アカリクコラム:天地人 (1/2)

アカリクコラム
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ビジネスと人の和

天地人の考え方は、世の中の安定を目指した孟子の思想の一部であり、国家・組織のありかたを示しています。こうした考え方は孟子の時代から大きく様変わりをした現代においても十分に応用は可能であり、とりわけ人の和の考え方は、人を組織して活動させるビジネスの世界では多くの示唆を与えてくれるのではないかと私は考えています。

ここで一つ、以前インターネット上で話題になった一つの絵を紹介させていただきます。

これはビジネスを進めるマネジメントの人間をボスとリーダーの二つのタイプに分けてそれぞれの特徴を表現した絵です。一見するとリーダーは頼りがいがありそうで良い、ボスは偉そうに指示するだけで悪いとなりそうですが、人の和という観点から眺めた場合、これらはビジネスを動かす手法の違いに過ぎませんので(※1)、ここではビジネスを引っ張っている三人の人たちに注目したいと思います。

引っ張っている三人に人の和があれば、チームとして機能し、一人では動かせないものが動かせる、一人では危険な作業を安全に行うことができる、事故が起こった時に助けてくれるなど、個人の力を最大限に発揮できるようになります。そして彼らをチームとして機能させることがボスやリーダーの重要な役割の一つなのですが、これには様々な阻害要因が考えられます。

(1)協力できていない

たとえば他の人がやってくれるだろうと手を抜く、自分の手柄のために人を利用する、仕事が雑で人の手間を増やすなどが考えられます。チームに三人いれば、そのうち一人が手を抜いたり、質の低い仕事をしたとしても、他の二人がしっかり働くことでビジネスとしては滞りなく進むかもしれません。しかし穴埋めをしている二人には不満が蓄積していくでしょうし、手を抜いている人とはできるだけ関わらないようにするなど、三人が協力して力を発揮するということは期待できなくなってしまいます。

(2)組織の機能不全

ボスやリーダーが機能していない、あるいは存在自体が阻害要因となる場合です。たとえば適切な仕事の振り分けができておらず、一部のメンバーに過重な負荷がかかっている、特定のメンバーに依怙贔屓をする、貢献に対して正当な評価をしない、指示命令が不完全で言っていることが信頼できないなどが考えられます。これらはボスやリーダーの人格・能力の問題もありますが、組織全体の評価・育成体制であったり、組織のカルチャーによるところも大きく、非常に根深い問題ではあります。ただ、いずれにしてもこうしたことが積み重なることで次第にチームとして力を発揮することもできなくなってくるでしょう。

(3)継続性がない

これは(1)(2)の延長、もしくはそれ以外の要因で発生するもので、たとえば事故で怪我人が続出する、慢性的な疲労によってパフォーマンスが低下する、逃亡離脱が頻発するなど、支える人自体がいなくなることが考えられます。ビジネスではメンタルヘルスや過労死、高い離職率の問題になるでしょうか。人心の一致や団結以前の問題であり、人の和の対局にある状態だと表現していいかもしれません。

(※1)そもそも孟子の時代の王は皆ボスタイプです。そしていくら権勢をふるっていても、国外に目を向ければ何人もいる王の一人に過ぎませんし、国内ではいつ反乱が起こってもおかしくない、つまりダモクレスの剣のように常にその地位は脅かされている存在でした。孟子の思想は王が正しい道(王道)を歩むことで民の暮らしが安定し、結果的に王としての地位も安定するといったものですので、ボスかリーダーかは問題ではないということなのでしょう。

人の和は必要か

ここまで人の和について書いてきましたが、そもそもビジネスにおいて人の和なんて必要ないという考え方も成り立ちます。次にその論拠として考えられるものを二つご紹介します。

(1)ルールが違う

まず、昔の国とビジネスではルールが違っているため、そもそも人の和はそぐわないという考え方が成り立ちます。

古来より兵の逃亡や寝返りは死に値する重大な罪だとされてきました。それは軍の規律の維持ということの他に、兵は有限で貴重な資源であり、もしこれを許してしまうと、人的資源、装備、訓練に投下したコストを失うばかりか、敵にその資源を与えて自分たちの首を絞めることになってしまうという理由があったのだろうと思われます。そして皆が逃げられないからこそ、どんな逆境にあっても組織に対する忠誠心を持ち、団結して力を発揮することが結果として生き残る確率を高めることにつながります。

一方、ビジネスの世界には職業選択の自由がありますので、組織を辞めても働く人には何のペナルティーもありません。要するに嫌になったらいつでも辞めればいいわけです。そして古来から言われている「忠誠心」はビジネスでは大きく変容していて、組織に対する忠誠よりも仕事や成果に対する忠実さの方が強い関係、たとえるなら昔の傭兵みたいな働き方になっていると考えられます。

そうすると人は会社を利用し、会社は人を利用するというシンプルな構図になるので、離職率が高かろうがなんだろうが、人が抜けた穴を埋められる状態にあれば問題なくビジネスを動かせます。この考え方で重要なのは人の和ではなく、人を惹きつけられるだけの魅力的なポジション、つまり報酬、やりがい、成長できる環境等々ということになりそうです。

(2)アンチ性善説

孟子の思想は性善説に拠っています。したがって性善説に否定的な立場からは別のアプローチが考えられます。


たとえば性善説の対極に位置する性悪説では、人は打算的で自分の利害でしかものを考えないため、それをいかにコントロールするかが重要だと考えるでしょう。この立場では、たとえば明確な役割分担、厳正かつ公平な賞罰、コストや時間の徹底管理、人が離脱してもダメージを最小限にとどめることができる仕組みづくりなどを志向します。具体的な方策としては、マニュアル整備、仕事を属人化させない、年功序列の廃止、成果主義、コア業務とノンコア業務の分化、アウトソーシングの活用等々、かつての法家のようにシステマティックにビジネスを動かしていくことになるでしょう。

以上、二つの考え方をご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか?
先にご紹介したボスとリーダーの絵と同様に、これらは単にビジネスに対するアプローチの違い、あるいは組織のカルチャーの違いであってどちらがいい悪いではないと考えています。ただ、私は孟子のやり方に親和性があるので、人の和を軸とした組織のあり方を模索しているというだけです。

皆さんも是非、自身が理想とする組織、チーム、そしてビジネスのあり方というのを探ってみてください。ビジネス本を読んでみるのも手ではありますが、歴史やその他一見関係のなさそうな分野にも考えるネタがたくさん眠っているはずです。

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