アカデミアと民間企業では給与やライフワークバランスがどう違うのか?

博士の日常

みなさんは、就職先を選択する上で何を重視しますか? 博士課程在籍者を対象にしたある調査(松澤孝明 2019)によると、「仕事の満足度の高さ」と「研究テーマとの関連性」が最も重要視されているようです。また、これらに次いで「処遇(福利厚生や働きやすさ)」「仕事としての将来性」「収入」も重要な要素であることが示されており、自身のキャリアを考える上では、どれも欠かせない事柄と言えます。

就職先の選択において重視する観点

松澤孝明 (2019) を参考にアカリク作成

就職活動を進める上では、これらの要素を複合的に把握しておく必要があるでしょう。今回は「研究(業務)」「給与」「ライフワークバランス」の3つの視点から、アカデミアと民間企業がどのように違うのかをご紹介します。

研究(業務)

アカデミアでは、「基礎研究が主流」です。基礎研究とは、例えば「どのような仕組みで世界が働いているのか」「何がそれを起こすのか」等といったことを、特別な応用や用途を考慮せずに発見・説明しようとするものです。長い年月をかけても成果が見えにくいテーマが多く、そこから生まれる見解や原理、理論は私たちの日常にすぐ活用できるものではありません。しかし、基礎研究は科学発展の源であり、過去には多くの偉大な成果が生まれています。そして何より研究者にとって「知りたい」ことを追求できる環境だと言えます。

一方、企業では、「応用研究が主流」です。応用研究とは、具体的な目標を定め、実用化の可能性を確かめたり、新たな応用方法を模索する研究です。新しい製品やサービスを生み出すこと前提する場合が多いため、アカデミアと比べ短期間で成果をあげることが求められます。また、企業の方針や世の中の潮流によって研究テーマが左右されます。しかし、研究の成果が一般化されやすく、多くの人の目に触れる機会も多いです。何より、自分の研究成果が目に見えることは大きな達成感につながるでしょう。

アカデミア民間企業比較表

給与

2019年度の賃金構造基本統計調査によると、大学の場合、准教授の平均年収は872万円、大学教授の平均年収は約1100万円です(『賃金構造基本統計調査』 を参照)。日本のサラリーマンの平均年収は441万円程度(『平成30年分 民間給与実態統計調査』を参照)なので、かなり高い水準である事が分かります。

しかし、教授になる事は容易ではなく、「第5期科学技術基本計画」によると、大学教授の年齢構成は30代は全体の0.3%、40代は17%、50代が54%と、その8割以上が50代以上で教授のポストを獲得しています(「第5期科学技術基本計画における目標値・指標データ」を参照)。

教授や准教授になるまでには、博士課程修了後「ポストドクター」「助教」と年月をかけてキャリアを積む必要があり、人材の数に対して、ポストが圧倒的に不足しているのが現状です。

ポストドクターの平均年収は約367万円とされており(袰岩・三須・角田2008)、年齢を加味すると、とても高い水準とは言えません。研究分野に別に比較すると、最も高い工学系で約396万円、最も低い人社系で約255万円と、140万円以上の差が見られます。

教授准教授ポスドク給与比較表

袰岩・三須・角田 (2008)を参考にアカリク作成

また、任期終了後に新しい配属先が決まらずに、無給での在籍を余儀なくされる「無給ポスドク」と呼ばれる人たちもいるようです。先にも述べましたが、アカデミアでは深刻なポスト不足により、研究者にどれだけ実力や実績があっても、運悪くポストが空かなければ、この状況は続きます。キャリアアップの課程を総合的に見ると、一言に年収が高いとは言い切れません。

民間企業の場合、給与は業態や各企業ごとに大きく異なる為、一概に平均値を出すことは難しいですが、科学技術・学術政策研究所の「民間企業の研究活動に関する調査」によると、博士課程修了者には学士・修士取得者よりも特別な処遇を与えたり、専用のコースを設けて専門職(研究職や技術職)としてのキャリアアップをサポートする体制を整備している企業があります。
ちなみに、欧米の博士号取得者の平均年収は「民間企業」で10万ドルと、「アカデミア」の6万ドルを大きく上回っていることが報告されています。

アメリカのacademeとindustryの比較表

National Center for
Science and Engineering Statistics『Survey of Earned Doctorates』の2018年データを参考にアカリク作成

諸外国と比較すると、日本ではまだまだ博士人材が企業で活躍する場が少ない点が指摘されていますが、活躍の場を増やそうと様々な取り組みが行われており、今後活躍の場が増えるとともに、待遇面もより海外の水準に近づいていく事が予測できます。

ライフワークバランス

アカデミアの場合、自分の関心によって研究テーマを決める事ができるため、純粋な「知りたい」という動機によって仕事に取り組む事ができます。自由度が高い分、ある意味では仕事とプライベートの境界線が曖昧だとも言えますが、好きだからこそ四六時中研究と向き合うことができるのです。しかし、ポスドクや助教授の場合、教授の研究サポートにも時間を割く必要があったり、所属プロジェクトの業務やスケジュール管理などと、自分の研究以外にも、様々なタスクを並行してすすめるスキルが必要とされます。また、その雇用形態も把握しておくことも重要です。下の図は、博士課程修了者の1年半後の状況を示したものです。

雇用先がアカデミアのうち

雇用先が民間企業のうち

文部科学省 (2017) 「博士人材の社会の多様な場での活躍促進に向けて~”共創”と”共育”による「知のプロフェッショナル」のキャリアパス拡大~(これまでの検討の整理)」 を参考にアカリク作成

民間企業に就職した者は、その9割が正社員又は正職員雇用である一方で、アカデミアに就職した者は、その6割が任期制雇用といった状況にあります。 任期付きの場合、空き時間を求職活動にあてたりと、なかなか心を休める機会が少ない事が伺えます。また、正規雇用者に比べて出産・育児に際して利用できる制度が少なく、それによって離職せざるをえない場合もあったりと、その自由さの半面で不安定な面がある事をよく理解しておく必要があります。

民間企業の場合、その研究内容は、基本的に機密情報となるため、自宅へ持ち帰る事は禁止されることがほとんどです。残業の取り扱いが厳しくなった昨今では、会社に遅くまで残って研究に没頭するなんて場面も、少なくなっているのではないでしょうか。ルールが多く、息苦しさを感じる人もいるかもしれませんが、自由度が少ない分、仕事とプライベートの境界がはっきりしている言えるでしょう。また、大きなライフイベントの際にも、育児休業などの制度を利用することで、バランスが取りやすいのも利点です。また、チームで同じ研究に望むことが多く、自分が休業してる間も研究が止まる事がないように組織体制が組まれています。そのため、業務の事を心配することなく休養をとることができるでしょう。

まとめ

■アカデミアは、自由度や給与が高い半面、そこに至るまでのキャリアアップの道が険しく不安定である。
■民間企業は、研究テーマをはじめとして、機密保持や就労規則など企業の規則による縛りが多く自由度が低が、制度や体制により安定性が高い。

両者の良い面と悪い面を、それぞれ吟味したうえでキャリアを描く事が重要です。何か一点に強いこだわりを持つのも重要ですが、様々な面を総合的に把握することで、就職後に「こんなはずじゃなかった」と嘆くことなく、生き生きと働きたいですね。ひとことに「アカデミア」「民間企業」といっても、各現場によっても差があるので、予め絞りすぎずに、まずは広い視野をもって覗いてみましょう。

(文責・高谷翔太)

参考文献

■National Center for Science and Engineering Statistics『Survey of Earned Doctorates
■厚生労働省 (2019) 『賃金構造基本統計調査
■国税庁 (2018) 『平成30年分 民間給与実態統計調査
■内閣府 (2019) 「第5期科学技術基本計画における目標値・指標データ
■袰岩晶・三須敏幸・角田英之 (2008) 「ポストドクター等の研究活動及び生活実態に関する分析」『調査資料』159,文部科学省科学技術・学術政策研究所
■松澤孝明 (2019) 「博士課程在籍者のキャリアパス意識調査:移転可能スキルへの関心と博士留学生の意識」『DISCUSSION PAPER』176,文部科学省科学技術・学術政策研究所
■文部科学省 (2017) 「博士人材の社会の多様な場での活躍促進に向けて~”共創”と”共育”による「知のプロフェッショナル」のキャリアパス拡大~(これまでの検討の整理)
■文部科学省科学技術・学術政策研究所『民間企業の研究活動に関する調査

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