Acaric Journal編集部が紙面を飛び出して、「AJ出張版」としてWEB記事を作成することになりました。Acaric Journal POP!では、硬派なAcaric Journalとは少し毛色を変えて、大学院や研究にまつわるポップで新鮮な記事をお届けしていきます。今回は、WEBサイト「少年ジャンプ+」にて連載が開始した「腹腹先生」について、アカリク内の化学専攻の社員に突撃インタビューをしてみました。
― 突然ですが、どうぞよろしくお願いいたします。大学院では化学を専攻されていたとのことですが、どのような研究をされていたのですか?
分野としては、「有機化学」という分野になります。「有機」とは、「炭素を含んでいる」という意味ですので、ざっくりいうと「炭素を中心とした元素で構成された化合物の化学」を指します。その中でも「構造有機化学」という分野で研究をしていました。具体的な実験としては、特殊な構造を持った化合物を合成して、その性質を色々な方法で調べる、ということをしていました。
― 先日、少年ジャンプ+というWEBサイトで、「腹腹先生」という漫画の連載が始まりました。まだ1話しか公開されていない(インタビュー当時)のですが、「アカハラで学問の道を諦め、化学教師として生きている主人公が、妹を助けるため自分の知識で爆薬を作り、極道に立ち向かう」という内容になっています。元研究者が主人公の漫画は珍しいこともあり、研究業界でも少し話題になっています。
化学分野の研究室の雰囲気は、どのような感じなのですか?
理系の研究室なので、チームで一つのことに取り組む研究室もあるのですが、私が以前いた研究室は、院生個々人の研究対象が異なるので、隣の人は違う化合物を扱っていたりして、個人プレーに近い形でしたね。
― なるほど、割と個人で動いて、問題解決も自分でしなければならないような環境だったのですね。ちなみに、この漫画の主人公はアカデミアをリタイアしたあと化学教師という道を歩まれていますが、これは化学分野では一般的なのでしょうか?
いえ、あまり一般的ではないと思います。知り合いに一人だけ化学教師になった方がいらっしゃいますが、結局アカデミアに戻られています。
― 個人的には、高校にもポストがあるというのは非常に羨ましいことだったりします。さて、本題なのですが、この漫画のように「自力で爆薬を作る」ということは、可能なのでしょうか?
はい。ちょっと調べればできると思います。
― えっ
えっ
― 「そんなの無理ですよ~フィクションなので」という返答があると予想していたので少し驚いています。できるんですね。
はい。実際の漫画では伏せられていますが、材料に関しては調べればすぐわかります。ただ、材料の入手は非常に難しいので、一般の方はできないと思います。
― なるほど。この主人公は高校の教師なので、おそらく実験室であれば入手可能なのですね。でもバレたら懲戒免職処分になってしまいますよね。
まあその前に普通に逮捕ですね。
― そうですね…(話の中で、爆薬によって人が負傷しています)。れっきとした犯罪行為ですので、読者の皆さんは決して真似しないでください。爆薬に使用されるような劇物は、外部の方が持ち出しできないように、研究室での管理も厳しいのですか?
はい。毒物劇物の類は使用量を記録して報告する義務があり、化合物によっては使用した記録を数十年にわたって残さなければならないものもあります。化学物質に罪はありませんので、使用する側が使い方を誤らないように日々努力する必要があります。
― フィクションでよく変な使われ方をする化学物質と言えばクロロホルムですが、あんなに簡単に気絶するものなのでしょうか。
そうですね。気を失うほど吸い込んでしまうともう意識が戻らないか、戻ったとしても重篤な後遺症が残りますので、吸わない方がいいです。
― フィクションに文句を言っても仕方ないのかもしれませんが、不適切な知識を拡散されると困りますよね。
まあ、漫画でも新聞記事でもよくあるので、仕方がない部分はありますが、なるべく正しい知識が広まるとよいと思います。この漫画のタイトルの「腹腹先生」は、おそらく「腹腹時計」という昔の冊子から取っているのだと思いますが、この冊子のように、広めてはならない類の知識もありますので、難しいところです。
― タイトルの由来、あったのですね。知らなかったです。
知らない方がいい情報だと思います。
― 最近漫画は読まれますか?ご自身の分野に関連する漫画は読まれますか?
まだ読んでいないのですが「Dr.STONE」が気になっています。分野としては博物学に近いそうですが、「監修がしっかりしている」という評判だそうなので、気になっています。あとはネタとして「カイジ」とか。最近はゆっくり漫画を読める時間が少なくなっており、あまりチェックできていません。
― お忙しいところインタビューにご対応いただきましてありがとうございました!
株式会社アカリクは、「社内で石を投げれば研究者に当たる」と言われるほど大学院在籍者が多い会社です。この特性を活かして、様々なトピックについて見識を持つ社員にインタビューを行っていく予定です。どうぞお楽しみに!