【株式会社hoppin 滝沢頼子氏】中国自動運転事情 ―躍進する中国の自動運転事業―(1)

インタビュー

「AJ出張版」は、株式会社アカリクが発行する「大学院生・研究者のためのキャリアマガジン Acaric Journal」の過去の掲載記事や、WEB限定の新鮮な記事をお送りするカテゴリです。今回はvol.3の掲載記事をお届けします。

自動運転技術に対して、世界各国が積極的に取り組む中、実用化に関して一歩先を進んでいるのが中国です。実証実験も各地で行われており、一般市民にとっても自動運転車が身近な存在になっています。中国の自動運転事情について、長らく現地の状況をみてこられた滝沢様にご寄稿いただきました。

 自動運転の開発・実用化が進む中国。各社の公道走行を合算した総走行距離は、2018年に約15万キロ、2019年に約89万キロ、2020年に約117万キロと、ここ数年で急速に伸びている。

 その中でトップを走るIT大手の百度(バイドゥ)は、早くから自動運転の研究・実験を行い業界を引っ張ってきた。2021年5月からは、中国初の無人での自動運転タクシーを有料で一般客に提供開始している。また近年は、百度以外の企業もスタートアップ中心に積極的に自動運転の開発を進め、各地で実証実験が行われている。本記事では、中国で開発が進む自動運転技術の具体的な事例を紹介していく。

百度(バイドゥ)が牽引する中国の自動運転、すでに有料・無人でのサービス化も

 中国の自動運転を引っ張る企業が、検索エンジンで有名なIT大手の百度(バイドゥ)だ。

 百度は2013年から自動運転の研究開発を開始。2017年には政府の後押しも受け、自動運転プロジェクトの「アポロ計画(Project Apollo)」を発表。これは自動運転車の開発や実用化に向けて、ソフトウェアの情報技術をオープン化したプラットフォームを作るプロジェクトで、発表から1年の間に中国の自動車メーカーのほか、トヨタやホンダ、フォード、BMW、ボルボなどの大手メーカーやサプライヤー、半導体メーカーなど100社以上の企業が参画するものとなった。

 一方で上記のような企業間連携とは別に、百度は単体の企業としても中国政府から強力な後押しを受け、2019年頃から自動運転車の開発や実証実験に本格的に取り組んできた。  2020年末時点で百度の自動運転サービスの乗客はのべ21万人を超えている。

 そして2020年4月から、百度は中国で初めて一般の利用者を対象にした自動運転タクシーの試験サービスを各地で開始。このときは、無料かつ運転席にセーフティドライバー(緊急時に対応するドライバー)が同乗するというものだったが、実証実験を重ね、2021年5月からはついに運転席無人の自動運転タクシーサービス「Apollo Go」を北京で開始している。 「運転席無人」の自動運転タクシーサービスを「有料で」提供するのは、百度が中国で初だ。

 現在サービスが提供されているのは、北京の首鋼園エリア。2022年冬季オリンピック組織委員会と一部の競技会場があるエリアだ。1回の料金は30元(約500円)で、会場エリア、駐車場、カフェ、ホテルなど乗降ポイントがある場所を指定して乗車する形で、まだ普通のタクシーのように、好きな場所を指定しどこにでもいける、という段階には至っていない。

Apollo GO(出典:Apollo GOのWeChat公式アカウント)

Apollo GOアプリ(出典:Apollo GOのWeChat公式アカウント)

Apollo GOアプリ(出典:Apollo GOのWeChat公式アカウント)

 どんなときでも安全に乗客を目的地に運ぶために、百度の自動運転タクシーは、5Gを使って走行状況や車載カメラの映像、各種センサーのデータをリアルタイムで監視している。そして例えば交通規制や通行止めなどのイレギュラーな状況が発生し、自動運転のみでは対処しきれない場合は人間の遠隔操作でタクシーを誘導する仕組みが備えられている。遠隔操作のためには大量のデータのやりとりが必要になるため、通信システムは4Gではなく5Gであることが必要だという。北京ではすでに5Gが張り巡らされているからこそ、実現できることだ。

 今まではあくまで「実験」という色合いが強かった自動運転技術だが、自動運転車の技術と5Gの社会インフラの整備によって、いよいよ実用化されてきていると言えるだろう。現在の運行エリアが2022年冬季オリンピックの競技会場がある場所であることを考えると、選手や観客の移動にも自動運転が使われることを想定している可能性も高い。

 また百度の自動運転はタクシーにとどまらない。最大19人乗りの自動運転バスの開発にも取り組んでおり、既に重慶のテストルートで乗客を乗せた、自動運転レベル4(0〜5の6段階に分けられた自動運転レベルのうちの5段階目にあたるレベル)で実証実験を行っている。こちらも緊急時対応用のセーフティドライバーを乗せずにリモート監視で運行され、山岳地やトンネル、橋、高架高速道路などを含む道路を自動走行している。

百度の自動運転バス(2018年筆者撮影)

百度の自動運転バス(2018年筆者撮影)

 ちなみに筆者はおよそ3年前の2018年の12月に北京で実験段階の百度の自動運転バスに乗ったことがある。その時点では大きな公園の敷地内を「歩いたほうが早い」くらいのスピードでゆっくり走るもので、車内にはスタッフが2名がいて異常がないか、乗客が立ち上がったりしないか目を光らせていた。そのときのことを思い出すともはや隔世の感がある。

筆者プロフィール

株式会社hoppin 代表取締役
滝沢  頼子 氏

東京大学卒業後、株式会社ビービットに入社し、UXコンサルタントとして大企業を中心に多くの企業を支援。上海オフィスの立ち上げ期メンバー。その後、上海のデジタルマーケティング会社を経て、東京にてスタートアップへ。2019年に株式会社hoppinを創業。中国視察ツアー(休止中)、中国に学ぶUX研修/講演/勉強会、中国市場リサーチ、UXコンサルティングなどを行なっている。

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