今回は「学際的研究」について、基本的な内容から知りたい方に向けた記事になります。
現在、注目を集めている「学際的研究」という言葉を耳にしたことはありますか?
学際的研究とは、複数の学問分野を超えて研究を行うことです。
基礎研究であれば、単一の分野(医学、理学、工学、生物学、心理学、経営学等)で完結することができます。
しかし、何かの課題を解決しようとする場合、ときに専門領域を超えて知恵を集める必要があります。
この記事を通じて、学際的研究に関する基本的な知識を学んでいきましょう。
最後までお読みいただければ幸いです。
学際的研究とは
はじめに、学際的研究(あるいは、学際研究)とはどういったものなのかについて紹介します。
学際的研究とは、単独の学問分野では解決が困難な研究領域に対して、二つ以上の学問分野を統合して学問横断的に進めて行く研究のことです。
しかし、学際的研究には、厳密な定義は存在していません。
ほかには、一つの目的と関心のもとに、多くの隣接する学問領域が協業して研究することを学際的研究という場合もあります。
学際的研究の例としては、以下のような研究課題があります。
- 地球温暖化
- 食糧・資源の枯渇
- 生物多様性の保護
- 宇宙開発
いずれも、これまで専門化および細分化してきた単一の分野では、対処できないような大きな社会課題です。
このような課題を解決するために、各専門分野が協力して研究を行うようになりました。
しかし、学際的研究には、学問ごとに異なる研究文化(研究体制)や、学問ごとに硬直的な資源配分(ファンディング制度)、専門家によるピアレビューに基づく評価制度などが阻害要因となって、研究開発システムが十分に発展していないという現状もあります。
参考:コトバンク「学際的研究とは」
参考:三菱総合研究所「2 学際研究とその評価」
学際的研究が注目される背景
次に、学際的研究が注目される背景について説明します。
学際的研究が注目される理由は、学際的研究でしか解決できない社会課題が顕在化しているからです。
先述の「学際的研究とは」でも触れましたが、現在、顕在化している社会課題は、単一の学問分野での解決が難しく、学問横断的に知識を結集して解決に当たることが必要不可欠です。
たとえば、地球温暖化という大きな問題を解決するためには、気候学のほかに、情報システム学や人口統計学などの知識を組み合わせることが必要になってきます。
また、伝統的な研究分野が、ある程度成熟してきたことも、学際的研究が注目を集める理由の1つとも言えるでしょう。
たとえば、脳科学、神経科学、神経心理学、情報科学、言語学、人工知能、計算機科学などの分野が、ある程度成熟しているのに対して、これらの分野の学際領域である認知科学は、これから発展していく可能性のある先端分野として大きな注目を集めています。
参考:三菱総合研究所「2 学際研究とその評価」
学際的研究には異分野連携と異分野融合がある
学際的研究には、異分野連携と異分野融合の2つがあります。
異分野連携とは、多数の分野がそれぞれの範疇において共通の目標を達成しようとすることです。
それに対して、異分野融合とは、個々人の内面的な成長のことで、他の分野と対話し、自分と異なる研究観、世界観と触れることで、自身の専門分野の囚われから解放し、同時に新たに自身の専門観を再構築することを意味します。
現在、顕在化している社会課題を解決するためには、異分野連携と異分野融合の両方の側面が必要になるでしょう。
参考:京都大学 (2019)「学際研究にどう取り組むか?」
学際的研究と類似の研究形態
学際的研究と類似する研究形態として「複合領域研究」と「技術の借用」の2つを紹介します。
複合領域研究
複合領域研究とは「研究を行うことで、関与した個々の学問分野への新たな知見・手法を発見する」ことを意味します。
ただし、新たな研究分野の開拓につながるというわけではないことが、複合領域研究の特徴になります。
複合領域研究の具体例としては、地理的観点を取り入れた考古学の研究などが挙げられます。
技術の借用
技術の借用とは「ある学問分野における知見や研究手法を単に借用する」ことを意味します。
技術の借用の場合は、他分野との協力関係に該当しないことに注意しましょう。
具体例として、物理学の研究手法(電子顕微鏡・X線を用いた結晶構造特定など)を生物学に適応した研究などが挙げられます。
「複合領域研究」、「技術の借用」と学際的研究の違い
上記の複合領域研究や技術の借用に比べると、学際的研究はより広範囲に研究の恩恵を与えるものといえます。
学際的研究とは「研究を行うことで、関与した個々の学問分野への新たな知見・手法を発見するほか、新たな研究分野の開拓につながる」ことを意味するからです。
具体例として「超ひも理論」を、数学と物理学両方の知見を用いて構築しようとする研究などが挙げられます。
参考:三菱総合研究所「2 学際研究とその評価」
学際的研究を始める方法
ここでは、学際的研究を始める方法について紹介します。
学際的研究を始めるためには、まず「誰と研究を行うか」を考えることが必要です。
本記事では、他分野の研究者と出会うための3つの方法を紹介します。
知り合いのつて・人脈を頼る
最初に紹介するのは、知り合いのつて・人脈を頼る方法です。
まずは、所属している研究室の教授に、どのような研究をしたいのか、そのためにはどのような分野を研究している人と協力すればよいのかなどを相談してみましょう。
あるいは、同じ研究室の先輩や、ほかの研究室の教授などに聞いてみるのもよいでしょう。
このように身近な人の人脈を頼ることで、他分野の研究者を紹介してもらえることがあります。
論文を見て連絡をする
他分野の論文を読んで、著者に直接連絡をするのもよいでしょう。
実際に論文を読むことで、その研究者の研究スタイルなどを知ることができます。
いきなり学際的研究の提案をするのではなく、まずは話を聞いてみるとよいでしょう。
他分野の学会に足を運ぶ
実際に他分野の学会に足を運んでみると、インターネットで調べているときよりも、広い視野をもつことができるかもしれません。
論文では伝わらないことが、実際に話を聞いてみるとよく分かります。
そこから、よりよいアイデアを得られるかもしれませんし、他分野の研究者と意気投合するかもしれません。
時間があれば、他分野の学会に足を運んでみるとよいでしょう。
学際的研究を行う際の注意点
ここでは、学際的研究を行う際の注意点について説明します。
あらかじめ学際的研究のつまずきやすい点を理解しておくことで、トラブルを未然に防ぐことができます。
お互いに専門外のことは分からないということを意識する
学際的研究を行う上で共同研究を行う相手とは専門分野が異なる場合がほとんどです。
自分の専門分野では当然のように知っている知識であっても相手にとっては知らない可能性もあります。
研究が進むなかで、お互いの認識がずれてしまう可能性もあるため、学際的研究を成功させるためには、コミュニケーションが必要不可欠です。
学際的研究を行う際には、普段、同じ分野の研究者と研究しているとき以上に丁寧なコミュニケーションを心がけましょう。
プロジェクトマネジメントが難しい
研究プロジェクトの期間が決まっている場合、期限までに研究を完成させるためには、プロジェクトマネジメントを行うことが求められます。
スケジュール管理、タスク管理をしっかりしておかなければ、想定外の事態に対応できません。
特に学際的研究の場合、専門分野によって研究の進め方やスケジュール設定が大きく異なるので注意が必要です。
共同研究を行う中では、定期的な進捗状況の報告を行う、といったルールをあらかじめ定めておくとよいでしょう。
まとめ
最後にこの記事の内容をまとめます。
- 学際的研究とは、単独の学問分野では解決が困難な研究領域に対して、二つ以上の学問分野を統合して学問横断的に進めて行く研究のこと
- 学際的研究には、異分野連携と異分野融合の2つがある
- 学際的研究が注目される理由は、学際的研究でしか解決できない社会課題が顕在化しているから
地球温暖化などの社会課題を解決する手段として、学際的研究が大きく注目されています。
ご自身の研究課題が社会の課題と大きく関わる場合は、その課題を解決するための手段の1つとして、学際的研究を選択肢の1つとして検討してみてはいかがでしょうか。