大学教員は、夏休みに研究者になる

博士の日常

 親戚など、アカデミアの世界を知らない人から仕事のことを訊かれた時に、「大学で教えている」と答えると、よく返ってくる反応の一つが「いいね、冬と夏に長い休みがあるんだね」という回答です。

世間一般が持っている「先生」のイメージは、おそらくそういうものなのでしょうか。それを聞いた大学教員の皆さんは、どんな気持ちになりますか?筆者と同じように、苦笑しかないのでしょうか?

夏休みの1ヶ月〜2ヶ月間は小学生のように、普段の勉強(仕事)から完全に解放されて「ひゃっはー」と遊びに明け暮れるなど、月ごとにお給料をもらっている以上、そんなオイシイ話はありません。

しかし、いつもとは違う時間の過ごし方になるのは確かです。多くの方にとっては、「教員」としての荷を少しばかりの間下ろし、研究者としての時間を楽しめる時期になるでしょう。

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採点の祭典

 とはいえ、まずは教員としての責務を全うすることから夏は始まります。

常勤であれ非常勤であれ、授業を持っている教員にとっては、4月からずっと続いていた「授業準備→授業→課題評価」の毎週のルーチンや、その〆としての期末テスト/課題の出題が終わった頃には、もう8月の夏休みに突入しています。長いマラソンをなんとか完走し、ようやく息を整えられるようになったという安堵と開放感を味わうことになるのでしょう。

特に2021年度前期は、新型コロナウィルスの蔓延状況に翻弄され、ハイブリット形式の授業を行ったり、授業形式が急に変更されたりするところもあったので、いつもに増して大変だった教員も多かったでしょう。

しかし、授業関連のお仕事はまだこれで完了ではなく、夏休みの最初には、その〆の〆としての「採点の祭典」、テストやレポートの採点と成績登録が待っています。

数百人単位の講義を持っていたり、多くの授業を開講している先生にとっては、これもなかなかの大仕事です。特にレポート形式のような課題の採点は、読む量もさることながら、剽窃対策なども必要となるので、負担は決して軽くありません。

採点用のAIがいつ開発されるのだろうかとぼやきながら、せっせと点数づけを行うしかありません。

夏休みの研究者

 授業のことがひと段落したら、ようやく自由な時間を少しもらえます。その間に普段なかなか集中して取り込めない研究活動を行おうと思っている研究者は多いでしょう。

「積読(つんどく)」になっていた本や論文を読んだり、実験や調査を実施したり、溜まっていたデータの分析を行ったり、論文の執筆や投稿をしたり、査読コメントへの対応をしたりと、それはもう盛りだくさんです。

大学教員のポストの中には、教育も研究も学務も求められるポストが多いです。しかし海外の大学のように各部分に割く時間・努力量(エフォート)がはっきり定められているところは少なく、実際としては「全部100%」と言わんばかりの圧力がかかるところがたくさんあります。

そのため、学期中はどうしても教育と学務の圧力が強くかかり、勤務時間内に研究まで手が回ることが少ない、というような環境に身をおかざるを得ません。このような状況の中では、まともに研究を行おうとすると睡眠時間を削るしかない、そんな現状は研究者の不満のタネにもなっています。

そのため、比較的に教育と学務の仕事が落ち着いてくる夏休みは、研究に打ち込むことができる、大変貴重な時間になります。

研究者の社交シーズン

 研究者にとっては、自分の研究に明け暮れるのも重要ですが、自分の成果を披露したり、他の研究者と交流したり、人脈や共同研究者の輪を広げたりする場も非常に重要です。そんな場になるのは、学会や研究会などの、研究者の集いです。しかし、集まるためには、まずはみんなのスケジュールが合うことが必要です。

昨今ではコロナの影響によってオンライン学会が中心になっていますが、通常では学会には出張や宿泊が伴うことがほとんどです。他にも大学院生や若手研究者向けのサマースクールなど、比較的日程が長いイベントもあります。

これらのイベントを開催するに最も都合が良いのが夏休みといえます。他の時期の三連休なども候補になりますが、コンサートやスポーツイベントなどと時期が重なってしまうと、ホテルも航空券も取れないなど阿鼻叫喚の状況になります。

業界の中の笑い話として、「学会の会期を決める際には必ず某芸能グループのコンサートスケジュール」をチェックしないといけないと、密かに噂もあるほどです。

科研が書けん

 夏休みの時期のもう一つのイベントが、科学研究費の主力である基盤研究や若手研究などの申請書の作成です。

2021年度は締め切りの前倒しがあり、8月頃の締め切りになりますが、例年では9〜10月ごろが学内の書類締め切りになります。そのため、授業がひと段落した頃に、本格的に書類作成に取り込むというスケジュールになる方も多いです。

以前の記事でもご紹介したことがありますが、科研費の採択率は3割弱(日本学術振興会の公表データでは令和2年度は27.4%)と、厳しい競争と言えます。

その申請内容は推敲に推敲を重ねる必要があり、執筆だけに1ヶ月費やしてしまうのも珍しくありません。執筆がなかなか進まないと「科研が書けん」などとSNS上でのぼやきも増えてきますので、それが夏の風物詩にもなりつつあります。

【参考】:

科研費の主な研究種目における応募件数、採択件数、採択率の推移(日本学術振興会)

https://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/27_kdata/data/2-1/2-1_r2.pdf

今年度の科研費、どんな感じですか?

もちろん家族サービスや自分のための時間も

 研究者とはいえど、一人の人間であり、誰かの家族です。教育に追われ、研究に明け暮れることも結構ですが、自分の娯楽の時間や、家族と共に過ごす時間を楽しむことも、軽視されるべきものでありません。

昨今では「ワークライフバランス」への注目が増えてきましたが、日本の働く世代に浸透するにはまだ制度上や思想上の変革が必要です。幸いなことに、筆者が周囲の研究者に夏休みの過ごし方を訊ねた際には、「溜まったゲームをする・川釣りに行く・家族と過ごす」などの回答が得られています。良い休息の時間は心身健康のもとにもなりますので、ぜひリラックスできる夏休みを過ごしてほしいと考えています。

  全ての大学教員や研究者の皆さんが、充実で楽しい夏休みを過ごすことができますように。

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[文責・LY / 博士(文学)]

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