「AJ出張版」は、株式会社アカリクが発行する「大学院生・研究者のためのキャリアマガジン Acaric Journal」の過去の掲載記事や、WEB限定の新鮮な記事をお送りするカテゴリです。今回はvol.4の掲載記事をお届けします。
株式会社 金太郎Cells Powerは、骨髄由来の間葉系幹細胞「金太郎細胞®」の研究開発企業として、再生医療の普及を目指しています。再生医療が私たちの暮らしに身近になると、どのような社会が実現するのでしょうか。創業者であるグラドコフ氏が見据えるビジョンについて話を伺いました。
━ 社名の由来について教えてください
現在の日本の再生医療産業は、150年前の自動車産業と同じような状況と言えます。今や自動車といえば、様々なメーカーや車種があることを消費者は当たり前に認識しています。再生医療業界では、バイオベンチャーのほとんどが研究レベルに留まっていて、我々のような細胞の製造者や製品をエンドユーザーである患者さんが知るほどの市場がまだありません。弊社は、ソ連とロシアでの50年以上に及ぶ幹細胞培養技術の実績を更にブラッシュアップしながら、日本よりも再生医療に関する環境が整っている東南アジアで営業をスタートしました。この先、日本の再生医療産業の市場が発展するとともに、製品の特徴やネーミングは必ず重要になると感じ、「若々しく力強いイメージ」を持ち、日本人であれば誰でも知っている昔話の「金太郎」から「金太郎細胞®」と名付けました。製品名にあわせて、社名も「Cells Power」から「金太郎Cells Power」に変更しました。
この名前をつけた時、一部の人から「バイオ企業なのに、『金太郎』という名前をつけるなんて…」と笑われましたが、最近はこの名前の素晴らしさを分かってくれる人が増えてきました。日本で開発されている他の多くの製品は、難しくて分かりづらい名前ばかりです。市場が成長し、製品がエンドユーザーに近づくにつれて、ネーミングが大切になることが徐々に理解されてきたようです。現在は、日本や東南アジアの再生医療従事者で「金太郎細胞®」の名前を知らない人はほとんどいないまでに浸透しています。
弊社は当初、海外に向けて仕事をしていたこともあり、Made in Japan をわかりやすく打ち出す必要がありました。そうした中で「金太郎=KINTARO」の響きは、世界のどの国の人々にも日本を連想させる不思議な音感パワーを持っていました。また、金太郎から連想される「若さ、元気、力持ち、人にも動物にも優しい」などの要素は、再生医療のテーマにも適していて、とても良い名前だと誇りを持っています。
━ 「金太郎細胞®」について教えてください
ヒトの骨髄由来の間葉系幹細胞の1種です。「金太郎細胞®」の特徴の1つは、若いドナーの幹細胞だけを使用していることです。しかも、1製品=1人のドナーなのでトレーサビリティの観点からも非常に安心・安全です。他社の幹細胞製品は、様々な年代、人種や性別のドナーの骨髄を混ぜ合わせて製造されています。我々はこれまでの研究で、若いドナーの幹細胞が非常に高い効果を発揮するという知見を得ていたため、若いドナーの活発な幹細胞だけを使った製品を作っています。また、1度の投与に使用する細胞の数も、他の製品と比べると2倍であることも特徴です。弊社の「金太郎細胞®」は、すでに日本国内の特許を4つ取得しており、その特許取得済みの細胞培養方法を用いて製造されています。
━ どのような効果が期待できるのでしょうか
「金太郎細胞®」は特定の疾患に対して作用するのではなく、多くのエイジングケア効果が表れます。間葉系幹細胞は、若い時は体内でたくさん作られて血液中に流れています。これは、再生力を高めて新しい血管を作ったり、血管をきれいにしたり、血流もよくするなど、多くの効果を持っています。ですので、投与することによって様々な病気や症状に効果をもたらすのですが、我々は治療ではなく予防医学の観点からアプローチしています。40歳を超えた頃から金太郎細胞®を定期的に投与することで、元気な人でも病気やがんのリスクがなくなったり、脳が若返るため精神的に元気になったり、美容の効果もあります。我々は他の企業と異なり、臨床治験や個々の病気に対する効果検証を実施するつもりはありません。膨大な予算と時間がかかり、社会実装が遠ざかってしまうので、病気の治療ではなく疾病予防および健康増進という目的で行っています。これは東洋医学の漢方の考え方に非常に近いと考えています。
━ 「金太郎細胞®」はどのように投与するのでしょうか
点滴です。「金太郎細胞®」が血管に入ると、炎症や損傷している部位から出る特別な信号を感知して、そこに流れ込みます。この投与方法は世界共通です。高い金額を支払ってハイテクの治療を受けようといらっしゃった患者の方々が、ただの点滴設備を見て拍子抜けするケースも多いです。医師の腕は全く関係なく、製品の中の細胞の質や量に関わる製造の技術が効果を左右するのです。
━ これまでどのような道を歩まれてきたのでしょうか
ソ連に24歳までいました。大学では哲学を学び、大学卒業後はロシアアカデミーで先生をしていました。しかし、ソ連が崩壊したことで社会主義から資本主義になり、アカデミーの給料では生きていけなくなりました。もともと日本語を勉強していたため、それを活かして貿易のビジネスやソフトウェア開発を手がけて、ある程度成功しました。その後、一生涯のビジネスといえるような再生医療に出会いました。
48歳の時に突然心不全になって仕事ができなくなった時、そこで私の人生は一度終わっています。モスクワの研究所で再生治療の話を聞いて、50年以上の歴史と多くの実績があることを知り、実際に骨髄由来の間葉系幹細胞を投与して回復したのです。当時の状態から考えると信じられないくらい、今はすっかり健康になりました。半年に一度はメンテナンスとして「金太郎細胞®」を投与しているので、30年前よりも今の方が元気で、妻も驚いています。今年で56歳になりますが、100歳まで楽しく過ごすことを考えると毎日が明るいです。皆様にも同じように元気になって欲しいですし、社会的に大きな力がある技術だと思っています。
━ 今後の展望を教えてください
「金太郎細胞®」の製造者として、病院やクリニックに多くの製品を提供していきたいです。法律の問題や業界の理解を醸成する必要はありますが、最も重要な課題は、「細胞の手作りから脱却して、全自動での細胞製造」を可能にすることです。再生医療が登場してから随分経ちましたが、まだ社会にほとんど浸透していません。いち早く社会に普及させるためには、国際的な品質基準を守りながら大量生産することが不可欠なのです。
製造現場では研究者が顕微鏡を見て判断しているのですが、映像解析はAIが最も得意な分野なので、AIが判断できるようにしようと考えています。うまくいけば、全自動のロボット工場の実績を作って、アジア中に「工場も含めたソリューション」として販売したいと考えています。40歳以上の成人に製品が行き渡れば、社会は劇的に変わります。既にアプローチは揃っていますので、必ず達成できます。
━ 医療費が減っていく未来も見えそうですね
おっしゃる通りです。日本の医療費は社会保障費全体の4割程を占めますが、その結果国民が元気になっているのでしょうか。先週出席したセミナーで、安倍元首相が「仕事を続けたい高齢者は海外では3割だが、日本では7割いる」という面白いことを話していました。とても素晴らしい話ですが、働きたいという意思があっても身体面で問題が発生します。そのような方々が「金太郎細胞®」の投与を受けることで、元気に仕事ができます。高齢化社会だからといって、海外から労働力を輸入する必要もなく、この国独自の素晴らしさを守ることができます。世界的に見ても、安全性やサービスなどの水準がここまで高い国は、日本以外にありません。骨髄由来の間葉系幹細胞である「金太郎細胞®」の普及は、これから国内で懸念されるさまざまな問題を解決し得るソリューションになります。
━ どのような人材を求めていますか
様々なジャンルの人材を求めています。まずは、細胞の培養に携わった経験があって、いわゆる「ピペド」的な作業にストレスを感じない人です。次に、工学機械関係の人材です。細胞製造の全自動化に向けて、専用のロボットアームの製造開発およびメンテナンスは重要になります。また、AIに詳しい専門的な人材も求めています。一般的なプログラマーの場合は、日本よりもコストが安い海外の人材を起用しますが、全体のコーディネートやマネジメントを行う人材は、日本の方が必要です。医療関係者も歓迎しています。若い医師や薬剤師、あるいは大学での研究で医療分野に携わっていて、新しい分野にチャレンジしたいと思っている方をお待ちしています。皆を元気にしたいという思いに共感してくれる人は大歓迎です。
━ 読者にメッセージをお願いします
日本の大学や研究はすごいと言われてきましたが、はたして今の世界に影響を及ぼしているでしょうか。大学は、研究するだけでなくもう少し社会的に役に立たなければいけないと思います。昔の日本は、自動車産業で帝国を築いていましたが、今は見る影もありません。次の競争における日本のキーポイントは「作業の細かさ」だと思っています。細胞製造産業は、細かな手作業が得意な日本人の特性に向いています。また、世界的に見るとMade in Japanの持つ信頼性は非常に高いです。特に、身体に直接触れたり取り入れたりするような医療業界では、信頼性の高さはとても大事なポイントです。再生医療は日本の将来にとって非常に高い価値を秘めているのです。
※本記事は株式会社 金太郎Cells Powerの協力のもと、作成いたしました。
※「金太郎細胞®」「KINTARO Cells®」として日本国内で商標登録済みです。
プロフィール(取材当時)
Alexei Gladkov (グラドコフ・アレクセイ) 氏
株式会社金太郎Cells Power 代表取締役。日本やシンガポールを中心に貿易、国際医療観光、ソフトウェア開発などのビジネスを手がけるも心不全を患い引退を余儀なくされる。骨髄由来の間葉系幹細胞による治療を受け回復し効果を実感。2011年、シンガポールに「Cells power」を開設。2014年、株式会社 金太郎Cells Power(本社:東京)を設立し、「金太郎細胞®」の研究開発および社会への普及・啓蒙活動にも尽力している。