Cloud LaTeXを語る ―大人気サービスの誕生秘話―

インタビュー

「AJ出張版」は、株式会社アカリクが発行する「大学院生・研究者のためのキャリアマガジン Acaric Journal」の過去の掲載記事や、WEB限定の新鮮な記事をお送りするカテゴリです。今回はvol.2の掲載記事をお届けします。

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Cloud LaTeX ( https://cloudlatex.io/ ) とは…

理系分野の論文執筆などによく使われているオープンソースの組版システム LaTeX(ラテフ、ラテックなど)がオンラインで簡単に利用できるサービスで、株式会社アカリクが2014年からベータ版、2016年から正式版としてサービス運営を続けています。

これまで延べ5万人以上の方に利用いただいています。

Cloud LaTeXはどなたでも無料登録でき、数式を扱うようなレポートの作成のみならず、履歴書の作成、研究発表用のスライドを出力するBeamerや、LaTeX上で図を書くTikZ、科研費や学振の申請書類を作れる「科研費LaTeX」テンプレートなどもご利用いただけます。

Dropboxとの同期機能も搭載しているほか、2020年12月には、情報系ユーザがいま最も利用しているエディタ、Visual Studio Codeと同期できるプラグインをリリースしました。

LaTeXに初めて触れる高専生や大学生の入門者の方から研究者・教員の方にまで、幅広く活用いただけるサービスに成長しています。

そんなCloud LaTeXが当時どのように誕生し、現在どのような進化を続けているのかー。その開発の裏舞台についてご紹介します。今回は、当時から現在までサービス運営指揮をとる畠野が、サービスローンチ当時の状況を振り返ります。

― Cloud LaTeXが生まれたきっかけについて教えてください

 最初の開発者は、国立大学の化学系修士の方なのですが、研究室で論文を書く時にLaTeXという組版ソフトが必要だったそうです。これがなかなか使いづらくて、環境構築の際に重たいファイルをダウンロードしてセットアップする必要があります。セットアップも設定が難しい部分があって、初心者にはハードルが高いという状況がとても嫌だったそうです。

 あと、LaTeXはソースコードを書いただけではだめで、コンパイルしないと生成されたPDFが見られないのを不便に感じていらっしゃって、LaTeXを編集しながらリアルタイムに結果が出てくるようなシステムがあったら面白いと思っていらっしゃったそうです。

 当時その方は自分で Web アプリケーションを作っていらっしゃったので、手持ちの技術を使ってLaTeXをサーバー上でコンパイルして、結果のPDFファイルをリアルタイムに表示すれば、手元でコンパイルする環境を設定したり、コンパイル時にローカルPCに負荷をかけなくてもよい、と思いつかれたそうです。これまでは研究室や家でLaTeXで論文を書こうと思うと、同じ環境を研究室と家に作らないといけないのですが、クラウドサービスにすることで、どこからアクセスしても同じ環境で作業できることもあり、そのようなモチベーションで作られたと伺っています。

― 今ですとGoogle Colaboratoryのようにブラウザ上でPythonを走らせたりできますが、それ以前は自分のPCで環境構築をする必要があり、大変でした。それと同じような発想だったわけですね

 今はOverleafという海外のサービスがありますが、当時はその前身であるShareLaTeXとWriteLaTeXという2つのサービスがありました。これらは海外のユーザがメインでしたので、日本語には対応していませんでした。日本語に対応したLaTeXコンパイラにはpLaTeXがありましたので、こちらを採用し日本語フォントも扱える、日本語ネイティブ向けサービスを作りたかったと開発者の方は仰っていました。

 周りの方々もこの便利なCloud LaTeXを使っていらっしゃるのでしょうか

 新入生の方のみならず、一流の研究者の方にも結構使って下さっています。開発者の方に最近伺ったのですが、就活イベントでCloud LaTeXを開発したエピソードを話すと、大体数名の学生が「使ってます」と手を挙げてくれるそうです。

 サービス開発当時大変だったことや、開発時点で詰まってしまった、難所だった点についてご存じですか

 当時アカリクのイベントに参加して内定を獲得した開発者の方が、アカリクで「アプリ開発コンテスト」を開催することを知り、Cloud LaTeXを出展したところ、見事優勝されました。そしてアカリクが出資して開発を進めることになった経緯があります。コンテストに出す段階では、1ヶ月くらいで作り上げられたそうで、間に合わせで作ってしまったそうです。そして、そのまま拡張し、本番運用をしてしまったので、もう少し丁寧に作っていたら良かったと仰っていました。また私もローンチに携わりましたが、大きな反響がある中でサービスが止まるなど、最初非常に苦労しましたね。

 当時はJavaScriptのフレームワークもそこまで発達しておらず、jQueryでその場しのぎのものを作っていらっしゃったそうです。今ではいわゆるMVCのように、データを保持する部分とレンダリングする部分を分けて管理するフレームワークや、React.jsなどいろいろとあるのですが、当時そのようなものを使えなかったということもあり、拡張性が弱く、しばらく改修が大変でした。また、開発者の方が当時最も苦労されていたのが、日本語フォントを埋め込む部分でした。IPAのフォントを埋め込む際に設定ファイルを色々といじらないといけなかったようです。今ではnotoなどの高品質和文フォントが利用可能になっていますがそのノウハウは当時から引き継がれています。

 リリースした直後は、やはり想定外の事態がたくさん起きました。IPAからセキュリティに関する警告メールをいただいた際には即日対応して改善したり、ある学生ユーザが、サービス上でマンデルブロ集合の描画という非常に重い処理を何十時間も計算させてサーバが落ちてしまったことがありましたね。その教訓として今では、重い処理をしても他のユーザに影響が及ばないような設計にしたり、途中でタイムアウトする処理を入れています。この方とはのちのちTeXのユーザ会でお会いし、お詫びをいただきつつ、サービスのごく初期に脆弱性を見つけてくださったことに御礼申し上げました。今では当初のコードはほぼ使われておらず、我々が改修したCloud LaTeX ver.2を安定運用しています。

 運用しつつ、バグが発生したら都度対応していくかたちですね。そんなCloud LaTeXですが、今では延べ5万人が利用していて、毎年一万人以上に新規登録いただいているサービスになりました。非常に大きく育ったCloud LaTeXですが、創業から振り返って今どのように感じていらっしゃいますか

 最初はコンテストのためにサービスの雛型を作った開発者の方も、「自分が学生時代に作ったデザインやサービスが今でも残っていて、アカリクにうまく運用してもらっていてすごくありがたい」と仰ってくださっています。アカデミアでも広まりつつあることを感じており、研究者の方がCloud LaTeXを研究室の学生に提案してくれる程の応援をいただけるようになったことが感慨深いです。今後ももっとサービスを拡大していけるよう努めたいです。

 無料登録ですぐに LaTeX 執筆可能。 Cloud LaTeX ( https://cloudlatex.io/ ) を是非ご利用ください。

 2021年3月に発売されベストセラーとなっている通称「学振本」にも、Cloud LaTeXを用いた申請書の書き方が紹介されています。

学振申請書の書き方とコツ 改訂第2版 DC/PD獲得を目指す若者へ

大上 雅史(著)

発行 講談社 A5判 208頁

定価 2,750円 ISBN 978-4-06-523107-4

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