サイエンティストに必要なのは、自分の好奇心を磨くこと(2) #AJ出張版

Acaric Journal
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前回の記事「サイエンティストに必要なのは、自分の好奇心を磨くこと(1)」はこちら

ー 周りの大学院生やポスドクの進路について、この十数年で変化は見られるでしょうか

 大きな変化は感じていません。もちろん一般論として経済状況が悪いと学生の判断が保守的になる傾向はあるけど、本質は変わらないと思います。安定志向の学生はどんな時代にもいて安定を選びますし、アカデミアという茨の道を選びたい人は時世がどうであれ結局は茨の道を選んでいます。それでも、うちの研究室のメンバーはやっぱり研究が好きな人が多いかな……アカデミアに限らず企業も含めて研究をやりたいという人が多いです。共同研究等で付き合いのある企業は医薬系や化学系にあるので、そのような分野の企業にも進むケースがあります。ただ、それ以外にも官庁やメディア系にも進んでいます。

 アカデミアと企業のミスマッチは、大学でやっている研究のスキルが必ずしも企業で汎用性の高いものでなかったりとか、先進すぎて使えないとかというところはあります。でも、企業が新しいプロジェクトで新しい技術の導入が必要というケースでは、すごく上手くマッチングすると思います。さらには、プロジェクトを立案しマネージングした経験があると、その後の企業での活躍につながる可能性が高いと感じています。

ー 博士課程やポスドクはマネージメント能力の重要性が高いのですね

 学位を持つ研究者には、特に工学系の場合、単に一研究者だけにとどまらず、マネージャーとして組織を牽引する能力も求められているのではないでしょうか。私の研究室は工学系に属しているので、メンバーには「自分が経験したり会得したことしか管理できないようではダメだよ、自分自身が経験していない技術や概念を含めてプロジェクトを管理できなきゃダメだ」と言っています。

 その第一歩は、自分自身の研究テーマをマネージメントすることです。修士は実験ができるプレーヤーだけではなく、自分の研究をどう進めるのか管理できる自分自身のマネージャーになることを目標にしなきゃいけない。つまり、卒業までには教員に指示を仰ぐことなく自分の判断で研究を進められなきゃダメということです。

 博士課程の学生には、さらにプロジェクト自体の立案とその戦略策定が求められます。そのとき、できれば周りの学生や研究者を巻き込んでグループのマネージングの基礎的なことを経験できると良いですね。

 ポスドクは、同様の能力がさらに高いレベルで求められます。助教や講師はいわゆるプレーイングマネージャーです。関連する研究テーマのメンバーを束ねて全体を効率的に管理する能力が問われます。准教授からは、半ば独立した組織を形成して管理してもらい、研究予算的にも独立できることを要求します。そのため、研究室の各メンバーに要求する内容は、それぞれ異なります。マネージャーとしての能力は、そういう場を与えると開花しやすいですね。そこはかなり意識しています。

ー 最後に学生に向けたメッセージをお願いします

 最も重要なのは好奇心だと、もう一度強調したいです。大学院生なら自分がやりたいことをちゃんと把握してください。「成功すること」自体が目的の人は、少なくともサイエンティストとしては大化けしません。コアになる好奇心がある人の研究が面白い。そういう人は、成功させるための戦略に集中して、失敗しても予想外の発見から新しい芽を見つけてきて、結局は何か面白いことを達成します。

 これは企業でも同じではないでしょうか? 失敗しない選択肢ばかりを選ぶ人よりは、何か実現したいという思いがある人の方が、周りを巻き込んでプロジェクトを推進する力が強く、当初の目標が達成できなくても、面白いことに繋がっているのではないかと思います。

 何かやりたい事や実現したいことがあったら、ぜひ大事にして欲しいです。

プロフィール(インタビュー当時)

野地  博行 氏

1969年北海道生まれ。1997年東京工業大学大学院総合理工学研究科博士課程修了。博士(理学)。2000年科学技術振興事業団さきがけ研究員。2010年東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻教授。2015~2020年革新的研究開発推進プログラムImPACTプログラム・マネージャー。おもな研究テーマは、1分子生物物理学・デジタルバイオ分析法・人工細胞リアクタ。

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