ポリコレという言葉は、昨今、人事でもよく使われる用語となっています。
ポリコレとは、ポリティカル・コレクトネス、つまり政治的妥当性、公正性のことです。人事は採用活動を目的として、社外に情報発信する機会が多いため、その表現の妥当性、公正性は社会的に必要なこととして求められています。現在のポリコレの考え方、表現方法での注意点等をまとめています。
目次
ポリコレとは?
ポリコレとは、ポリティカル・コレクトネスの略、政治的妥当性、公正性を意味する言葉です。人種や性別、民族、宗教などに起因する差別や偏見から被害者を守ることを目的として生まれた考えです。
そして現在は、人種や性別等から派生して、年齢、婚姻関係、容姿、職業、障がいなど、個人や集団を表現する際に、社会的な差別や偏見をなくした表現をすることを推奨しています。この考え方をポリティカル・コレクトネスと言われています。
ポリコレという言葉が広まってきたのは古く、1970年代のアメリカから始まります。フェミニストや革新主義者がこの考えを表現したのが始まりと言われています。
最近では、2015年に当時トランプ大統領候補が、ポリコレはアメリカの課題であると発言したことで、ポリコレという言葉が再度広く注目されることになりました。
ポリコレにより変化した言葉の事例
具体的にポリコレの観点を取り入れることで、表現方法が変わった言葉を紹介します。
ポリコレの観点を取り入れる前の表現 → ポリコレにより変えた表現
・白人 White → Caucasian
・黒人 Black → African American
・消防士 Fireman → Firefighter
・目が不自由な人 Blind → Visually impaired
・看護婦 → 看護師
・保母 → 保育士
・障害者 → 障がい者
このように、男女を特定するような表現は女性差別につながり、また容姿を表す言葉も使用しない方向へと変わりました。昨今当たり前のように使われている言葉も、ポリコレの観点を踏まえて変化してきたものが多くあります。
ポリコレにより発生する問題
本来、差別や偏見から被害者を守るために生まれたポリコレの観点ですが、現在ではSNSなどで個人及び団体の自由な表現に対して「政治的妥当性」から観ると、この表現は正しくないという批判を生んだり、ハラスメントに過度に反応するような人々が増えるという問題を生じさせてしまっています。
ハラスメントに対する問題
ポリコレの観点から、ハラスメント行為に対して訴訟を起こす事例が近年増えています。ハラスメントとは、文字通り相手に対して意識、無意識問わずに与える、相手が嫌だと思う行為、発言のことです。
ハラスメント行為そのものも問題ですが、個人が嫌がらせと感じる言動だけでなく、ポリコレの観点からも問題定義し、その言動に対して訴訟まで起こすケースが増え、ポリコレにより行き過ぎた問題意識が生まれている傾向があります。
行き過ぎたポリコレが引き起こす問題
前出のように、ポリコレの観点を持つことで、人々は過度に相手の言動に対して反応し、批判することが増えてきています。例えば企業のCMやスピーチにおいても、差別や中傷に繋がると過度に反応し、ヘイトスピーチと捉えてボイコット運動に繋げる動きもあります。
ポリコレの観点から、個人や団体の言動を批判する人々が多く生まれ、「表現の自由」ですら失われる事態も起きています。元来、差別や偏見から被害者を守るためのポリコレの観点が、相手の揚げ足取りをするものとなってしまっている問題があります。
人事担当者が気を付けるべきポリコレ
ポリコレの観点を持つ人々が増えた昨今は、人事担当者が採用活動を行う上でもSNSや面接時など様々な場面でポリコレに対しての配慮が必要となっています。求人広告における表記や、面接の質問事項などが主な注意点となります。
求人広告の記載内容
求人広告を掲載する際には、ポリコレの観点を持つことは大事ですが、合わせて男女雇用機会均等法も念頭に入れておく必要があります。
男女雇用機会均等法では、労働者の募集及び採用における性別による差別は禁止されています。具体的には、仕事の名称や、職種によって男女の振り分けを決めて記載することや、服装の指定についてなど、男女の違いを明記することは避けます。
また、保母、営業マンなどのように男女どちらかを想定した仕事の名称は使用しません。なお、事務職は女性歓迎の募集というような、募集要項の詳細に説明を加えることで男女雇用機会均等法に禁じられた表記になっている場合があるので、求人広告の表記には注意を払わねばなりません。
そして、この男女雇用機会均等法を意識することは、ポリコレの観点をクリアすることにも繋がります。
採用選考時
採用選考時には、求職者に面接や書類で質問をすることが多くありますが、その質問内容にポリコレの観点を持つことが必要となります。
本人の適性や能力に関係のない、家族構成や出身地、思想など、個人の差別や偏見に繋がるような事項の質問をすることは避けなければなりません。本人の仕事に対する適性や能力に関係のない質問をすることは、「職業選択の自由」を得られないことに繋がりますので、選考時の質問事項は特に注意する必要があります。
「職業選択の自由」を保障することは、ポリコレの観点をクリアすることに繋がります。
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まとめ
1970年代からアメリカで生まれた思想、ポリティカル・コレクトネス。現在では、ハラスメントやヘイト・スピーチなど様々な観点の表現の論争が繰り広げられる中、ポリコレの観点は、人々に過度な批判対象を作る事象にまで繋ががっています。
しかし、本来は差別や偏見から被害者を守ることが、ポリコレの大切な目的です。ウェブ上や広告などでの表現をする機会が多い人事としては、ポリコレの観点を考慮して、差別や偏見を生まない表現をしていくことが求められています。
見落としがちなものとして、職種名、面接の質問事項などが挙げられます。職種名では、保健婦、営業マン、事務職(女性)のような男女差別を想定させる名称を避けたり、面接時には思想や出身地、家族構成など求職者の能力、適性に関係のない質問はしないよう注意するなど、人事だけでなく現場の面接官などにも周知する必要があります。