コロナ禍、そしてWithコロナにおける研究者と大学

博士の日常

Stay Home最強説

とある性格診断のウェブサービスを受けてみると、Stay Homeに対する耐性が最強レベルで引きこもり界のカリスマとのこと。これにはさすがに苦笑しました。

コロナ禍おいては、外出できないこと自体にはストレスはありません。おそらく比較の基準が一般と違うからです。むしろ、人と合わなくて済むので精神状態は良好です。運動も自宅中心の生活だとしやすくなります。

しかし、オンライン対応に追われる方がストレスだといえるかもしれません。これは、多くの研究者(特に大学教員)にとって、認めるところだと思います。

これは、書斎的な研究室の使い方をする文系研究者と研究室にいることが研究という理系研究者の違いがあるため一概に語れません。理系については、その道の方に譲ります。今回は文系研究者のコロナ禍における近況とWithコロナへと向かう各大学の動きを概観します。(2020年7月末時点)

変わってしまったこと

市井では、コロナ禍によるコロナうつ、コロナストレスが叫ばれています(いました)。つまり、生活様式が変化してしまい、環境適応ができていないということでしょう。現在は、新たな生活方式の対応に追わされていることでしょう。

それでは、研究者の生活の変わってしまったことについて書いてみます。

先述に「書斎的」としましたが、基本的に研究者の研究室(特定の教員以上になると晴れて個別研究室になります)は、普通の企業オフィスに机があったり、理系であれば実験器具があると想像していただくといいでしょう。

当然ですが、研究室・実習室は大学に入構制限が出ていますので、使用は限定的です。現状、実習・演習のために大学の物品・備蓄を使用する場合に限り、人の立ち入りが許可されている状態にあり、今後の感染症の動向を考慮しながら、順次緩和されています。

私はというと、研究室で研究するほうが環境はいいですし、場所を変えて文献読みをしている方が効率は上がることを痛感させられました。

さらに、大学図書館が通常通り使える状況ではありません。開室時間はおおよそ9時から17時の役所時間になっています。文系あるあるかもしれませんが、私は夕食を食べた後から24時くらいまでが一番効率がいいため、困っています。学生・教職員の必需品である大学食堂は閉鎖しています。下宿生は、毎日自炊するより安上がりにすむこともあるため、痛手を受けています。

教科書・概説的な外国語文献などは、べらぼうに高い場合があるので、「大学図書館にあるからいいや、高いし」と思って入手していない文献も当然あるわけです。ですので、文献渉猟の面からも、Stay homeは厳しいというのが本音です。

また、研究室の私物はほとんど自宅の自室に引き払っていますので、起床すると目の前に紙と本がつみあがっているのは精神的にまいります。というより、寝るスペースが確保できない。この期間で、仕事用と就寝用の部屋は別途設定すべきだと思い知らされました。個室持ちの研究者以上であれば、それほど困らないかもしれません。

オンラインへ移行する厳しさ

それではオンライン移行後の大学の実情はどうでしょうか。大学の教員は、オンライン講義への移行に悪戦苦闘しています。若手の場合は、そもそもオンラインツール(zoom、teamsなど)をインストールしていたり、機材を持っている場合が多いため、追加の機材購入を除いて、それほど苦労はしないでしょう。年配の層になってくると、オンライン移行にもかなりの労力を割かれていることに想像に難くありません。対面授業より授業準備にコストがかかり、単位認定のテストの実施も一苦労なのが実際のところであり、労働時間は格段に増加していると考えられます。

一方、学生はどうでしょうか。オンライン移行のために、教員がこれまで以上に講義準備をしていることを、学生が知る術はありません。また、実習講義が制限されていたり、課題提示形式やオンデマンド形式の講義が実施されていたりと、コロナ禍により「授業の質が低下した」とみる学生の声も一定数存在します。

課題提示形式:メールやポータルサイトに提示されたパワーポイント資料を各自読んで、各自レポート書いて提出というもの。

オンデマンド形式:事前に撮影・録画された講義映像を視聴するもの。

また、レポート課題が通常期よりも増えています。本来のテスト期間に期末レポートの提出を一斉に指示される。さらに、各講義の連絡が五月雨式に送られるため、学生側が情報過多になり処理しきれていません。

特に忘れてはならないのが、今年度入学した大学1回生です。彼らは、4月から始まるはずであった大学生活が謳歌できていません。新入生歓迎会もなく、部活やサークル活動はできず、同級生や先輩方と交流できず、オンライン間でつながるにとどまっています。

時期的に大学のテスト期間が終わった頃で、現状を如実にあらわす例を一つ。7月末から数週間にかけて、レポート提出(いわゆるテスト時期)があるのですが、教員側から、「締め切り直前、ないし夜中にメール送信が多い。生活リズムが崩れているため、改善するように」とのメールがあったとのことです。まったくもって正当なご意見だと思います。しかし、学生が、数多のレポートで夜中にレポート執筆しなければならない状態だと気づくことができないのでしょう。これは、対面授業時よりも、教員・学生間でコミュニケーションがとりづらく、双方とも疲弊し余裕がないために生まれた現象でしょう。まもなく秋学期に突入し、オンラインと対面式を並行しながら、授業が進んでいきますが、教員学生間のコミュニケーションをどうとっていくのかが課題になりそうです。

Withコロナと大学の今後

5月25日に全国に発出されていた緊急事態宣言が全面的に解除されました。ですが、1920年前後に世界的に流行したスペイン風邪を例にあげるまでもなく、流行の第二波、第三波は到来するものとして生活していかないといけません。

各大学は、9月半ば以降の秋学期に向かって順次段階的な措置緩和のモデルを提示したり、大学の行動指針を提示したりと、今後の学生生活への配慮がなされています。

ここで、忘れてはならないのは、数年間続くであろう新型感染症における大学が共有・蓄積した緊急時への対応をどう後世に残していくかです。大学事務のみならず、前例踏襲・保守的な組織においては、緊急時が去ったのち「何事もなかったように元通り」になってしまうのを危惧しています。学んだのに、捨て去ってしまうのは実にもったいない。

春学期の授業評価アンケート(従来のものではなくコロナ禍用に加筆修正したもの)とオンライン下での学生生活実態調査アンケートを実施し、結果を公表。学生へ見える化するなど、コロナ禍でのデータを残す。あるいは、大学公認団体との公開懇談会を実施し、学生の声を拾いあげる姿勢をみせていく。その上で、9月の入学の是非、次年度の動きなどの、年単位での長期的議論が必要ではないでしょうか。

最後に、学生側の動きを述べます。コロナ禍において、学生の授業料等の減額キャンペーンが沸き起こり、メディアで取り上げられました。学生が問題を提起し、オンライン署名を通して、各大学に請願を送り、またある団体では、自治体や国に対して、請願を出しているところもあります。

このキャンペーンは、「大学が閉鎖され、4月以降の対面授業がほとんど実施されておらず、図書館など大学施設も利用できず、学費を満額納入するのはどうなのか」というのが主要な争点になっています。そして各大学の学生が大学学務とかけあうという活動が繰り広げられています。

それに前後して、経済支援策を講じ始めました。各大学はオンライン環境整備に対する一律給付金、もしくは申請による給付、貸与奨学金の新設・拡充などの対応が行われています。いまだ大学におけるコロナ禍の対策は道半ばであり、今年度はこれらの充実強化に注力されることになるでしょう

以上が、筆者がコロナ禍で考えたことになります。

[文責・柳瀬 祐希]

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