AI冬の時代からフロンティア、そしてゲーム情報学の提唱へ(2) #AJ出張版

Acaric Journal
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 空前のAIブームが吹き荒れ、人工知能がクイズ番組や囲碁の対戦でヒトに打ち勝つような現代では信じられないかもしれませんが、人工知能研究を志すことがタブー視されていた時代がありました。そのような時代にあえて人工知能とゲームを組みあわせて考えようとした研究者がいらっしゃいます。松原氏は若い研究者達に何を期待するのでしょうか。お話を伺いました。

前回の記事「AI冬の時代からフロンティア、そしてゲーム情報学の提唱へ(1)」はこちら

― 最初はどのようなAI研究に取り組まれていたのでしょうか

 最初に書いたプログラムは将棋のプログラムです。AIがまだ冷たい時代に、先生に「将棋のプログラムの研究は厳しいからフォローできない」と言われました。なので、表向きとしてはロボットの画像認識研究として、将棋はいっさい表に出さず、家に帰ってこっそり将棋のプログラムに取り組んでいました。

 電総研に入って3、4年経った頃にコンピュータ将棋の論文を出しました。周りの顔色を伺って、そろそろ将棋と言っても雰囲気的に許されるかな、という頃合いで出してみました。研究者は、まあいいのではないか、という反応でしたが、事務からは「将棋なんて趣味だろ」と言われました(笑)。それでも、一生懸命理由書を書いて、なし崩し的に認められました。AIをやるだけでもそもそもおかしいのに、「将棋とは異常だ」みたいなことを言われていましたね。外国ではゲームを研究テーマにするのは普通だと思われているのですが。

― フロンティアにいすぎたということですね

 かっこよく言えば、そうですね。AIや、ゲームの研究を目指していたけれど、説得されて転向した人はたくさんいました。僕は鈍感だったから、周りから冷たくされたりしてもあまり気にならないのではないかと、周りから言われました。

― 電総研時代の後は、どのような研究や活動に取り組まれているのでしょうか

 僕はいろいろなことに関心を持つのが特性で、ロボカップを開催しようと言い出したり、函館観光のAI分析など、なんでも手を出すのです。AI発展のために、将棋や囲碁の研究が進んだらいいなと思っているので、後輩のためにゲーム情報学を設立したりもしました。

― はこだて未来大学で観光に関する研究を始められた経緯を教えてください

 公立大のミッションには、地元貢献があります。地方だと漁業、農業といったAIの現場がありますが、函館はメインの産業が観光です。これをAIで分析すると面白くて、外国人を相手にした外国語利用という観点でもAIが役に立ちます。北海道に来たきっかけは、北海道が好きで学生時代からよく旅行していたからです。環境が新しくなると研究テーマも増えていき、北海道の交通の不便さから、交通も研究しています。いろいろなことに興味をもって研究を始めましたが、時間をかけたけれどモノにならなかった研究も沢山あります。

― AI第三次ブームの今、短い時間で出せる成果をどんどん積み重ねていこうという風潮もありますが、どのようにお考えでしょうか

 今はコツコツとヒットを狙うような、内野安打程度の研究となりがちです。僕の時代はホームランを狙って空振りしても、誰も振り向きもしませんでした。見捨てられた学問をやっている感覚だったので、成功しなくても別に良かったんです。今は、注目されていて恵まれた時代でもありますが、ホームランを出しにくくなっている時代だと思います。

 AIはブームになると、それこそディープラーニングなどの最新の技術で、もうやることはないのではないか、と言われるんですね。でも、全くそのようなことはなくて。人間の知能を山の山頂に例えた場合、すぐにでも頂上に辿り着くのではないか、と気楽に言われるのだけど、全然辿り着けなかった。第二次ブームの時に受けたインタビューで、僕は「まだ1合目くらいだ」と言った記憶があります。それからAI研究もだいぶ進んだと言われますが、それでもたかだか3合目くらいかなと思いますね。あとの70パーセントを解くのは皆さんにかかっている。なので、先は長いけど頑張ってください。

― 学生に向けてメッセージをお願いします

 興味を持った道に進んでほしい。敢えて言うなら、今行われている研究や技術に常に疑問を持ってください。AIもそれなりにすごいことができるけど、欠点もあります。よく勉強して限界を見出して、どうしたら克服できるか、考えてください。師匠の真似から上手く模倣できるようになったら、それを超えることも意識してください。人の話をよく聞くのは良いですが、鵜吞みにしない。自分を信じて、先輩をも乗り越える気概をもってください。

プロフィール

松原 仁 氏

1959年東京生まれ。1986年東京大学大学院工学系研究科情報工学専攻博士課程修了。同年電子技術総合研究所(現 産業技術総合研究所)入所。2000年公立はこだて未来大学システム情報科学部教授。2020年より東京大学次世代知能科学研究センター教授。研究分野は人工知能、ゲーム情報学。著書に「人工知能に哲学は必要か」、 「コンピュータ将棋の進歩シリーズ」、 「鉄腕アトムは実現できるか」、「AIに心は宿るのか」など。

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