大学院出身社員インタビュー【特許庁】

インタビュー
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技術と社会の架け橋に。知的財産のエキスパートになろう。

大学院時代の研究内容を教えてください

 学部、大学院のいずれも、小さな水滴による潤滑について研究していました。撥水表面の上で、小さな水滴はほぼ球形です。サツマイモの葉っぱの上の水滴が真珠のように見えるのをご覧になったことはありますか?ほんの少し傾いただけで、水滴はサーっと葉っぱの上を走って落下してしまいます。摩擦がとても小さいのです。そこで、これを潤滑に生かすことができないかと考えていました。
 私の研究では、撥水表面上の水滴の摩擦特性を調べていました。種々の撥水表面に直径1mm程度の水滴を載せ、押しつぶしたり擦ったりして、耐荷重性や摩擦係数を測定しました。ちなみに、入庁して最初に担当した技術分野は塗装・噴霧で、小さな液滴を扱うものも多く、なじみやすいものでした。
 研究室では定期的に報告会がありました。その際、報告書や論文中の日本語の使い方、文章の論理性について、毎回教授から厳しい指摘がありました。当時は、技術的内容が本旨なのだという思いから表現を軽視しており、伝えるための手段についての配慮が足りませんでした。就職してから、相手に読みやすく、分かりやすく文章を書くことの必要性、重要性を痛感することとなりました。

就職活動はどのようにされたかお教えください

 周囲の優秀な研究者や、研究者を目指す同級生を見るうちに、何となく自分は研究者になりたいのではないような気がしていました。ですが、技術が好きで、技術に携わる仕事がしたいとの思いもありました。
 一方、研究室の先輩が公務員試験を受けていた影響で、修士1年の時に公務員試験を受験し、合格することができました。
 就職活動としては、研究所やメーカーも見学させていただきましたが、機械系ではまだまだ女性が少なかったこともあり、自分が永く働き続けるパスをなかなか思い描けずにいました。

 そんな中、特許庁に勤める先輩のお話しを(又聞きでしたが)聞く機会がありました。女性の先輩で、特許の審査をしているとのこと。技術に携われる事務仕事、これだ!と思い込んで官庁訪問をすることにしました。実際に職場を見てみると、静かな雰囲気の中、端末で先行技術調査を行っており、業務を説明して下さった方も、事実を正確に伝える、といった話しぶりで、全体として研究室に近い印象を受けました。特許法についても簡単に説明していただきましたが、法律になじみのない私には小難しく感じられた覚えがあります。ですが、新しいことを学ぶいい機会だと、就活期特有の前向きモードで進んでゆきました。
 結局、面接を含む本格的な就職活動をしたのは、特許庁のみでした。研究やアルバイトで限られた時間の中、たまたま出会えたご縁だったと思っています。

現在はどのような業務を行っていますか?

 世界中から出願される特許出願を、特許すべきかどうか判断する、審査の仕事をしています。現在の担当分野はエンジン部品です。この分野は、日本のメーカーが世界をリードしている分野ですが、ドイツ、アメリカなど海外からの出願も相当数あります。
 審査では、その出願と類似する技術として従来どのようなものがあったのか、従来の技術とどのような差異があるのか、詳細に検討します。出願を理解する技術的素養と、特許法に定める要件を満たしているかを判断する法律的知識が必要とされます。全てを最初から兼ね備える人はいないので、理系の人材が採用され、その後の法律研修等を修了し、審査官となります。
 また、審査官は、審査以外にも、知的財産に関する様々な業務を担当します。私は数年前、海外の特許庁との審査協力プロジェクトに携わる機会に恵まれました。特許出願は、各国毎にそれぞれ行う必要があるため、多くの国に同じ出願がなされます。そこで、これらの審査を各国特許庁が協力して行うことで、出願人が海外でも早く安定した権利を得られる仕組みを構築しました。このプロジェクトは、現在では多くの国との間で実施されています。
 特許制度は、特許権によって発明者に利益をもたらしたり、特許公報によって技術情報を広く開示したりすることで、産業の発達に寄与しようとするものです。審査官の仕事はこの制度を支える要であり、技術と社会とを結ぶ橋の土台のようなものだと思います。

業務のやりがいや、大変なことをお教えください

 審査にあたっては、出願人と第三者との利益のバランスに、常に頭を悩ませます。広い特許権は出願人に大きな利益をもたらしますが、それ以外の全ての人にとっては、技術手段が独占されることになり、不利益となります。逆に、過度に狭い特許権や拒絶査定(特許を認めないこと)は、出願人に利益をもたらすことなく、発明意欲が削がれます。
 発明の内容が十分に開示されているか、従来技術と何が違うのかなど、多くの観点から検討して、「適切な特許権の範囲」を設定しようと日々書類とにらめっこです。煮詰まった場合には、周囲の審査官と相談したりもします。また、出願人との面接も、発明の重要性や書類の向こう側にいる人の熱意が感じられる貴重な場です。

 出願人側と互いの考えを理解しあった上で、簡単に無効とならず狭すぎない範囲の特許権の付与ができたときには達成感があります。
 海外特許庁とのプロジェクトに関しては、各国の特許制度の微妙な差異を知った上で、お互いが運用可能な仕組みを見いだすことに苦労しました。また、多くの人に利用してもらうためには、ユーザーの負担を軽減するべく、手続を極力簡素化したいところですが、そのための交渉も難航しました。
 当時実務担当者として携わったプロジェクトが軌道に乗り、現在では多くの人に利用される重要な行政サービスに育ったのを見られたことは、大変幸運だったと思います。

大学院生へのメッセージをお願いします

 研究、アルバイト等に加えて就職活動、大変だと思います。また、自己分析や企業分析を重ねると、かえって自分が何をしたいのか分からなくなってしまう場合もあると思います。自分の将来がかかっているのだから手は抜けないと思って疲れてしまったり。そういうときは、できる範囲でいいのでいくつか、1つか2つでも、実際に職場を見せてくれるところに行ってみたり、つてがあれば仕事をしている人に話を聞いてみたりするといいのではないでしょうか。

 大学院時代の自分の世界は大学とバイト先がほぼ全てで、視野も限られていました。一方、世の中には仕事が星の数ほどあって、生まれたり消えたりと移ろっているので、何が自分に合うかなど分からなくても全く不思議ではありません。そんな中、たまたま目にして感じたことや会った人が、何かの縁で、次へのステップにつながるかもしれない。その程度に考えられれば、気が楽になると思います。
 ところで、就職活動期は、自分にとって大切なものが何なのかを考えるいい機会だと思います。大切なものは人によって違うはずです。しかし、一旦就職してしまうと、自分の選択は正しかったと思いたがる心や、時間に追われる生活などが邪魔をして、本当に何が大切なのか、考えなくなりがちです。今の自分にとって大事にしたいのは何なのか、ぜひじっくり考えてみてください。

 皆さんによい巡り会いがあることを、心からお祈りしています。

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