2015/03/17 掲載
私は一日20時間ゲームをやっていても飽きないようなゲーマーでして、物心ついてからおよそ30年、これまでに数えきれないほどのゲームをプレイしてきました。仕事を始めてからは休日か夜中くらいしかできないため、さすがに一日20時間の確保はできませんが、それでも累計で700時間はやっているタイトルが複数あります。
さすがにこれだけやるとゲームから現実世界に活かせることが数多く学べるもので、私は特に価値観の多様性、組織、志向性といった考え方に大きな影響を受けてきました。今回はその中から「志向性」について書かせていただきます。
私が大学生の頃にハマっていたある歴史シミュレーションゲームには様々な能力と志向性(※1)を持つ武将たちが登場していました。そして志向性はゲームを進める上で重要な位置を占めていて、プレイヤーが武将の志向性に合致しない施策を実施すると不満が蓄積して忠誠心が低下し、最悪の場合には謀反や出奔(場合によっては憤死)をしてしまうというシステムでした。
さてこのゲームでは、武将の志向性を大きく以下の三つに分け、それぞれをさらに小さく三つほどに分けるモデルを採用していました。
1.徳治主義:人徳による統治を志向し、権謀術数を嫌う。
2.現状維持:内政や外交を好み、急激な領土拡張を嫌う。
3.実力主義:勝ち抜くためにはどんな手でも使い、旧態依然とした権威や外交による解決には否定的。
このように志向性にはそれぞれ相反する特徴が設定されていることから、全員の不満が蓄積しないような施策というのはかなり限定されてしまいます。ですからプレイヤーは
(1)特定の志向性を持つ武将に不満が蓄積する施策を行う時には、あわせて不満が減る施策も行って緩和する
(2)不満が蓄積してしまった場合には個別に面談をして解消する
(3)自身のプレイスタイルに合わない志向性を持つ武将は切り捨て、合う志向性の武将だけで固める
といったやり方をする必要がありました。
当然ながらこれらはゲーム中のモデルですので、現実世界にそのまま適用できるわけではありません。しかし今あらためてこのモデルを振り返ってみると、とりわけビジネスを考える上で実に示唆に富む内容だったのではないかと思います(※2)。
このモデルではそれぞれの志向性は対立しています。たとえばある勢力を武力で叩き潰した場合に喜ぶ人もいるし不満を持つ人もいます。また、外交で紛争を回避した場合に喝采を送る人もいれば弱腰だと非難する人もいます。つまり選択肢の一つを選ぶことは、一定の層からの反発を招くリスクを甘受しなければならないわけです。
そしてこれらはビジネスの世界にも当てはまります。一つの組織の中には多様な志向性の持ち主が存在し、彼らは時に協力し、時に対立をしながら、事業目的を実現するために様々な活動を行っています。
一例として「既存の事業とは全く関係のない新サービス」を立ち上げようとしている企業について挙げてみます。
ゲームではプレイヤーは全土の統一を目指して戦略を立て、外交、登用、軍備拡張、戦争、物資の輸送等の様々なコマンドを駆使してゲームを進めていきます。他方でビジネスにおけるプレイヤーは代表取締役を中心とする経営陣で、経営方針に従って、たとえば資本政策、企業買収、上場準備、採用方針や人事異動の決定等、様々な「経営判断」と呼ばれる意思決定を積み重ねて経営を行っていきます。 もっともビジネスはコマンドを選ぶだけでうまくいくほど単純ではないので、どのタイミングで、誰にどのように働きかけ、どのように実施をしていくかということも含めて経営判断を行う必要があります。経営判断について、先に挙げた「既存の事業とは全く関係ない新サービスを立ち上げる」という例をもとに考えてみます。
ビジネスの世界では企業ごとに異なる「社風」があります。
これは企業全体に共有されたカルチャーのようなもので、仕事への姿勢や考え方、人事評価、コミュニケーションの取り方等、入社すると様々な場面で影響を受けることになります。仮に誰かと志向性が合わなかったとしても、一対一の関係であればオトナの対応で回避できるのでしょうが、社風は日々晒され続けるものであることから回避することが難しく、いわゆる「ミスマッチ」が発生する可能性が格段に高まります。そこで企業は適性検査を行ったり、面接で価値観や志向性に関する質問を投げかけたりすることで「社風と合わない人」をふるい落とす選考を行います。
社風の例として外資系コンサルティングファームの「Up or Out(昇進か卒業か)」「高給で激務」、ベンチャーの「若いうちから責任のある仕事を任せてもらえる」「風通しの良い組織」、日系企業の「年功序列」「同族経営」といったものが挙げられます。もっとも社風はこのように型通りに定まっているものばかりではなく、また同じ企業でも経営陣と採用担当、現場社員では社風の捉え方が全く違っていてバラバラだということもあります。
そこで最近では企業として統一したカルチャーを構築するために「クレド」を掲げている企業もあります。
クレドとはラテン語で「信条」を意味する言葉で、全従業員は心がけるべき信条が書かれたクレドカードを常に携帯し、仕事を行う上での行動指針としています。特にホテルのザ・リッツ・カールトンのものは有名で、ゴールド・スタンダードと呼ばれる理念が記載されているそうです。(※3)
皆さんはどんな社風の企業が合うと思いますか?「クレドのように全社一致した価値観を持っている企業の方がいい」、「飲みニケーション等々プライベートまで入ってくる関わりは嫌だ」、「年功序列とは関係なく成果をあげれば給与に反映させてくれる企業がいい」等々、いろんな志向性の方がいらっしゃると思います。もしこれから就活を行うのであれば、是非選考に臨む前に「自分は何を好み、何を拠り所にして働いてくのか?」、「どんな人と働きたいか?」、「何があるとモチベーションが低下するか?」など、自身の志向性をしっかり整理してみてください。(※4)
企業の選考は「試される場であると同時に企業を試す場」でもあります。自身が整理した状態で臨むことで、企業の人に様々な質問を投げかけてミスマッチの可能性を減らすことができるはずです。
何かの拍子に志向性が合わない勢力に所属してしまうと、事あるごとに不満が蓄積して忠誠心が低下し、ついには出奔、最悪の場合には憤死してしまうかもしれませんよ?
(※1)ゲームの宣伝をすることが目的ではないので、ゲームとは異なる名称を使用しています。
(※2)本コラム執筆中に面談をしたゲーマーさんにこの手の話をしたところ、曰く「ゲームというのは抽象化した現実を遊ぶものだから、ビジネスにも活かせるところがあるんでしょうね」と。確かに…と納得する一方で、私はゲーム要素をビジネスに応用していく「ゲーミフィケーション」という概念がどうも好きになれないので、今回はこれとは異なるアプローチで書いています。興味がある方は調べてみてください。
(※3)参考:ザ・リッツ・カールトン大阪HP「ゴールド・スタンダード」
http://ritz-carlton.co.jp/profile/goldstandard/index.html
(※4)私はこのゲーム内の分類では「大義」が一番近かったです。人を利用したり騙したりする策略を嫌悪し、物事の道理や人として守るべき道義を重視する。そして自身の栄達よりも皆の幸福を願い、組織を安定させて人が力を発揮できる環境を作るといったことにやりがいを感じます。出世にも金儲けにも興味がないので、この手の志向性の人がビジネスの世界で力を発揮するには工夫をする必要があるかもしれません。