日本標準産業分類では、電気エネルギーの発生や利用を行う機械器具が電気機械器具製造業に置かれ、冷蔵庫や洗濯機などの民生用電気機械器具もここに含まれます。テレビなどの映像・音響機械器具と、通信機械器具、電子計算機は情報通信機械器具製造業のほうです。
志望企業の主力事業を確認したうえで、どちらの区分の賃金を参考にするかを決める必要があります。この区分が異なる以上、「電機メーカー」という名称だけでは待遇の優位性を判断できません。
出典:総務省「日本標準産業分類(令和5年7月改定) 製造業 電気機械器具製造業」
出典:総務省「日本標準産業分類(令和5年7月改定) 製造業 情報通信機械器具製造業」
会社の例で見ると区分は社名ではなく主な製品から見当をつける
2026年に提出された有価証券報告書の事業の内容をもとに、規模や知名度ではなく主な事業で2つの区分に当てはめた会社の例は、次の表のとおりです。
| 区分 | 会社 | 主な事業 |
|---|---|---|
| 電気機械器具製造業 | 明電舎 | 電力インフラ、社会システム、産業電子モビリティなどの事業 |
| 情報通信機械器具製造業 | アイコム | 陸上業務用・アマチュア用・海上用などの無線通信機器 |
| 情報通信機械器具製造業 | セイコーエプソン | プリンターを扱うプリンティングソリューションズ事業が主力 |
明電舎が電気機械器具製造業に、アイコムが情報通信機械器具製造業に当たると見込まれるのは、主な製品である電力の設備と無線通信機器が、それぞれの区分に置かれる機械器具に当たるためです。セイコーエプソンの主力であるプリンターは、家電と同じ電気製品に見えても、電子計算機の附属装置である印刷装置として情報通信機械器具製造業に分類されています。
使用する区分は、社名の印象ではなく主な製品から見当をつけるのが基本です。志望先も、有価証券報告書の事業の内容で主な製品を確かめれば、同じ手順で判断できます。
出典:株式会社明電舎「有価証券報告書 第162期(自 2025年4月1日 至 2026年3月31日)」
出典:アイコム株式会社「有価証券報告書 第62期(自 2025年4月1日 至 2026年3月31日)」
出典:セイコーエプソン株式会社「有価証券報告書 第84期(自 2025年4月1日 至 2026年3月31日)」
出典:総務省「日本標準産業分類(令和5年7月改定) 製造業 情報通信機械器具製造業 電子計算機・同附属装置製造業 印刷装置製造業」
2.就職者の内訳から分かるのは応募先との接点である
就職者の学歴と専攻は、志望する業界と自身の経歴にどの程度の接点があるかを考える材料になります。一方、就職者数が多くても、企業の待遇がよいことや選考に通りやすいことを意味するわけではありません。令和7年3月卒で電気・情報通信機械器具製造業へ就職したのは、学部5,883人、修士課程4,070人、博士課程203人でした。
学歴段階ごとの内訳は、主な関係学科で見ると次のようになります。
| 学歴段階 | 人文科学 | 社会科学 | 理学 | 工学 | 計 |
|---|---|---|---|---|---|
| 学部 | 734人 | 2,134人 | 183人 | 2,092人 | 5,883人 |
| 修士課程 | 19人 | 114人 | 315人 | 2,965人 | 4,070人 |
| 博士課程 | – | 5人 | 27人 | 130人 | 203人 |
学部で入る人のおよそ半分は人文科学と社会科学である
学部から電気・情報通信機械器具製造業に就職した5,883人のうち、およそ半分は人文科学と社会科学の出身です。人文科学734人と社会科学2,134人を合わせた2,868人を5,883人で割ると約49%で、工学の2,092人は約36%です。
学部段階では、専攻の異なる人が1つの区分にまとめて集計されています。ただし学校基本調査は職種別に分かれていないため、この割合から技術職の枠の大きさは読み取れません。
出典:文部科学省「令和7年度学校基本調査 卒業後の状況調査 産業別就職者数」
修士課程では理学と工学で8割を超える
同じ区分でも、修士課程では専攻の構成が入れ替わります。修士課程から就職した4,070人のうち、理学315人と工学2,965人を合わせると3,280人です。全体に占める割合は約81%で、工学だけでも約73%となっています。修士課程では、理学と工学の出身者が中心です。
出典:文部科学省「令和7年度学校基本調査 卒業後の状況調査 修士課程の産業別就職者数」
博士課程は人数が少なく修士課程と同じ形では読み取れない
博士課程から電気・情報通信機械器具製造業に就職したのは203人で、このうち工学は130人、割合にすると約64%です。学部の5,883人や修士課程の4,070人と比べると規模が小さく、数人の増減でも割合が変わります。工学の割合は修士課程のほうが高く、学歴段階が上がるほど専門の比重が高まるという形にはなっていません。
出典:文部科学省「令和7年度学校基本調査 卒業後の状況調査 博士課程の産業別就職者数」
研究で扱ってきた対象から技術系の職種を絞る
学歴段階ごとの内訳は専攻では分かれていても職種では分かれていないため、入社後に技術系として何を受け持つかは、職種ごとに確認する必要があります。電機メーカーの技術系の主な職種と、それぞれが受け持つことは以下のとおりです。
- 回路設計:機器に載せる基板の電子回路や電源・モーター駆動の回路を設計し、部品を選んで試作機で動作を確かめる
- 組込みソフトウェア開発:製品の中のマイコンで動く制御のプログラムをつくる
- 機構設計:筐体と内部の構造、可動部、放熱を設計し、強度や組み立てやすさを詰める
- システムエンジニア:発電や送配電の設備、通信網のように複数の機器を組み合わせる設備を顧客の条件に合わせて設計し、要件の整理から据え付け後の保守まで関わる
- 生産技術:量産に向けて組立と検査の工程を設計し、設備の導入や改善を進め、設計部門と工場をつなぐ
- 品質保証:完成品の評価の基準と試験方法を決め、出荷後に不具合が出たときは原因を調べて再発を防ぐ
回路を扱う研究は回路設計、制御のプログラムは組込みソフトウェア開発というように、研究対象との接点から職種を絞れます。ただし、学校基本調査では企業ごとの募集職種や配属先までは確認できません。希望する職種を実際に募集しているかは、志望企業の採用情報で確かめる必要があります。
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3.若手の賃金は学歴と事業区分によって結果が変わる
若手の賃金水準は、学歴と事業区分をそろえて比較する必要があります。ここでは、大学卒と大学院卒それぞれの25〜29歳と30〜34歳について、電気機械器具製造業と情報通信機械器具製造業の金額を比較します。
月額と年間賞与を同じ条件で比較する
きまって支給する現金給与額は、残業代を含む月額です。年間賞与その他特別給与額は、前年1年間に支払われた賞与などの合計を指します。この記事では、月額に12を掛けて年間賞与を加え、年収に換算しました。統計に掲載された年収ではなく、同じ条件で比較するための計算値です。
大学卒と大学院卒では高い区分が入れ替わる
年収に換算してそろえると、大学卒では情報通信機械器具製造業が高く、大学院卒では電気機械器具製造業が高くなります。
| 区分 | 学歴 | 年齢階級 | きまって支給する現金給与額 | 年間賞与その他特別給与額 | 年収換算 |
|---|---|---|---|---|---|
| 電気機械器具製造業 | 大学 | 25〜29歳 | 約31.1万円 | 約95.0万円 | 約469万円 |
| 電気機械器具製造業 | 大学 | 30〜34歳 | 約35.2万円 | 約120.0万円 | 約542万円 |
| 電気機械器具製造業 | 大学院 | 25〜29歳 | 約37.1万円 | 約133.2万円 | 約578万円 |
| 電気機械器具製造業 | 大学院 | 30〜34歳 | 約44.3万円 | 約180.3万円 | 約712万円 |
| 情報通信機械器具製造業 | 大学 | 25〜29歳 | 約33.2万円 | 約102.7万円 | 約501万円 |
| 情報通信機械器具製造業 | 大学 | 30〜34歳 | 約37.1万円 | 約117.5万円 | 約562万円 |
| 情報通信機械器具製造業 | 大学院 | 25〜29歳 | 約37.6万円 | 約94.1万円 | 約545万円 |
| 情報通信機械器具製造業 | 大学院 | 30〜34歳 | 約42.5万円 | 約158.8万円 | 約669万円 |
25〜29歳では、大学卒は情報通信機械器具製造業が約32万円高く、大学院卒は電気機械器具製造業が約33万円高くなっています。30〜34歳でも、大学卒は情報通信機械器具製造業、大学院卒は電気機械器具製造業のほうが高い結果です。どちらか一方の区分が、すべての学歴で一貫して高いわけではありません。学歴をそろえずに比較すると、待遇の見方を誤る可能性があります。
出典:厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査 一般労働者 産業中分類 第1表 年齢階級別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(E 製造業)」
産業平均だけでは個別企業の待遇を判定できない
表の数値は、民営事業所で働く一般労働者について、男女計・企業規模計(10人以上)で集計した産業平均です。特定企業の初任給や若手社員の年収を示すものではありません。電機メーカーの賃金水準は学歴と事業区分によって異なると確認できますが、この表だけで個別企業の待遇の良し悪しまでは判定できません。
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4.就職者数の多さは高待遇や入りやすさを意味しない
就職者数は、その産業へ実際に進んだ人の規模を示す数字です。採用倍率や給与、働きやすさを表すものではないため、人数だけで企業や産業の優劣は判断できません。令和7年3月に修士課程を修了した人の就職者数は、以下のとおりです。
| 産業区分 | 就職者数 | うち工学 |
|---|---|---|
| 電気・情報通信機械器具製造業 | 4,070人 | 2,965人 |
| 情報通信業 | 9,112人 | 4,998人 |
| はん用・生産用・業務用機械器具製造業 | 3,881人 | 2,842人 |
| 輸送用機械器具製造業 | 3,831人 | 3,070人 |
工学系の進路は電機メーカー以外にも広がっている
修士課程から情報通信業へ就職したのは9,112人で、電気・情報通信機械器具製造業の4,070人を上回ります。情報通信業のうち工学は4,998人、理学は1,048人でした。学部でも情報通信業へ52,592人が就職し、そのうち工学は10,700人です。工学系の進路は、電機メーカー以外にも広がっています。
出典:文部科学省「令和7年度学校基本調査 卒業後の状況調査 修士課程の産業別就職者数」
出典:文部科学省「令和7年度学校基本調査 卒業後の状況調査 産業別就職者数」
製造業の中にも同程度の就職先がある
はん用・生産用・業務用機械器具製造業と輸送用機械器具製造業は、修士課程の就職者数でも工学の人数でも電機と近い規模です。同じ工学系の専門を活かせる進路は、複数の製造業に分かれています。就職者数の多さだけを電機メーカー固有の強みとは捉えず、仕事内容や待遇も含めて比較する必要があります。
出典:文部科学省「令和7年度学校基本調査 卒業後の状況調査 修士課程の産業別就職者数」
就職者数は選考難易度や待遇を示さない
これらの人数は、実際に就職した人を数えたものであり、応募者数や採用倍率ではありません。人数が多い産業ほど選考に通りやすいとは限らず、給与や勤務条件が優れているとも判断できません。就職者数は、同じ専攻から進める産業の範囲を確認する材料として使うのが適切です。
5.個別企業の評価には有価証券報告書と採用情報を使う
産業平均だけでは、志望企業の待遇や経営状況は判断できません。有価証券報告書では主力事業や業績、平均年間給与を確認し、採用ページや募集要項では新卒向けの給与と勤務条件を調べます。同じ項目を同業他社と比較することで、企業ごとの違いが見えやすくなります。
有価証券報告書は金融庁のEDINETで確認できる
有価証券報告書は、金融庁が運営する電子開示システムのEDINETで閲覧できます。志望企業の書類を探す手順は、以下のとおりです。
- 社名で検索する
- 書類の種類を有価証券報告書に絞る
- 表紙の事業年度で直近の1冊を選んで内容を確認する
決算期と提出時期は会社によって異なります。表紙に記載された事業年度を確認し、直近の書類を選びましょう。有価証券報告書には、従業員の状況、事業の内容、セグメント情報などが掲載されています。
平均年間給与は新卒の給与ではない
有価証券報告書の平均年間給与は、提出会社に所属する全従業員の平均です。新卒から定年間近の従業員まで含まれるため、新卒社員の年収とは一致しません。持株会社の場合は、本体に所属する従業員だけで集計されていることもあります。平均年間給与だけで新卒の待遇を判断せず、募集要項に記載された初任給や賞与も確認する必要があります。
主力事業と業績の推移を確認する
「事業の内容」とセグメント情報では、企業が手がける製品や事業別の売上構成を確認できます。売上や利益は1年分だけで判断せず、複数年度の推移を比較することが重要です。ただし、業績の増減には一時的な要因も影響するため、短期間の変化だけで安定性を断定することはできません。主力事業と業績の推移を、企業を比較する材料の一つとして扱いましょう。
初任給と勤務条件は採用情報で比較する
新卒向けの給与や勤務条件は、採用ページや募集要項で確認します。比較する項目は、初任給、賞与、年間休日、勤務地、転勤の有無などです。残業時間などが公表されている場合は、給与とあわせて確認すると働き方を把握しやすくなります。同じ年度の募集要項を使い、条件をそろえて比較しましょう。
6.「電機メーカーは勝ち組か」を確認・判定する方法
就職活動で使われる「勝ち組」は、一般に給与や経営の安定性、勤務条件などが他社より優位な企業へ就職することを指す表現です。ただし、公的な定義や一律の判定基準はありません。企業名や単一の数値だけで判断せず、次の3点を同じ条件で比較する必要があります。
- 若手の賃金:自分と同じ学歴・年齢階級の産業平均を、他の志望業界と比較する
- 企業の状況:有価証券報告書で主力事業、売上や利益の推移、平均年間給与を確認する
- 新卒の条件:募集要項で初任給、賞与、年間休日、勤務地などを同業他社と比較する
この記事で確認した範囲では、大学卒と大学院卒で年収換算額が高い事業区分が入れ替わっています。また、就職者数から企業の待遇や選考難易度は判断できません。そのため、電機メーカー全体を一律に評価するのではなく、企業ごとに複数の条件を比べる必要があります。
複数の項目で同業他社より良好な条件を確認できた場合に、相対的に条件のよい企業だと評価できます。
7.まとめ
電機メーカーでは、大学卒と大学院卒で年収換算額が高い事業区分が入れ替わり、業界名だけでは待遇の良し悪しを決められません。「勝ち組」を給与、経営の安定性、希望する働き方がそろう就職先と考えるなら、EDINETで主力事業と複数年度の業績を確認し、採用ページで初任給や勤務地などを比べる必要があります。自分が重視する条件を先に決め、その条件を満たす企業かどうかで判断しましょう。










