AI冬の時代からフロンティア、そしてゲーム情報学の提唱へ(1) #AJ出張版

Acaric Journal
この記事は約4分で読めます。

「AJ出張版」は、株式会社アカリクが発行する「大学院生・研究者のためのキャリアマガジン Acaric Journal」の過去の掲載記事や、WEB限定の新鮮な記事をお送りするカテゴリです。今回はvol.1の掲載記事をお届けします。

 空前のAIブームが吹き荒れ、人工知能がクイズ番組や囲碁の対戦でヒトに打ち勝つような現代では信じられないかもしれませんが、人工知能研究を志すことがタブー視されていた時代がありました。そのような時代にあえて人工知能とゲームを組みあわせて考えようとした研究者がいらっしゃいます。松原氏は若い研究者達に何を期待するのでしょうか。お話を伺いました。

― 人工知能との出会い、そして研究するに至った経緯をお伺いできますか

 幼稚園児のときに鉄腕アトムを見て、天馬博士に憧れたのがはじまりです。中学生のときにはフロイトにかぶれて、人の心を科学的に考えることに興味を持ちはじめました。東京大学の理科一類に入学し、人工知能(Artificial Intelligence:AI)というものを初めて知りました。その当時人工知能は日本ではそんなに盛んではない、まだ冬の時代でしたが、数少ない本を読んで、「これはやりたい学問かもしれない!」と思いました。調べてみると情報系の分野でしたので、理学部情報科学科の3期生として人工知能の勉強を始めました。新しい学科でしたので、しっかり勉強できるかなと思っていました。

― まだ卒業生も出ていない頃ということですね

 そうです。先生もいないし、授業もありません。AIの専門家がいないどころか、AIのエの字もありませんでした。京都大学には長尾真さんという、京大の総長、国会図書館長にもなった先生がいらっしゃって、当時すでにAIの研究を始めていました。それを知ったときは、東大への入学は失敗だった!と思いました。大学院に進学して、AIを勉強したいと思ったのですが、理学部情報科にはAIの先生はいませんでした。工学部の大学院案内を見てみると、世界的に有名なロボットの研究家である井上博允先生がいらっしゃいました。研究テーマが3つ書かれていて、そこに人工知能とありました。人工知能と書いているのは、井上先生だけだったので、第1希望で受けました。それまで先生の授業を一度も受けたことはなく、面接ではじめて先生とお話しました。井上先生はAI分野でも世界最高峰だったMITに1年滞在されていて、そこではロボット研究の隣でAIの研究がなされていたそうです。大学院の案内を書くときに、文字数が余ったので「人工知能をやってもいいかな」程度の感覚で書かれたらしく、初めての会合では「私には教えられないから自習したまえ。」と言われたことを覚えています。わかったふりをして教えることのない、良い先生でした。ですので、『AIUEO』という自主ゼミで、英語の本の輪読をしていました。そこが、AIを学んだ場所ですね。


― 日本ではメジャーではなかったときに、教える先生もいないところを、開拓しつつ進めてきたということでしょうか

 偉そうなことを言うと、そうですね。いろいろな先生に「人工知能だけはやるな」と言われたり、脅されたり、諭されたり…「君は人間のクズだ」と言った先生もいました。今だったらハラスメントで訴えると思います(笑)。その中でも、やってもいいと言ってくれたのは井上先生くらいです。

― それは教える人がいなかったからでしょうか

 AIはブームと冬の時代を繰り返していて、当時が1回目の冬の時代。見込みのない学問でした。先がなく、就職先もない。路頭に迷わないように言ってくれていたのだと思います。

― 先生が研究を始めた頃に第二次ブームがやってきたわけですね

 大学院生の時に第二次ブームとなりました。通産省が出資する、コンピュータを作る10年程度のプロジェクトもあり、第五世代コンピュータの時代で、日本はバブルだったため、日本の電気メーカーもAIにお金を出したりして、そこからブームになったのです。はじめは、冬の時代でしたが、そのうちもてはやされるようになりました。数人だった『AIUEO』ゼミも100人程までに大きくなっていて、気が付くとブームの中にいました。

 今はAI分野の研究も盛んで、Googleのような会社もありますが、当時はまだ就職先が増えたわけではありませんでした。博士号をとって民間に行くとか、ベンチャーを作るとか、そんな選択肢は無かったですね。大学の先生になるか、研究をするか。当時はバラ色の道はなくブルーで、大学のポストを除くと電子技術総合研究所(以下、電総研)かNTT研究所の2択でした。

「AI冬の時代からフロンティア、そしてゲーム情報学の提唱へ(2)」はこちら

プロフィール

松原 仁 氏

1959年東京生まれ。1986年東京大学大学院工学系研究科情報工学専攻博士課程修了。同年電子技術総合研究所(現 産業技術総合研究所)入所。2000年公立はこだて未来大学システム情報科学部教授。2020年より東京大学次世代知能科学研究センター教授。研究分野は人工知能、ゲーム情報学。著書に「人工知能に哲学は必要か」、 「コンピュータ将棋の進歩シリーズ」、 「鉄腕アトムは実現できるか」、「AIに心は宿るのか」など。

タイトルとURLをコピーしました