就職協定は2021年度より実質撤廃となりました。就職協定については過去何度もルールが変更されたため、毎年企業の新卒採用活動の時期を入念に検討せねばならない状況です。
改めて、この就職協定の意義、また新卒採用を行う上で人事として把握しておきたい他社の採用動向などをご紹介します。
目次
就職協定とは
就職協定とは1953年から大学側と経営者団体の間で結ばれた、学生の就職活動に関するルールのことを指します。そのルールは景気変動の度に、選考開始期日の変更やルール改訂が行われ、その度に企業と学生の就職活動は混乱してきました。
1953年に就職協定が成立
戦後間もない不安定な経済下で、新制大学が発足したことで大学生が急増し、就職難の時代がありました。当時、学生の就職活動の教育面への影響が懸念されるようになりました。
そして、就職対策のために1953年に文部省の「卒業予定者の就職に関し大学が求人側に推薦を開始する時期に関する申合せ」を行ったことが就職協定の始まりと言われています。
大学側団体、業界、関係省庁が出席して就職問題懇談会が開催され、その結果、大学側は学生の推薦開始を10月1日以降とすることを申し立て、産業界側も大学側に協力するという形で就職協定は始まったのです。その後、協定を結ぶ主体は、大学側、企業側、経営者団体側と時代によって変わっていったのです。
就職協定を守らない青田買い
1950年代半ばに大型景気が到来すると、早い時期から就職・採用活動が活発化しました。これがいわゆる企業による学生の青田買いと言われるものです。景気が良くなるにつれ企業の選考早期化に拍車がかかり、制定された就職協定は遵守されることはありませんでした。
このような企業の採用活動に対し、1961年に就職問題懇談会は新たな就職協定の改定を決議しましたが、青田買いの勢いは衰えることはありませんでした。大手企業は7月末に採用活動を終了しているような状況だったのです。
就活解禁日には、学生を拘束し、他社の応募を阻む動きをする企業も現れました。1970年代~90年代も採用企業の学生の青田買いは続き、文部省は経済団体や企業に協定遵守を申し入れましたが、事態は元には戻らず就職協定では企業の採用活動を制御できませんでした。
1997年より就職協定が廃止され、倫理憲章へ移行
企業の採用活動を制御できず、実質形骸化してしまった就職協定は、企業の通年採用や、インターネットの利用により就職活動の情報収集の方法の多様化、政府のインターンシップの奨励などの影響も受け、1997年日経連と大学側は就職協定の廃止に同意しました。
そして就職協定廃止後は、就活ルールとして「倫理憲章」(企業側)や「申合わせ」(大学側)という相互の主張を尊重し合う緩やかな取り決めで選考日等を設定していました。
しかし、企業側の広報活動についての具体的な規定は無く、就職活動開始時期よりも前倒しで広報活動を開始する企業が増えたことで、経団連より「2013年度卒の学生から、広報活動などの実質的な活動の開始が大学3年の12月1日とする」という「採用選考の関する指針」が出されたのです。
博士は上記ルールの対象外
実は、博士課程の学生は、就職活動開始の時期に関するルールは適用外となっています。なぜなら、経団連の「採用選考に関する指針」には、「指針の規定は、日本国内の大学、大学院修士課程、短期大学、高等専門学校の卒業・修了予定者が対象となる。大学院博士課程(後期)に在籍している院生は対象とならない。」とあるためです。そのため博士課程の学生の採用については対象外と把握しておくことが大切です。
就活ルールが守られない背景
就活ルールは下記のような変遷を辿ってきました。
1953年~「就職協定」の開始
1997年~「就職協定」の廃止と「倫理憲章」の開始
2013年~「倫理憲章」から「採用選考に関する指針」へと改訂
このように就活ルールは内容も制定主体も大きく変化してきました。
「就職協定」はあくまで紳士協定に過ぎず、企業への罰則もないため、企業の青田買いは止まりませんでした。
そして「就職協定」は「倫理憲章」へと変わりましたが、「正式な内定日は卒業年の10月1日以降とする」と内定日について明記されているのみで、その他の選考日程が示されていなかったことや、外資企業やIT企業など経団連に所属していない企業には効力が無いことから、「就職協定」と同様に企業の採用活動の早期化は止まりませんでした。
景気変動に伴い、企業の人材需要の高まりに押され、就活ルールは作られては、守られなくなるという歴史を繰り返してきたのです。
2024年卒まで政府主導で就活ルールを策定
2018年経団連「採用選考に関する指針」を定めて日程の采配をしていることへの違和感を述べ、指針について廃止することになりました。
経団連は「2021年卒以降の学生を対象とする採用選考に関する指針を策定しないこと」を正式に発表し、2021年以降は政府が経団連に代わって新たなルール作りをすることになりました。ルールがなくなれば、学生が就職活動の開始時期を不安視し、学業に専念できなくなることを政府が危惧したためです。
また現在の政府の指針は、「採用選考に関する指針」の内容を引き継いでおり、2022年度卒業予定者までルールが決まっています。なお、引き続き博士課程については、就職活動開始の時期に関するルールの適用外となります。
就職・採用活動に関する要請|内閣官房ホームページ (cas.go.jp)
今後の新卒採用はどう変化していくのか
2018年より企業側から政府へと就活ルールの制定主体は変わりましたが、通年採用の定着化と政府も推奨したインターンシップの活用が起因となり、選考期日を早めるという手法ではなく、各社多様化した手法で採用を早期化しています。
今後も優秀な人材の早期確保のために、選考の場をインターンシップなどに代えつつ、新卒採用の早期化は続いていくと予想されます。
通年採用へ移行する企業が増加
就活ルールは、2021年4月入社から政府主導のルールに切り替わりましたが、2022年度卒までルール変更も無く、一定のルールに大きな変更は生じないと予想されています。大きな変更は学生や企業の混乱を招くことから、これまでの内容を踏襲する見通しです。
そして、この就活ルールが維持されるという前提で、企業は継続的に優秀な人材を確保するために、新卒採用は通年採用へと移行し始めています。
現行の就活ルールも企業に対して罰則規定はないこと、また企業の中途採用は、通年採用として定着していることも要因となり、新卒採用の通年採用する企業が増加しています。
採用活動の前倒しが進む
採用活動の前倒しの要因となっているのは、企業のインターンシップの活用です。
政府より2021年春入社の学生を対象とする就活ルールについて、「インターンシップは採用の選考と直結しないように求める」という提言があるように、近年はインターンシップが選考の場の1つとなっています。
インターンシップを早期に実施し、参加学生に実質内定を出す企業も出てきています。活動内容が各社異なるため、インターンシップの活動内容を政府が把握することは難しく、採用活動の前倒しが進んでいるのが現状です。
まとめ
戦後の景気変動に後押しされ、企業と学生の就職活動の混乱を防ぐべく、改訂を何度も重ねた選考期日を定める方式の就活ルール。経団連が制定主体であり加盟企業しかルールを遵守しなかったこと、罰則なき紳士協定に過ぎなかったことなどから、就活ルールは制定され、守られず改訂されるという歴史を繰り返してきました。
ポイントは
- 2021年度より政府主導での企業への要請へ変化
- 企業のインターンシップの活用をはじめとした接点の多様化による活動の前倒しが加速
- 博士課程の学生の採用については政府主導の指針も適用外
という3点です。
今後の政府指針の方向性をしっかりと確認をしながら、採用スケジュール作成と早期活動の実施を進めることが大切であるといえます。