中途採用で人材を獲得する際、重要になるのは志望者の情報です。しかし面接やディスカッションで、必要な情報がすべてでそろうわけではありません。
その問題を解決するため、「リファレンスチェック」が近年注目されています。本記事では、リファレンスチェックの概要と目的、注意点などを紹介します。
目次
リファレンスチェックとは
「リファレンスチェック」とは、中途採用を行う際に行われる身元照会のこと。 応募者や採用予定者、内定候補者の過去の勤務状況や業務実績などを、前職の上司をはじめとした関係者に問い合わせることを意味します。
外資系企業では一般的に行われており、日本企業においても採用する企業が増えつつあります。
前職調査との違い
リファレンスチェックと似たような意味で使用される言葉に「前職調査」があります。前職調査とは、中途採用の応募者が提出した応募書類や面接の時に得た情報の裏付けを行うための調査のことです。
リファレンスチェックで確認されることは、主に業務実績や人物像です。一方の前職調査は主に、経歴詐称や金銭トラブルがないかどうかを確認するものであり、両者の調査目的は異なります。
リファレンスチェックを行う目的
企業がリファレンスチェックを行う目的は3つあります。
- 書類や面接ではわからない情報が確認できる
- 職歴や経歴に虚偽がないか確認できる
- 採用のミスマッチを防ぐことができる
リファレンスチェックにより、前の職場でどう働いていたのか把握できます。また仕事に関する価値観や姿勢、人物像などを第三者からの視点で確認できます。
さらには虚偽の職歴や経歴を書いたり、実績やスキルの誇張表記をしたりする不正を見破ることが可能です。
リファレンスチェックを用いない場合、企業は応募書類や面接の場などから得られる、限られた情報で求職者を判断しなければなりません。
しかしチェックを行うことで客観的な情報のもと、自社に適した人材であるか判断することに役立ちます。 このことは、採用のミスマッチを防ぐことにつながります。
リファレンスチェックにより企業が得るメリット
リファレンスチェックでは本人以外から情報を得るため、企業にとってさまざまなメリットが期待できます。
- 早期退職を防げる
- 入社後の人材マネジメントに活用できる
- 客観的な視点で選考できる
特に上記3点は重要です。
早期退職を防げる
リファレンスチェックを実施すれば、早期退職を防ぐことが可能です。
リファレンスチェックでは、前職で一緒に働いていた第三者からの評価を聞き出せます。また、本人の口から語られる離職理由とのかいりも確認できます。
これらを参考に自社の社風に合うか、求めるスキルや人物像と一致しているかを判断でき、早期退職につながるミスマッチを予防できます。
入社後の人材マネジメントに活用できる
リファレンスチェックは当時の働きぶりや、どのようなことにモチベーションを左右されるかを知るきっかけになります。
この点は入社後の人材マネジメントへも活用できます。たとえば、前職では活かしきれなかった求職者の力を発揮する手段が見出せるかもしれません。
客観的な視点で選考できる
リファレンスチェックの特徴は、求職者本人ではなく、求職者の周りで働いていた第三者に話を聞くことです。
そのため、客観的な意見や情報が得られ、採用選考の際により公平な視点で選考できるメリットがあります。
応募書類や面接などの選考にて得られる情報は、求職者による主観的な情報です。
また、求職者が誇張して話をしていないか確かめることで、評価すべき情報とそうで無い情報を切り分けできるようになります。
リファレンスチェックのやり方は2パターンあり
リファレンスチェックのやり方としては2つのパターンがあります。
- 求職者がリファレンス先を紹介
- 採用を検討している企業がリファレンス先を探す
それぞれのやり方について紹介していきます。
求職者がリファレンス先を紹介する場合
求職者がリファレンス先を紹介する場合、まずは求職者にリファレンスチェックの実施の意向と目的を説明しましょう。
個人情報であるため、求職者の同意を得て行うことが重要です。同意後、リファレンス先として話を聞ける人の候補を出してもらい、連絡可否を確認してもらいます。
すべての同意が取れ、連絡先を取得し、リファレンスチェックに協力してもらう同意に漏れが無いことを確認します。
採用担当はリファレンス先に連絡をし、チェック実施の日程を調整します。 方法としては、電話やビデオ通話でのヒアリングや書面での質疑応答が挙げられます。
ここで重要なのは、リファレンスチェックの質問内容です。質問に漏れがないよう、何を聞くのかを事前に明確化しましょう。 なお、リファレンスチェックが行われた後は実施した内容をレポートにまとめ、採用選考に携わるすべての人に共有することが必要です。
採用を検討している企業がリファレンス先を探す場合
採用を検討している企業がリファレンス先を探す場合においても、求職者にチェックの実施の意向と目的を説明します。 この場合、求職者はリファレンスチェックが行われることに同意したのち、特に行うことはありません。
企業は求職者から同意が得られた後、リファレンス先を探します。探す方法は、求職者の職務経歴書にある情報や企業サイト、SNSの情報などをさかのぼって、求職者の情報が得られそうな人を探します。
また、調査会社を利用してリファレンス先を探すのも、一つの手段でしょう。なお、調査会社を活用する際は、リファレンスチェックまでまとめて委託する場合が多いです。
リファレンス先を見つけたら採用担当が連絡し、リファレンスチェックについて依頼します。同意が得られたら日程調整しましょう。
ここから先の流れについては、前述の「求職者がリファレンス先を紹介する場合」と同様です。 企業は質問する内容を決め、リファレンス先と約束した日にチェックを実施します。最後に内容をレポートにまとめ、それを採用に携わるすべての人に共有します。
リファレンスチェックの質問項目
リファレンスチェックでは質問する内容がその後の採用活動に影響を及ぼします。
- 勤務状況や勤務態度
- コミュニケーションや人柄
- 能力やスキル
上記はかならず確認しておきましょう。
勤務状況や勤務態度
勤務状況や勤務態度の確認を行う際は、期間や役職、組織体系など、事実に沿っているかの確認を中心に行うと良いでしょう。
具体例として以下が挙げられます。
- 勤務期間は〇年〇月~〇年〇月までと伺っていますが間違いありませんか。
- 職務内容や役職、実績に間違いはありませんか。
- 職場での働きぶりはどうでしたか。また遅刻や欠席などは多くありませんでしたか。
勤務期間や職務実績など、求職者の提出した書類や面接での内容に虚偽や誇張がないか確認します。 またリファレンス先の個人評価が入らないよう、数字など定量的に回答できる質問が望ましいでしょう。
コミュニケーションや人柄
コミュニケーション能力や人柄については以下のように問い合わせましょう。
- 周囲と適切にコミュニケーションを取れていましたか。
- チームと個人ではどちらで働くことが合っていると思いますか。
- 求職者はどのような人物ですか。
- 再び一緒に働きたいと思いますか。
第三者に確認することで、面接では分らない求職者の人物像を把握できます。 ただしコミュニケーション能力や人柄定量的に判断するのが難しいところ。あくまで回答者の主観によるものだと理解しておきましょう。
ここで「コミュニケーションがよく取れていた」「人間的にもすぐれていて、チームの中心的な存在を担っていた」などといった回答があれば、コミュニケーションや人柄には十分な裏付けがあると言えそうです。
能力やスキル
能力やスキルについて質問する際は、事例を確認しながら質問することが重要。
- 長所や短所は何ですか。どのような場面で発揮していましたか?
- 部下をどのように教育していましたか。
- 問題やトラブルに対してどのように対処していましたか。
- リーダーシップはありましたか。
一緒に働いた第三者は、実際にその能力やスキルが発揮された場面を知っているはずです。 入社後に、求めていたスキルが不足しているといったミスマッチの可能性を軽減できるよう、より具体的なヒアリングをおこないましょう。
ここで本人が面接時に伝えていなかった、新しい一面を発見できるかもしれません。
リファレンスチェックで注意すべきこと
リファレンスチェックでは、以下3点に注意しましょう。
- 本人の同意なしで実施すれば違法の可能性あり
- リファレンスチェックを鵜呑みにしすぎない
- 個人情報の管理を適切に行う
それぞれについて細かく説明していきます。
本人の同意なしで実施すれば違法の可能性あり
リファレンスチェックを実施する際は、事前に求職者本人の同意を得ることが不可欠です。理由は、個人情報の開示が伴うためです。
2005年に施行された「個人情報保護法第18条」より、本人の同意なしに個人情報を提供することは禁止されています。
そのためリファレンスチェックも求職者本人の同意を得て実施しなければ、違法になる可能性があります。
求職者の同意を得るために、企業側はチェックを実施する目的について明確に解説しましょう。
リファレンスチェックを鵜呑みにしすぎない
リファレンスチェックの結果は、かならずしも正確とは限りません。したがって結果を鵜呑みにしないようにしてください。
例えば勤務態度や貢献度などは、多くの場合回答者の主観が入ります。また本人を思うあまり、ネガティブな情報を提供しないケースもあります。
そもそも回答者が、本人についてどこまで正確な情報を知っているか分かりません。本人と回答者がバディのように動いていたなら、あらゆることを理解していると考えられます。
しかし、例えば回答者が抱える100人の部下の1人にしかすぎない場合、さほど多くのことを知っているとは考えづらいです。
チェックの結果がかならずしも事実を表さないことを理解し、適切に情報源として参照することが大切です。
個人情報の管理を適切にする
リファレンスチェックで得た求職者の個人情報は、個人情報保護法に則って管理されなければなりません。したがって個人情報保護法の規定を遵守し、適切に取り扱う必要があります。
企業側は、社内で個人情報を取り扱うための体制を万全に整え、情報を管理する必要があります。 特に採用に関係する部署において個人情報の取得や利用に関するルールの周知を行いましょう。
リファレンスチェックで得た個人情報が漏洩しないように厳重に注意しなくてはなりません。
リファレンスチェックを理由とした内定取り消しは違法か
リファレンスチェックを行った後、その結果を理由として内定取り消しを行う場合は注意が必要です。
リファレンスチェックを理由に、内定が取り消せる場合と取り消せない場合があるからです。内定後に行う場合、求職者と労働契約が成立しているので、内定取り消しが認められる可能性は低いです。
トラブルを避けるためにもリファレンスチェックは、内定前に行うようにしましょう。 次に内定取り消しが認められる可能性が高いケースと、内定取り消しが認められにくいケースについて紹介します。
内定取り消しが認められる可能性が高いケース
雇用契約は、内定通知を行った時点で法的に成立しています。そのため内定の取り消しは、解雇に該当すると解釈できます。
労働契約法第16条には、以下の事項が規定されています。
解雇は客観的に合意的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を乱用したものとして、無効とする
引用:労働基準法第一章 第十六条
ただし客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められる場合は、解雇が認められる可能性があります。
- 経歴を偽っていたことが発覚した場合
- 求人応募に必要な資格を保有していないにも関わらず保有していると記載した場合
- 懲戒処分などの重大な処分を前職で受けていた場合
こういったケースでは、内定の取り消しが認められる可能性が高いでしょう。
ポイントは「明らかなウソをついているか否か」です。学歴を偽っていたり、ありもしない業務を担当していたと主張したりするなら、労働契約法上で合理的な取り消し理由として認められやすくなります。資格についても同様です。
それから「告知すべき重要な情報を伏せていた」というのも、内定取り消しになりやすい要素。たとえば懲戒処分など、よほど悪質でなければあり得ない処分を受けていて、しかもそれが伏せられているなら内定取り消しできるケースがあります。
内定取り消しが認められにくいケース
内定の取り消しが認められにくいケースもあります。例えば資格はあったが、経験した業務について、面接で過剰に申告しているケース。
応募に必要な資格は保持しており、ただ単に業務にあまり携わっていなかっただけにとどまります。 採用企業側が求めるレベルの業務経験でなかったにせよ、求職者が完全に虚偽の申告をしているわけではありません。
したがって解雇の理由に当たらない可能性があります。 また以下のケースでも内定取り消しが認められるケースはほぼないでしょう。
- リファレンス先の依頼者の主観的な評価だけに基づいた内定取り消し
- 人物像が面接の時と異なった理由での内定取り消し
内定取り消しが認められるかどうか、判断が難しい場面は多々あります。
そういったことが起こらないように、リファレンスチェックの情報を参考にして、そもそも内定取り消しが起こらないように採用を慎重に判断しなければいけません。
まとめ
本記事ではリファレンスチェックについて詳しく解説しました。最後に重要なポイントをおさらいしておきましょう。
- リファレンスチェック=中途採用実施時におこなわれる身分紹介
- 前職での働きぶりや成果などについて、前職関係者に対して問い合わせを実施
- いわゆる「申し合わせ」がリファレンスチェックに該当する
- リファレンスチェックを実施すれば、書類や面接ではわからないことが確認できる
- 職歴や経歴に虚偽がないか確認できる
- 採用のミスマッチを防ぐことができる
- リファレンスチェックにより、早期退職を減らしたり、入社後のネジメントで情報源として活用したりが可能
- 客観的な視点を持って選考できる
- リファレンスチェックで得られる情報がすべて真実とは限らないので注意
- リファレンスチェック後に発覚した問題に起因して内定を取り消しできるかどうかは微妙なところ
転職の増加や働き方の多様化により増えてきている中途採用。しかしそのぶん、採用活動上のミスや確認不足が懸念されるようにもなりました。
これを防ぐ手段の1つとしてリファレンスチェックが注目されています。これを実施すれば志望者の前職での勤務態度など、書面ではわからない部分を確認することが可能です。
自社でもチェックを実施し、間違いのない採用活動を展開しましょう。