博士が選んだキャリアパス|山田 真介 氏(株式会社フィックスターズ・エンジニア) #博士の選択

インタビュー

※記事の内容は掲載当時(2017年)のものです。

産総研でのポスドクとしての勤務を経て、フィックスターズのエンジニアへとキャリアチェンジを行った山田氏。「民間企業で働くことはかっこいいことだし、研究者以外にもかっこいい姿はある」と語る彼に、博士課程出身者としてのキャリア選択についてインタビューを行った。
※本インタビューは”Speed up your Business” をコーポレートメッセージとして掲げるソフトウェアカンパニー、株式会社フィックスターズ様ご協力のもと実施いたしました。

山田氏のプロフィール:2000年 早稲田大学山名研究室の立ち上げメンバーとして配属。研究テーマはタンパク質立体構造予測(学部時代)及び生物配列の多重比較アルゴリズム(修士~博士)。2004年に修士修了後は同学のメディアネットワークセンターに助手として勤務。2008年3月に博士号(工学)取得後は産業技術総合研究所生命情報工学研究センター産総研特別研究員として活躍。その後キャリアチェンジし、2009年にフィックスターズに入社。

仕事のためではなく、自分の好奇心を満たすための”社内勉強会”

ーフィックスターズではどのような業務を担当されていますか

2009年に入社し、今は量子コンピューティング事業の立ち上げに関わっています。他には、ここ1年だと画像処理プログラムのCPU向け最適化や、Linux向けに作られたサーバプログラムのWindowsへの移植などに取り組んでいます。当社は部署単位ではなくプロジェクト単位で人が動いているので、私はいくつか並行してプロジェクトを進めています。入社して8年になりますので、リーダーとしてマネジメントする立場になることも増えてきました。

ープロジェクトが並行していると技術のキャッチアップも大変そうですね

あまり苦に感じることはないですね。少し話は逸れますが、常に新しい情報を取り入れるためにも、社内勉強会を活発に開いています。これはプロジェクト横断型で柔軟にやっています。技術トレンドや個人的な興味のあるテーマをそれぞれ持ち寄って「さて何を勉強しようか」という感じで勉強会のテーマを決めています。実はこの勉強会が直接仕事につながったこともあるのです。Raspberry Piのようなボードコンピュータを買って勉強会で遊んでいたところ、そのコンピュータがそのままお客様のプロジェクトでの調査に使えたということがありました。あの時は本当に偶然だったのですが、たまには遊んでおくものだなと思いましたね。

ーどのくらいのぺースで勉強会を開催しているのでしょうか

各テーマについて隔週で開催しています。それぞれ興味のある会に参加している感じです。みんな純粋にプログラミングが好きなので、仕事のためというよりは自分の好奇心を満たすために参加している人が多いような感じがします。プライベートでプログラミングを書いている人もいますし。

敷かれたレールの上を乗らないといけないのが苦手

ー大学院在籍中はどのような研究をされていましたか

早稲田大学の山名研究室に所属して、バイオインフォマティクスの研究をしていました。バイオと名づいていますが、情報に近いところでアルゴリズムに関する研究です。DNAやタンパク質は数種類の核酸やアミノ酸が数珠状につながった構造をしています。そしてそれぞれの分子に対応する文字を割り当て、コンピュータ上でその配列を解析することができます。2つの配列の関係性を解析することで、進化の過程で生じた変化を特定することができます。その中でも私はタンパク質のアミノ酸配列を並べるアラインメントアルゴリズムの高精度化について研究していました。

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ーなぜその分野に興味を持たれたのでしょうか

先生がバイオインフォマティクスをやるというので面白そうだと思ったことがきっかけです。タンパク質の折りたたみは可能な数がとても多いのですが、これらはすぐに折りたたまれます。すべての場合を考慮しているとは到底思えない驚くべき速度で。なぜそんな速くに折りたためるのか、それが分かれば計算を速くすることなどにも知見が活せるんじゃないかと思い興味を持ったことがきっかけです。そこではじめにタンパク質の立体構造を予測する研究を行い、そこからテーマを変え、アラインメント分野で世界的な研究者の方のもとについて研究をしました。

ーもともとバイオ系ではなく情報系のご出身なのですね

はい、学部の頃から情報系で学んでいまして、山名研究室の第1期生でした。

ー1期生ということは、研究室の立ち上げにあたっては面倒な意識を持つ方もいると思うのですが、その心配はなかったですか

そもそも面倒くさいとも思っていなかったですね。単に「立ち上げができる」という意識しかなかったです。基本的には獣道を歩いていくタイプなので(笑)。立ち上げから関わっていると全てが把握できるので楽なのですよね。逆に私は完成されているものに途中から入っていくのは苦手かもしれないです。敷かれたレールの上を乗らないといけないのが苦手です。今のプロジェクトも慣れたところでおしまいになるのは不完全燃焼ですね(笑)。

研究時代に培った「ものの見方を吸収する能力」が今役立っている

ー学生時代から、将来働きたい会社をイメージしていたのでしょうか

特にイメージはしていなかったです。民間企業に行こうと思ったのは比較的最近で、プログラミングができる会社という希望はありましたが、特にどんな企業かというところまでは考えていなかったです。

ー研究者から民間企業にキャリアチェンジする契機はどこにあったのでしょうか

産業技術総合研究所(以下:産総研)でポスドクをしていたときに博士向けの就職説明会を知ったことが契機でした。

ー業界を絞って就職先を探していたのでしょうか

特に絞っていたわけではありませんでした。また、あまり意識していませんでしたが、BtoCの企業は受けなかったですね。

ー大学での研究が今のお仕事に直接役に立ったことはありましたか

一番役に立っているのはプログラミングです。Linuxのサーバ管理や運営なども役立っています。あと役立ったことは「ものの見方を吸収する能力」ですかね。バイオ系のものの見方と、情報系のものの見方は全然違うので、研究時代に両方の視点を獲得したことは今役立っています。お客様毎にやりたいことが違うので、お客様の背景を理解するときには視点の豊かさが大切です。

ーものの見方の吸収能力を高める秘訣はどこにあるのでしょうか

いろいろ勉強して「基本的な発想の仕方が違うことがある」ということを知ることですかね。自分にない発想を持っている様々な人の話を聞いたり、柔軟に受け入れること。「自分は知らない」ということを「知る」ということ。無知の知、というほど大袈裟な話ではないですけど、何ごとも柔軟に受け入れる体勢でいることでしょうか。

ーポスドクから就職される方は物事をフラットに見られるところが強みだと言われています。最近「やり抜く力
GRIT」という本が人気ですが、この本は「やりきること」がテーマです。でもこのテーマは博士課程の方々にとっては当然のことですよね。そんな風に、自分にとって当たり前だけど世の中的にはそうでもないんだな、と思うようなことはありますか。

ITは移り変わりが激しいので常に勉強しないといけない、ということは当たり前すぎて確かにピンとこないですね。新しいものが出てきたら興味を持って知りたいと思う方ですので。

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一人で解決せず、「人に聞く」選択肢を持ってほしい

ー研究畑から民間企業にキャリアチェンジして、戸惑うようなギャップはありましたか

抵抗なく入っていけたので、正直最初はそんなに変わらないものだなと思いました。一時期ドクターの感覚が抜けなかった頃、あるお客様の業務に馴染めず、自分は社会人としてやっていけているのかなと不安になったことはありましたが、今では何とかなっています。
あとは、「人に聞いて解決する」という発想が自分にはなかったことに気づきました。研究は自分ひとりで解決することが多いものです。ずっとそうしてきたのでひとりきりで解決する癖がなかなか抜けなかったですね。人に聞けばすぐわかることなのに聞かないで、気がついたら結構な時間をかけて一人で調べてしまっていた、ということがありました。今でもついやってしまいそうになりますが。

ー博士は「ほうれんそう(報告、連絡、相談)」の数が圧倒的に少ない、と注意されがちですよね

私も昔に比べれば、どの段階で人に聞くかの判断はできるようになってきたと思います。当初はそもそも聞いていいものなのか、それすらわからなかったです。とりあえず自分でできるところまでやってから聞く、という考えでいたのですけど、それでは遅いのですよね。だからこそ大学院生の方々には「人に聞く」という選択肢を持ってほしいですね。早く聞けばさっさと解決して結果的にみんなハッピーになりますし。慣れの問題だと思いますが、早い段階で人に聞くということを意識すると良いと思います。

ー研究と企業とでそう変わらないと思った部分はどんなところでしょうか

勉強会の空気感などは、産総研や大学の研究室にいるときと変わらないなと思いました。基本的に技術好きな人間ばかりいるので、大学の研究室と変わらない面があるなと。

研究者以外の選択肢をちゃんと持ってほしい

ー産総研に行かれてから、大学院の頃こうしておけばよかったと後悔したことはありましたか

数学はもっと真面目にやっていれば良かったですね。活かせる範囲が広いですし、数学がわかっていると理論の背景も良く理解できて応用がききますので。

ーいま数学の研究者たちは就職先がないと言われていますが

金融業界では就職しやすいと思いますが、理論だけだと厳しいかもしれませんね。同時にプログラミングが出来るなどのプラスアルファがあると良いのかもしれませんね。

ーフィックスターズなら数学者はどう役立ちますか

線形代数や統計科学などの数学的知見が活かしていけると思います。私は卒業してから時間が経っていることもあり、この辺の数学を改めて勉強したいなとも思っています。特に暗号が好きなのでその教科書も買っているのですが、今は忙しくてなかなか時間を取れていません。

ーその他にやっておけば良かったと思うことはありますか。後輩にアドバイスをお願いします

研究者以外の選択肢をちゃんと持ってほしいですね。民間企業もなかなか面白いです。あとは、「自分の研究でお金がもらえるのか」という観点は持っていた方が良いです。私も自分が面白いかどうかだけで研究をやっていましたし、研究としてはそれでいいと思いますが、その研究をその後にどう活かすかということを考えた方がいいです。今の研究をお金がもらえる事業にできるか、人の役に立つかどうかを考えてみてほしいのです。面白いだけじゃなくて、もっと別の視点からも見てみる。そうすれば事業化やビジネスキャリアとしての民間就業の選択肢も考えられる。大学にいるだけではその視点が持てないのではないでしょうか。私もこの視点が持てるようになったのは、民間企業に就職したからだと思います。

ーフィックスターズへの入社の決め手は何でしたか

単純に面白いことができると思ったのでフィックスターズへの入社を決めました。技術系の会社ですし、博士課程出身者を多く受け入れている会社なのでやりやすいと思ったことも大きいです。その他にも、プレイステーション3に搭載されたCellプロセッサに特化しているとか、なんか変な会社だな、面白そうだなと思って(笑)。面談で社長に会って面白い方だなとも思いましたし、バラエティに富んだ方が集まっている会社だと思っています。

ビジネスにネガティブなイメージを持つ博士たちに読んでほしいビジネス書

ー民間企業のどんなところに面白さを感じますか

ビジネスどうこうではなく、研究者以外の視点が得られることです。学生の時は「ビジネスといえば金儲け」みたいないやらしい印象を持っていたのですが、それがなくなりました。お客様のやりたいことと現状との間にあるギャップを、我々がサービスを提供することで埋めて、その対価を頂くのがビジネス。そこでぼったくるのはアウトですが、適切な値段であり、さらに利益を将来役に立たせられるなら胸を張って対価を手にしていいのだと思えるようになりました。

ーその通りですね。博士の方で、ビジネスにコンプレックスや違和感を覚えている方は多いように思います。これは実際に働かないとなかなかわからないことですよね。その違和感を払拭できればいいのですが

ビジネスにネガティブなイメージを持つ博士たちにぜひ、藤野英人氏の著書『投資家が「お金」よりも大切にしていること』(星海社新書)を読んでみてほしいです。働くことが悪いことだと思っている大学院生がとても多いですよね。やってみれば胸を張れることなのに。どうかそこを打破してほしい。この本は「働くとは何か」ということを根本的に考えさせられる内容なので読んでおくといいと思います。

ー社会貢献度のピントが合うことはひとつの解になるでしょうね

そうですね。この本は『あなたがペットボトルに支払った「150円」の行方』という見出しで始まり、ペットボトルを1本買うという行為にどれだけの人が関わっているかという視点から、自分と世間との関わりを考えさせられます。未来からお返しをいただくのが投資。就職する前にその辺を知っておくと可能性が広がっていくと思います。

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民間企業で働くことはかっこいいことだし、研究者以外にもかっこいい姿はある

ー今後のキャリアについてのお考えをお聞かせください

それはいくら考えてみても、いつまでも結論が出ないんです。今はとにかく目の前の仕事を全力でこなすだけですね。めぐり合わせでいろいろな物事が起こりますし。

ーめぐり合わせを恨んだり、めぐり合わせの妙なだけなのに過度の自信を持つ方もいるなか、その考え方はとてもフラットですね

そうですね、私の発想は基本的にフラットですね。そうありたいとも思っています。いつでも何でもウェルカムです。

ー博士、ポスドクが読者層なので最後に彼らにメッセージをいただけますか

民間企業で働く視点をまず持ってもらいたいですね。思ったよりもすんなり入っていけるので過度に心配しなくていいです。やればけっこうできるもの。民間企業は怖い場所じゃないですから。研究所や大学しか知らないと不安な気持ちはよくわかります。私の父も大学の先生で、いわゆる民間企業で仕事をしている人間が私の周りにはいなかったので、なおさら民間企業が未知で得体の知れない世界でした。でも博士もいる会社ならやりやすいでしょうし、もっと気楽に飛び込んでいいと思います。民間企業で働くことはかっこいいことですし、研究者以外にもかっこいい姿はあるんだと伝えたいですね。

ー非常に的を射たメッセージだと思います。何かとバイアスのかかった見方が多いなか、大学院生たちの不安を打ち砕くメッセージをどうもありがとうございました

(「博士の選択」記事より転載)

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