オンライン学会、楽しんでいますか?

博士の日常

 夏休みは学会のシーズンでもあります。いつもなら、国内各地世界各地を飛び回り、学会参加をしている方も多いでしょう。しかし,コロナ禍の影響で2020年の間はほぼ全ての学会がオンライン形式にせざるを得ない状況になりました。1年辛抱すれば何とかなると思っていた方も多いかもしれませんが、結局今年もオンライン開催を余儀なくされた学会も多いのではないでしょうか?

 半ば「不可抗力」によって実施されたオンライン学会という新しい形式ですが、筆者も実際に参加してみて、その利点と欠点が徐々に見えてきました。

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オンライン学会の利点

手軽さ

 オンライン学会の最も重要な特徴は、参加のために物理的に会場まで移動する必要がなくなったという点でしょうか。それに伴い、移動のための時間と出費がなくなり、参加のハードルは低くなったとも言えます。特に交通のアクセスが不便なところに拠点を持つ方や、研究費に余裕がない方にとっては、ありがたい変化になるかもしれません。

 特に国際学会についても、長時間の移動や、ビザ・両替・言語の壁などの、国を跨ぐ移動に伴うめんどくさいことが一切なくなり、高額な移動費もないので、これまでにない気軽さを手に入れたと思います。

 また、参加するだけであれば自分の姿は他者に見られることもないため、家にいながらラフな格好で参加することができ、服装をあれこれ悩む必要もなくなります。

オンデマンド式がもたらす自由

 オンライン学会の発表形式はさまざまです。口頭セッションは、ビデオ会議を繋げてリアルタイム交流の形式を取るものもありますが、事前に録画した発表ビデオを公開するという「オンデマンド式」のものもあります。後者に関しては、視聴する側は自分の都合の良い時間帯にアクセスすることができるので、忙しい日常がひと段落した時に落ち着いて発表を聞くことができ、とてもありがたいと思います。

 さらにありがたいのは、従来の学会では不満のネタになりやすい「並行セッション問題」の解決です。通常の学会では限られた会期の間に多くの発表が行われるので、並行セッションを設けることはほぼ避けられません。聞きたいセッションが同時並行になった時の残念さを味わったことがあるのは、きっと筆者だけではないはずです。オンデマンド式の学会ではこの点も解決されますので、時間と体力が許す限り「発表聞き放題」状態を保つことができます。得した気分になりますよね。

議論の広がり

 オンライン学会の中では、フォーラム(電子掲示板)形式の質疑応答システムを取り入れたものも少なくありません。口頭交流のようなテンポの良いやりとりができない一方、質問者も回答者も、時間を気にせずにじっくり内容を吟味した上で交流することができます。このことによって、議論が一層深まりやすいと思います。また、そのやりとりは他者にも公開されているものが多いため、発表内容に興味を持つ別の参加者も議論の内容を閲覧したり、議論に参加したりしやすくなります。

オンライン学会の不利な点

社交の場としての機能の欠如

 学会にとって、研究成果の発表や知識の交流が最大の役割になりますが、それ以外にも「研究者に社交の場を提供する」という重要な機能があります。

 普段は全国・全世界に散らばっている研究者が一堂に会すると、自ずと雑談に花を咲かせます。このような場があることによって、すでにネットワークを構築している人々は互いの近況の確認をしたり、学術的な・個人的な情報をアップデートし合ったりすることができます。

 一方、あまりネットワークを持たない大学院生や若手研究者は、他の研究者と知り合い、新たにネットワークを築くことができます。そこで知り合った「アカデミック・フレンド」が後に長い期間に渡って共同研究や交流の対象になることは、決して珍しくありません。

 学会のように、共同の関心やバックグラウンドを持つ学者が同じ場所に集まり、社交を行うことができる場は、他ではほとんどありません。

 しかし、オンライン学会の形式になると、同じ学会に出ても、同じセッションを聴いても、他の人とその「場」を共有している感覚はほとんど生まれません。発表内容に関する質疑応答以外の、他愛もない世間話をすることもできません。その中で、「アカデミック・フレンド」を作るのは至難の技でしょう。

 このような状況が続くと、自ずと「閉ざされた輪」のなかでしかやりとりが行われなくなります。多様な情報や視点が欠ける環境が長く続くことは、決して健康的とは言えません。この問題は個々の研究者にとっての問題になるだけではなく、研究者コミュニティ全体にとって大きな問題に発展する可能性もあります。

集中できない

 物理的に移動し、学会に参加することは、その時間は学会だけにコミットする状況と言えます。忙しすぎるのか、「内職」をしながら発表を聞いている研究者の姿も時々会場では見られますが、基本的に会期の間は学務や授業や家庭のことに気を取られることなく、学会に集中することができます。

 しかしオンライン学会の場合は、移動を伴わないため、ほとんどの方はわざわざ学会のために他の仕事を休むことはできません。例えば、基調講演を途中まで視聴して、大学の会議を出席しないといけないなど、日常と学会の間を頻繁に行き来しないといけない問題が発生しています。このこともあってか、「オンライン学会だと学会をやっている感がしない」という意見はよく耳にします。

海外学会は時差地獄

 移動の手間と出費が減ったため、海外の学会にも参加しやすくなった一方、時差がもたらす問題が新たな悩みの種になります。出張先の時間で過ごす通常学会とは違って、オンラインで海外学会に参加する際には、日本と現地の時差の問題で、深夜や早朝などの時間にセッションが行われることが多くあります。

 また、リアルタイムで参加しないといけないときは、夜更かしや早起きをする体力の問題や、変則的な時間で活動することで日中の日常活動に支障が出る問題など、さまざまな問題に直面することになります。実際、筆者は昨年にアメリカで行われる学会に参加しましたが、セッションが全て日本時間の夜12時以降スタートになってしまうため、まともに聴けたものはほとんどなく、大変残念な経験をしました。

たまには出張したい

 学会に参加するにあたって、出張はあくまでも手段であって目的ではありません。しかし、学会参加を機にいろんな土地を訪れることができることの楽しさも、否定されるべきものではないでしょう。日中の激しい議論が終わった後、「アカデミア・フレンド」と共に現地の風景、文化、美食美酒に浸りながら、よりインフォーマルかつ自由な交流を行うのも、学会の醍醐味の一つだと思います。それを失ってしまったオンライン学会が「物足りない」と言われてしまうのも、仕方ないのかもしれませんね。

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[文責・LY / 博士(文学)]

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