第2回目は、皆さんの研究生活の実態をお届けします。 研究でどんな時に喜びを感じてどんな時に辛いと感じるのか、またお勧めの学会について語っていただきました。
―悲喜こもごもの研究生活―
医学さん:研究する上での苦労は、たとえきれいな実験結果が得られたとしても1回分のデータのみでは周囲に信頼して貰えないことです。再現性があることを何度も確認させられるのですが、実験を繰り返している内に使用しているタンパク質が分解してしまい、実験の条件を揃えても以前と同様の結果が得られないこともあります。得られるはずの結果が得られない状況が長く続くと辛いですね。こうした苦労を経て、自分の求めていた実験結果が得られたときが研究をしている中で1番嬉しい瞬間です。
薬学さん:自分の想定する結果を得るために必要な条件に気づいて、実験を成功させた時の喜びは大きいですね。修士の頃、結果を得ることは難しいといわれていた実験に条件を変えながら連日取り組んでいたのですが、ある夜、求めていた実験結果をとうとう出すことができたんです。このときは助教の先生と2人で大喜びしました。一番苦労したのは、博士課程に入った当初に自分の研究には実証的な根拠があると研究室の先生に示すための実験結果を得ることでした。
農学さん:私の場合は植物体の世話が大変です。植物体を使用して実験をしているので、これが枯れるとまた育てることになるので、実験の予定が1、2か月遅れてしまいます。だから世話にはとても神経を遣いますね。また、同じ植物体でも育ってきた環境によって各個体に微妙に違いがあるので、同一の条件下で実験を行っても結果がうまく得られないのではないかと不安になります。それでも同じ実験を2度、3度と行ってみて、3回とも似たような実験結果が得られたときはとても嬉しかったです。
生物学さん:ぼくも基本的にはみなさんと同じような研究上の苦労だとか喜びを味わっているのですが、その他に研究に行き詰まった仲間が立ち直っていく姿を見るのも嬉しいことの1つになりますね。研究をしていると誰しも壁にぶつかるものですが、中にはその壁の乗り越え方が分からない人もいる。そういう人に声をかけて何が問題なのか一緒に考えてみたり、その問題に関係がありそうな論文を探すのを手伝ったりしました。仲間の手助けをすることによって必要な論文を選択する力がついたり、異なる分野の実験の方法を覚えることもできたりしますからぼくにとってもマイナスにはならない。だから喜んでお手伝いしました。そうやって助けた仲間が研究に再び取り組むようになり、発表をしたり、学位を取得したりするのを見るとぼくの方まで嬉しくなりますね。
―学会に行こう!―
生物学さん:ぼくはいくつかの学会に参加しているのですが、1番好きなのは動物学会です。無脊椎動物から哺乳類、一部の昆虫まで、幅広い分野の話を聞くことができるし、総会に学生の出席者を増やすためにユニークなイベントを行っているのも面白い。どういうイベントかというと、会場内の企業ブースをまわるスタンプラリーに参加した後、そのスタンプカードを持って学会の総会に出席すると抽選で豪華な景品が当たるというものです。学会の総会というと、多くの場合予算の審議や人事の承認といった形式的な手続きの場でしかなくなっているなか、動物学会では「総会に学生を集めたい」という積極的な意思のもと、かなりの予算を使って学生に総会への興味関心を持ってもらうための実践をしている。そういう意識のある学会は閉鎖的になりにくく、集団としての健全性を保ちやすいと思うんです。ぼくが動物学会を好きなのはこんな風に学会でなにが行われているかを常にオープンにする姿勢を積極的に作ろうとしているからでもあります。
薬学さん:ぼくにとって1番勉強になっている学会はやはり免疫学会ですね。免疫学は歴史のある学問なので学会にも重鎮と呼ばれる先生が沢山くる。だから動物学会とは違って雰囲気はとても厳かです(笑)。でも国内外の憧れの先生と話をする機会を持つことができるので個人的には大満足です。また、免疫学は国からまとまった資金を獲得しやすいこともあって、大小様々な学会関連の研究会や勉強会が開かれています。ぼくも前年度学会から渡航費をもらって、海外で開催された研究会に参加しました。このように研究に関わる費用を学会に負担してもらいつつ、著名な先生方と交流できるのも免疫学会の良い点です。
農学さん:私も学会に参加してみたいとは思うのですが、参加費や交通費を自分で負担しなければならないのがネックになって、頻繁に顔を出すのは難しい状況です。
医学さん:私の場合は、研究室の方針で学会はポスドク以上の先生が参加し、院生は実験を優先しろといわれています。ただ、他の研究室と合同で実験結果の報告会が定期的に行われているので、実験の進め方についてのアドバイスはそこでもらうことができます。
生物学さん:ぼくは学会には積極的に参加した方がいいと思います。特に就職活動が本格的に始まる直前の修士1年の後半の時点で、自分の研究を学会で発表するために形にする経験をしておくことはとても有益です。自分が今までやってきたことを「学会発表」という形式にいったん落とし込んでみる。そのときに「このデータが足りない」「あのデータが足りない」と必ず気づくのですが、この「足りない」を認識できることこそが非常に重要なんです。自分の研究の補うべき部分を自覚することは研究を前進させるための近道ですから。実際の発表の場でその不足部分に対する指摘があったとしても、必要以上に気に病むことはありません。不足は不足として認めた上で、聞き手との意見交換を行うことによって足りないものを埋めるために必要な情報を得られる場合もあります。学会は決して怖いところではありませんので、修士の方も学会発表に挑戦してみることをおすすめします。
いかがでしたか? 第3回目は、2014年最も世間を騒がせたあの研究者について、さらには、大学院にて垣間見た「研究」のリアルについて語っていただきます。