研究支援という仕事<クラウドファンディング編>|柴藤亮介氏(アカデミスト株式会社・代表取締役CEO) #博士の選択

インタビュー

※記事の内容は「博士の選択」掲載当時(2016年)のものです。

日本初の学術系クラウドファンディングサイト「academist」を運営しているアカデミスト株式会社 代表取締役CEOの柴藤亮介氏にインタビューしてきました。先日の「Research Fund 2.0」でもクラウドファンディングについて講演されていましたが、今回は「academist」を立ち上げた背景や取り組みについて詳しく伺いしました。

柴藤亮介氏のプロフィール:首都大学東京理工学研究科物理学専攻博士後期課程を2013年に単位取得退学。2014年に日本初の学術系クラウドファンディン グサイト「academist」を設立し、研究の魅力を研究者が自ら発信するためのプラットフォーム構築を進めている。大学院での専門は原子核理論、量子 多体問題などの理論物理学。

設立の背景

大学院での研究内容について教えて下さい

私の大学院での専門は、理論物理学です。20年くらい前に、原子を絶対零度付近まで冷やすことが技術的に 可能となり、量子力学の世界で理論的に予測されていた現象が、実験で確認できるようになりました。それによって、理論がさらに発展していくという流れがで きてきましたので、私はこの流れのなかで理論的なところに携わりたいと思い、研究を行っていました。

自分の専門以外の分野の研究については、科学雑誌やWebニュースで見ている程度のことは知っていたので すが、自分の専門領域を超えると、その分野の最先端については全くわからなかったんですよね。単語だけは知っているけど詳しくは知らない、というような思 いを常に感じていました。私の専門は物理なので、それ以外の分野の知識は高校時代のころとほとんど変わっていないわけです。「他の分野では、どんな研究を しているのだろう?」というところは非常に興味がありました。

そういった思いから「academist」が生まれたのでしょうか?

正確には、異分野の研究者が集まってそこで互いの研究紹介をする「異分野交流会」という会を企画していた ことがきっかけです。最初は友達同士のクローズドな雰囲気で行っていたのですが、回を追うごとに、参加したいですという声を外部からもいただくようになり ました。そこで、少し公な雰囲気で開催してみたところ、これまで自分が知らなかった分野について研究している同年代の研究者がたくさん集まりました。自分と近い人がこんなにいるんだという驚きを得たとともに、「あ、みんなすごく面白いことやっているな」と感じ、面白い研究をしている人たちのことをもっと世 間に知ってもらいたいと思ったんです。研究の詳細は難しいですが、研究の概要であれば、ある程度把握することができます。研究者が持っている面白いコンテ ンツをWebにして、出来る限りわかりやすく正確な形で、社会に発信するような取り組みが出来たら、絶対に面白いと思いました。

academistは日本初の学術向けクラウドファンディングということですが、新しいことを始めるのは大変ですよね

そうですね。どうやっていいかわからなかったので、インターネットなどで調べながら、自分自身でシステム を開発してスタートさせました。徐々にいろんな方々に手伝っていただけるようになってきて、現在は、本業の傍らお手伝いしていただいている方を合わせます と、10人くらいで運営しています。デザイナーやエンジニア、編集者など、さまざまな方のご協力をいただきながら進めています。

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アカデミスト株式会社のオフィス(※当時)にて撮影。

ビジョンと仕組み

講演の中では「研究者の、或いは研究の、ファンを作る」という言葉がありましたね

academistをたまにチェックしてくれるような習慣がある方が増えていくことが理想です。研究者の 動画や文章に触れることで、今まで知らなかったような研究分野のことを知って、この研究面白いじゃないかと思っていただけるような、そんなサービスにした いと思っています。

一方、研究者にとっては、研究アイディアを発信すれば、お金を集めることができるし、共同研究者に出会うこともできるサービスです。academistでは、新しくておもしろいことが生まれるというワクワク感を持ってもらえるような場所にしたいです。

応募対象となるのはどのようなプロジェクトですか?

何か新しいことを自分の手で解明するという、所謂研究の営みがなされるのであれば、全ての分野の方に使っ ていただきたいと思っています。応募があったプロジェクトを選考する際には、内容を見て「良い、悪い」と判断することはしていません。我々が見ていること は、『研究者が大学や研究機関に所属しているか』、『論文や研究発表の実績はどれくらいあるのか』、それから『研究に対するビジョンがあるか』という、こ の3点なんです。

「今回はご遠慮ください」ということになるのは、3番目のポイントが欠けているケースが一番多いです。な ぜかというと、研究に対するビジョンがなく、我々スタッフ自身がその研究にお金を出したいと思わないプロジェクトに、他の方がお金を出したいとは思わない ですよね。そこは結構厳しく判断しています。

最初のプロジェクトは『深海生物テヅルモヅルの分類学的研究』だったそうですね

テヅルモヅルのプロジェクト自体はインターネット上でバズって注目が集まり、目標金額もすぐに達成したの
ですが、研究者の方から使いたいというアプローチが来るわけでもなく、ただの一瞬のできごとでした。前例が全くない中だったので、そんなものを使うのはキ ワモノだと研究者のみなさんには思われたのではないでしょうか。サービスを開始してから2年経って、ようやく「クラウドファンディングも研究費獲得の手段 として視野に入れようかな」と考えてくださる研究者の方が増えてきたと感じています。

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深海生物テヅルモヅルの実物。

プロジェクトを立ち上げているのは、どういった方が多いのでしょうか?

教授、准教授、助教、ポスドクなど多岐にわたるのですが、世代としては30代の方が多いです。新しいサー ビスなので若手の方のほうが親和性が高かったり、お金がないという現実的な問題もあったりとか、理由はさまざまだと思いますが、我々運営チームと近い年齢 の方によく使っていただいています。

学生団体や大学院生のプロジェクトも何件かありますね。良い意味でアカデミアのつらさをあまり知らない時期というか、研究に情熱を燃やせる一番良い時期でもあると思うので、彼らのパッションをacademistで増幅できるようなことができたら素晴らしいと考えています。

具体的には、研究者に対してどのようなサポートをしていますか?

はじめのヒアリングで「どんなプロジェクトにするか」という共通認識を形成し、プロジェクトページの原稿 作成を研究者の方々にお願いしています。それをもとに、研究者の負担をなるべく減らすよう意識してリリースまで進めていきます。事務的な手続きを最小限に 留めることができるというところはacademistの特徴かもしれません。

ちなみに、academistのファンディングはどのような形式ですか?

目標金額に達しない限りはお金を受け取ることができない、「オールオアナッシング」という仕組みです。 academistでは、「こういう研究をするために、こういった機材がほしい」などと用途を限定して支援を募っていますので、用途を満たすだけのお金が 集まらなかった場合、そのお金を使って何の研究をするんだという話になるためです。挑戦者の緊張感を保つことができたり、支援者がラストスパートという形 でどんどん情報拡散してくれたりするというのもオールオアナッシング式のメリットです。

また、支援に対しては、研究内容にまつわるマグカップや写真などをリターンとして用意しています。しか し、こういったリターンの制作費として、集めたお金の一部を使わせていただいているので、我々としてはできれば研究者が持っている蓄積された知識に対して お金を出すという文化を作っていきたいと思っています。最終的にはグッズのリターンを出来る限り減らしていきたいですね。

実際に、「研究者と会えるサイエンスカフェ」や、「研究者が案内する博物館・天文台ツアー」、「遺跡を一 緒に発掘できるツアー」などといったリターンは、人気があります。論文の謝辞に記名というのも人気ですね。一般公開のイベントに行って話を聞くよりも、自 分が直接支援したことで、研究者との距離が近くなった感覚を持っていただけるところが面白いのだと思います。

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これまでに作成したリターンのためのグッズ(一部)。

今後の展開とメッセージ

今後、大学や企業と連携する計画はありますか?

大学とのコラボレーションは現在考えているところで、何件かお問い合わせもいただいています。地方大学などは特に、なんとかして外部資金を獲得したいという状況だと思います。そのための方法の一つが、クラウドファンディングなのではないでしょうか。 academistとしては大学にきちんとお金が入るような形でコラボレーションしていきたいです。

【2020/03/03 追記】
現在、10大学・研究機関と連携されていらっしゃいます。

最後に博士学生や若手研究者に向けてメッセージをお願いします

いろんな世界を知るということは非常に重要だと思います。分野や大学を超えて、より俯瞰的に世の中を見ながら、自分の立場を客観的に把握しつつ研究をするという視点を持っていると、より良い研究者のキャリアが歩めるのではないでしょうか。

ありがとうございました

(「博士の選択」記事より転載)

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