非常勤講師の試行錯誤 :一コマの授業をどう構成するか(オンライン編)

博士の日常

 長時間化している大学の一コマの授業をどのように構成するか。対面授業について、休憩時間を挟んだり、メリハリをつけることで集中力の維持をはかる工夫をしているというお話をご紹介しました。

最後に新型コロナウイルス感染症対策として普及した、オンライン授業にまつわる試行錯誤をご紹介します。やはり、対面の授業とオンラインの授業とでは、アプローチが違ってきます。

講義の場合、どうしてもオンライン授業は、対面に比べて臨場感に欠け、受動的になりがちです。他者の目がないだけに、眠くなったり、集中力が途切れやすくなります。

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リアルタイム講義: 非対面でも臨場感を演出する工夫

 リアルタイム配信の授業では、コメント機能、反応ボタン、アンケート等、オンライン会議システムのコミュニケーション機能が充実してきているので、それらの機能を活用し、双方向性授業を展開することも増えてきました。

また、匿名でのコメント共有・投影システムも注目されています。

例えば、パパパコメント(https://papapac.com/)というフリーソフトがあります。

元々はリクルートメディアテクノロジーラボが公開していたものですが、現在は有志によって運営されているそうです。

 ウェブサイトには、

パパパコメントはコメントを画面に流したい人(プレゼンター)が作成した部屋に、コメントを流したい人(コメンター)がスマホ・タブレット・PCブラウザからコメントを投稿し、プレゼンターのPC画面上にみんなのコメントを流せるサービスです

https://papapac.com/usage.html

とあります。「ニコニコ動画風コメント送信機能」という説明がイメージしやすいかもしれません。

 2009年頃にベータ版が公開され、2017年にリニューアルされたもので、大学の講義がオンライン化される以前から、一方的になりがちな講義式の授業を参加型、双方向式にする方法として、一部の大学の授業に取り入れられ話題になっていました。

講義中に下を向いて、いわゆる”内職”をしがちな学生の目と意識を授業の画面に向ける、またスマホをさわる動作をそのまま授業に取り込んでしまう効果を期待して導入したところ、学生からは匿名で参加できる点で好評を得ているという話もききます。

オンライン授業やハイフレックス授業との親和性も高く、コロナ禍以降、実験的に取り入れてみたという話を何件か聞いています。

 2019年にリリースされた「Comment Screen(コメントスクリーン)」(https://www.commentscreen.com/)というアプリも、同じコンセプトのサービスです。

筑波フューチャーファンディングが提供するアプリで、匿名でコメントを書き込んで画面に投影できるほか、絵文字を使って反応を示したり、アンケートの集計・共有を行う機能があります。

こちらは一部機能を除き有料のアプリですが、オンライン化の流れのなかで、オンライン授業のほか、企業での会議やセミナーでも使われているようです。

 参加型の授業を展開するということは、こうしたツールを導入する技術そのものだけでなく、流れてくるコメントをどう拾い、授業に活かしていくか、またいわゆる荒らし行為やいたずらにどう対処していくか等、それを使いこなすための力量も必要になってきます。

難しい課題もありますが、リアルタイムで学生の反応が得られるというのは、講師側のモチベーション維持にも有効で、講師側も受講生側も、一緒に授業を楽しんで作っていく、という姿勢を共有できるという点が魅力的です。

オンデマンド講義: 「タイパ」主義への対応

 企業や学校でのオンライン化の流れが定着するにつれ、オンライン会議システムもアップデートが繰り返され、搭載される機能も増えてきています。そのため、外部のアプリやソフトを連携させなくても、授業の臨場感や没入感を高める工夫がしやすくなってきています。

 しかし、オンデマンドの講義式授業では、リアルタイムの配信とはまた別のアプローチが必要になります。

 オンデマンド授業の形式としては、テキスト資料を配布する方式もありますが、講義型の授業がオンデマンドになった場合、動画配信の形式を取ることが多いのではないでしょうか。

基本的にはリアルタイムの配信と同じ要領で動画を作成することができますが、その場で反応を得ることはできません。オンデマンドの授業を双方向化させるためには、授業後にコメントを集め、次の回に反映させる、という方法が一般的ですが、長時間に及ぶ授業を飽きさせない工夫も別に考えなくてはなりません。

 たとえば、テレビ番組を観ているときは、興味がある番組であっても、スマホを触ったり、食事をしたり、他のことをやりながらの鑑賞になっていて、最初から最後まで集中して鑑賞することは少ないのではないでしょうか。一般的なテレビ番組の長さは30分から60分程度で、多くはおよそ15分間隔で途中にコマーシャルの時間がはいります。

 ひとつのことに関心が持続しない幼児向けの番組はもっと短く、5分から15分程度の物が多く、さらに番組内は短いコーナーに分割され、次々に別の企画へと移り変わることで、幼児の注意を引き付ける仕組みになっています。

 テレビではなく、映画館で映画を観る場合などは、家でテレビを観るときと異なり、他の行動が制限され作品に没入できる環境が整えられていますが、それでも関心を失えば眠くなったり、ほかのことを考えていたりということもあります。

 大勢のプロフェショナルが研究を重ね製作したエンターテイメント作品であっても、視聴者を引きつけておくには限界があるわけですから、必ずしも強い興味があるわけではなく、単位取得のために漫然と視聴している学生も想定される授業では、なおさらでしょう。

  

 「タイパ」「タイムパフォーマンス」という言葉が2022年の新語として注目されました。時間的効率の良さを重視する価値観が広がっているといわれており、娯楽のための動画視聴であっても、倍速再生や要約動画が選択されています。

 はじめてオンデマンド授業を担当した際、学生から「学内システムは倍速再生ができないので、授業動画は(再生速度変更機能がある)Youtubeにアップしてください」という要望が寄せられたことがありました。

 その学生がまったく悪びれることなく率直に要望したように、学生たちにとって授業動画の倍速再生は当然の選択肢と受け取られています。現在では、Google Classoomにも再生速度、画質の変更機能が備わっています。

 時間をかけて作成した動画がじっくり観てもらえないというのは複雑な部分もありますが、大学の講義動画も、倍速再生や10秒送りで視聴されていることも想定した対策が必要です

わたしの場合は、事前に資料を配布しておくこと、重要な箇所を秒送りで聞き逃されてしまうことを避けるため、授業の本論と雑談のメリハリをつけること、重要な箇所は複数回繰り返すことを心がけています。

 特に、重要な部分の繰り返しについては、オンデマンドの特質を活かし、聞き逃した箇所は過去の講義動画でも再度視聴できるように(または再度視聴したくなるように)、具体的に「何回目の講義の、どの辺りで話した内容と関係するのか」を示すようにしています。それによって、実際に過去回の動画を見直す学生がいかほどいるのかはわかりませんが、「聞き逃しがあったかもしれない」と気がついてもらえたらと思っています。

 大学の講義は時間や週数だけでなく、その形式も、対面型・オンライン配信型・オンデマンド型・ハイフレックス型など、大学毎、授業毎に多様化してきました。

 大学の講師はそれぞれの学生のニーズに合わせ、常に様々な工夫を講じています。時代によって変化を続ける大学の講義、その試行錯誤に終わりはなさそうです。

[文責:子育てポスドク]

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