採用におけるCXとは?注目される背景や手法・事例を紹介

今、採用市場で「採用CX」という考え方が注目されています。
採用CXは「候補者体験」を意味し、あらゆる企業の選考を受ける中で、自社でより良い体験をしてもらうことを目指すものです。

しかし、採用CXの手法についてあまりイメージが湧かない人事の方も、まだまだ多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、採用CXの設計方法や成功事例についてご紹介します。

これからの採用を強化するヒントを見つけてみてください。

CX(Candidate Experience)とは何か

CXとは、Candidate Experience(キャンディデイトエクスペリエンス)の略です

候補者が企業を知ってから応募し、選考を終えるまでの各ステップで、良い体験・経験ができることを意味します。
その人を採用するかどうか、その人が内定後に入社するかどうかにかかわらず、すべての候補者に良い体験を届けることが採用CXの醍醐味です。

「この企業に応募して良かった」と感じてもらえたらなら、採用CXは成功と言えます。

採用でCXが注目される背景

採用CXは、日本国内よりも海外で注目を浴びています。

今後は日本でも浸透していくことが予想されますが、そもそも採用CXという概念はなぜ生まれたのでしょうか。
要因として、主に以下の3つが挙げられています。

人材不足による採用の難航

少子高齢化や労働人口の減少にともない、人材獲得の競争はますます激しくなっています。
限られた人材を多くの企業が取り合う「売り手市場」の傾向が続く中で、企業は「候補者に選ばれる存在」であることが重要です。

その上では候補者が満足度の高い体験をすることが必須で、優秀な人材の確保にも必要と言えるでしょう。

市場における人材の流動性の高まり

終身雇用の時代ではなくなり、転職のハードルが下がった状況も要因の1つです。

1社に留まるよりも、「複数の会社で経験を積みたい」「スキルアップに応じてより好条件の職場で働きたい」といったニーズが強まっています。
そのため、企業の認知度や規模に関係なく、採用CXを強化して候補者に選ばれることが必要と言えます。

採用の透明化に対するニーズの上昇

「採用の透明化」という言葉もよく聞かれるようになりました。

選考プロセスにおいて、重要な情報が開示されない状態は「ブラックボックス化」とも言われます。
採用の基準を明確化することで候補者は納得感を得られ、企業は入社後のミスマッチを減らせるメリットがあります

透明性へのニーズについては、インターネットの普及も関係していると言えるでしょう。
候補者が自ら企業の情報を探せる時代において、内情の不透明性は不信感や応募辞退にも繋がりかねません。

また、従業員の口コミサイトやSNSなどのWeb上で、企業がいかに良いレビューを獲得できるかも大切。
第三者の採用CXが応募の決め手になることもあるのです。

採用CXに取り組むメリット

採用CXに取り組むことは候補者を満足させるだけでなく、企業にも多くのメリットがあります。

結果的に採用の促進や上位層の人材獲得にも繋がりますので、メリットについてもよく理解しておきましょう。

潜在層にアプローチできる

候補者に選考を通じて良い体験をしてもらうことで、結果的に入社しなくても企業のファンになってくれるケースがあります
将来的にご縁が生まれることも期待でき、母集団の形成ができるのです。

選考で良い体験をしたことがきっかけで、他の人に自社を紹介したり、違うタイミングで応募してくれたりする人を「リピーター」と呼びます。
採用難の時代において、リピーターの獲得は自社にとって大きなメリットになるでしょう。

企業のイメージアップやブランディングに役立つ

採用を強化する上で、「採用広報」といった考え方があります。
採用CXは、採用広報とも密接な繋がりがあるものです。

候補者の良い体験は、口コミを通じて周囲に広がっていきます。
SNSを通じた発信も期待でき、選考への満足度とともに会社そのものや商品・サービスについても認知されるきっかけになります

必ずしもポジティブな情報発信になるとは言えない点に注意が必要ですが、成功すれば企業のイメージアップやブランディングに役立ちます。

従業員意識を向上させられる

入社した人材が採用CXに好印象を持っていると、仕事やコミットメントの面でも良い働きをしてくれることが期待できます。

採用CXはエンゲージメントの醸成にも役立つものです。
エンゲージメントの高い社員は成長や活躍のポテンシャルがあり、自社に関する社外への発信力も持ち合わせることがあります

結果的にそうした人材を中心に周囲のメンバーが共感したり、業績や顧客からの評価がアップしたりすることで、利益の増加やブランド力向上が実現できる可能性もあります。

採用以外の面でも付加価値が生まれれば、競合他社との差別化を図りやすくなり、市場での競争力が上昇。
採用CXによって好循環が生まれます。

採用でCXを成功させた事例

国内では採用CXに力を入れる企業はまだ少ないものの、実際に取り組んで成功させた会社は、どのような取り組みをしていたのでしょうか。

ここでは事例を2つ紹介し、それぞれ異なる特徴をご紹介します。

事例1:株式会社メルカリ

出典:株式会社メルカリ

フリマアプリ「メルカリ」を運営する株式会社メルカリでは、面接官の増加に伴って採用の「仕組み化」に課題意識を持っていました。
そこでCXの最大化に着目し、面接の構造化や面接官のトレーニングを通して、採用プロセスの改革に挑んだのです

入社して間もないメンバーが面接を担当する場面も多い中、「候補者を同じ目線で評価することが難しい」といった声が上がっていました。
株式会社メルカリでは組織の核として「ビジョン・ミッション・バリュー」を定めていることを踏まえ、バリューの解像度を上げることで、全社の共通認識の明文化に取り組んでいます。

­また、選考プロセスの体系化については次のように整理しました。

現場から「選考プロセスのどの段階で、何を見極めればよいのか」という声があがってきて。例えば、1次面接の時点でメルカリを使ったことのない人をどう評価するか、みたいな議論が結構あったんですね。

そこで、各プロセスにおいて、必ず確認したい項目といずれかのプロセスで確認する項目に整理しました。例えば、プロダクトへの関心やミッション共感については、2次面接以降で確認する項目になっています。

こうした採用CX強化への取り組みは、社内へのバリュー浸透やリファラル採用の促進など、採用の成功以外にも効果が見られたようです。

出典:面接官100名超の共通言語をつくる!「CX」の最大化を目指す、メルカリの取り組みとは

事例2:Airbnb, Inc.

出典:Airbnb, Inc

別荘・コンドミニアムを探せるプラットフォームを提供し、世界最大のホスティングサービスとして名高いAirbnbも採用CXに取り組んでいます。

Airbnbの施策では候補者へのコミュニケーションを重視しており、面接後のフォロー強化に努めました。
FAQや動画コンテンツを作成して、自社と候補者の接点を増やしていったこともその1つです。

不採用になった候補者のケアにも力を入れ、選考のフィードバック面談へ招待することで、「選考を受けて良かった」を感じられるような体験を提供し、リピーターの獲得にも注力しました。

Airbnbのサービス自体、UX重視のデザインが高く評価されています。
採用においても体験の価値を提供している点が魅力的です。

出典:【事例3選】「CX = Candidate Experience」を徹底解剖!今「候補者体験」が注目される理由

採用CXを設計する方法

では、採用CXの設計はどのような方法で行うのでしょうか?
まずは、採用CXには欠かせない「タッチポイント」という概念を理解することが大切です

初期段階は選考のフェーズを分解して、各段階に応じた施策を練る手順で進めます。

  • 企業を「認知」する
  • 求人に「応募」する
  • 「選考」を受ける
  • 「内定」し、入社に至る

採用CX(Candidate Experience)とは、候補者が企業を認知してから選考を終えるまでのタッチポイント一つひとつに価値を提供することで、採用力向上ならびに自社のファン獲得に繋げる活動です。「(採用の合否に関わらず)この企業を受けてよかった」と感じてもらえるかが一つの指標になります。これは採用市場でもDX化が進んでおり、採用ブランディングにも直結する考え方になってきました。

出典:採用支援/コンサルティングのHeaR、「オンライン採用CX(候補者体験)における158項目のタッチポイント」を公開

上記は大まかなタッチポイントですが、状況に合わせてさらに細分化しながら考えられるものです。
採用CXにおいては、そのタッチポイント1つ1つにおいて、有意義な候補者体験を提供することが求められます。

効果的に採用CXを実施するコツ

採用CXの効果を高める方法はさまざまですが、いくつかの共通項として「企業が候補者に深く寄り添って理解する」「候補者のケアを徹底する」といった要素が挙げられます

例として4つをご紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。

候補者のペルソナを練り直す

自社が価値提供したい相手、つまり採用の候補者とはどのような人物でしょうか?
また、彼らはどのような点に惹かれ、何を求めているのでしょうか。

採用CXの基盤を固める上で、候補者ペルソナの設定は最重要とも言えます

ターゲットの好みや悩みについて仮説を立て、「自社はそれに対して何ができるか?」と考える点がポイントです。
その上で、言語化をしながら分析を進めていきましょう。

対応のスピードを高める

採用のスピード感は、候補者に安心感や信頼感をもたらします

「問い合わせへの回答が遅い」「選考のテンポが悪い」といった問題は自社の印象を悪くし、選考離脱にも繋がりかねません。

スピーディーな対応を実現するには効率化が欠かせず、採用管理システムを導入することも1つの手です。
具体的な手法は以下の記事で解説していますので、参考にしてみてください。

採用の効率化をする方法は?デジタル化や業務フロー改善のやり方

おすすめ採用管理ツール10選!導入するメリットも紹介

採用ピッチ資料を作る

採用ピッチ資料とは、候補者の応募意欲を高めるための会社説明資料です。
一般的な会社説明資料とは異なり、採用に特化した見せ方になっている特徴があります。

採用CXを成功させるには、会社概要に留まらない「採用ピッチ資料」を作成し、選考で活用しましょう。
カジュアル面談で配布する、面接前に送付するといった各段階で接点とすることで、候補者のモチベーションを高めるとともに選考の精度を高められます。

求人サービスの中には、採用ピッチ資料を乗せられるものもあります。

出典:GOOD FOR JOB

候補者からのフィードバックを集める

採用CXの施策が候補者にどのような影響を与えているか、フィードバックを通して理解することも大切です。
候補者の意見に耳を傾けることで、満足度の向上にも繋がるでしょう。

また、自社からも候補者に都度フィードバックを行うのも施策の1つです
候補者の評価を言語化して伝えることで、「真剣に対応してくれている」といった好印象を与えられます。

双方向のコミュニケーションは信頼関係を築く上でも、重要なことです。

まとめ:採用ではCXを重視して一歩進んだ施策の展開を!

採用CXとは候補者体験のことで、合否や入社の有無にかかわらず、すべての候補者に「この会社の選考を受けて良かった」と感じてもらうための施策です

候補者が選考を通して何らかの気づきを得たり、成長を実感できたりすることは、体験したからこそ得られる価値そのもの。
選考後も印象に残り続け、リピーターとなることも期待できます。

採用CXの取り組みにおいて、企業では抜本的な改革や企画が必要になるため、苦労すると感じることもあるかもしれません。
また、すべての候補者に熱意を持つ上で、採用組織そのものが高いエンゲージメントを有している必要があります。

採用が難航する市場で一歩先を行くためにも、ぜひ候補者体験を通した魅力づくりにチャレンジしてみてください。