大学職員の現状と課題、そしてこれから

博士の日常
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今回、大学職員と会社員の経験をお持ちの現役大学院生から、ご寄稿いただきました。大学という組織の運営において重要な実務者である大学職員が、どのような状況におかれており、またどういった課題を抱えているのか、当事者としての体験や組織の外からの客観的な情報や意見を交えて克明に記されています。(「ポスドク総研」編集・吉野 )

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突然ですが、「大学職員」についてどのようなイメージを持っていますか?

「お世話になった」という方もいらっしゃれば,逆に「あまり良い印象を持っていない」という方もいらっしゃるかもしれません。かくいう私は奉職する以前,大学職員についてあまり良い印象を持っていませんでした。学生時代に就職課へ進路相談に行った際,面談の途中にもかかわらず「お昼休みだから」という一言で面談を打ち切られ,相談より昼食を優先されたことがずっと記憶に残っていたためです(根に持っているわけではありません)。

その経験以来,大学職員という仕事は学生主体ではなく自分主体な働き方をするものなのかというイメージをずっと持ち続けていました。

社会人になり,学生のキャリア支援をしたいという想いで民間企業から転職し,私大職員として7年半勤めてきました。ベテランの方々からは「7年半で何がわかるんだ!」とお叱りを受けそうですが,大学職員にまつわる現状や課題,そしてこれからについて,限られた文字数ですが述べていこうと思います。

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そもそも大学職員は全国にどれくらいいるのでしょうか。

文部科学省「令和元年度 学校基本調査」によると,本務者(=民間企業でいう正社員のこと,専任職員ともいう)の数は約25万人に及びます。内訳としては,「医療系」(大学病院等従事者)が14万人と最も多く,「事務系」が約9万人と続いています。

普段学生と接する職員は「事務系」の方がほとんどと考えられますが,同調査によると全国には786校の大学が存在することから,平均約110名程度の「事務系」職員が各大学に在籍しているといえます(もちろん大学規模の大小により人数は大きく異なります)。

大学職員の仕事としてイメージしやすいものは,学生と接点の多い教務課や学生生活課,就職課などの「教学系部門」です。一方,あまり表にでてきませんが,総務課や財務課など大学運営・経営に関わる「法人系部門」にも様々な部署が存在します。

大学職員はジョブローテーションとしてこれら部署を定期的に異動し,広域な職務を担っています。

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これまでの自身の経験から,この「組織」に重要な課題が介在していると考えています。組織は細分化され,意思決定にかかるプロセスは煩雑であり時間も要します。民間企業と一概に比較することは難しいですが,全体的にスピード感が遅いと言わざるを得ません。また,運営としても旧態依然としたものが数多く残っているため,時に「お役所仕事」と揶揄されてしまうこともあります。

大学事務組織は「官僚制組織」と呼ばれ,職務権限が明確であり,規則や手続きの徹底,文書による記録・伝達といった,型にはめた働き方を是としてきました。学生支援という観点でみると,人によって相談内容は異なる一方,誰に対しても規則等に則した公平な指導を行う必要があることから,この組織構造は決して間違っているわけではありません。

しかしながら,このような組織体制ゆえに,「機械的な対応しかしてくれない」といった不満があがり,事務対応に対する学生満足度が年次をあがるにつれ下がっていくという傾向を招いていることも事実です。

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外部環境も急速に変化しています。昨今では「多様化」というキーワードの元,様々な取り組みが大学に求められています。進学率の増加やグローバル化の進展により,これまでとは異なるバックグラウンドを持った学生が数多く入学してくるようになったことや,「社会人基礎力」など主体的に考える力の育成への対応など,大学が担うべき役割も拡大を続けてきました。

このような状況に加え,現在猛威を振るっている新型コロナウイルス感染症への対応は大学のみならず教育業界全体に非常に大きな影響を与えています。多くの大学において対面による教育や学生支援の提供ができなくなり,オンラインという新しい形でのサービス提供が求められています。従来の手法が活かせない状況のなかでどれだけ迅速かつ的確に新たな手法への転換・対応ができるかは組織全体に課された喫緊の課題であるとともに,そこに属する個々の教職員に向けられた課題でもあります。

こと職員においては外部環境が大きく変わる状況のなかで従来型の「型にはめた」仕事を続けていくことにはもはや限界が来ているといえます。今まさに大学職員は変わっていかなければならない段階へと差し掛かっているのです。

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これから先,大学職員はどう変わっていくべきでしょうか。

私は2つの「変革」が必要であると考えています。

一点目は組織としての「変革」です。官僚制組織の弊害は縦割り構造(セクショナリズム)を生みやすいことにあります。これは部署間での連携が不十分であるということを意味し,学生等に対する「窓口対応のたらい回し」を招く元凶であるともいえます。この問題は組織構造を見直し,部署間連携を高めることで解消できる側面があります。

組織改編の動きは様々な大学で進んでおり,教学センターなどのワンストップサービスを提供する部署の設置が広がりを見せています。しかし,組織が変わっても人の意識が変わらない限り,全体としての変化は限定的になってしまいます。

二点目の「変革」は職員一人ひとりの「意識変革」です。実は先に挙げた組織変革と比べ,出遅れているのがこの「職員の意識変革」だといえます。きつい表現ではありますが,「大学職員という世界は,教育業界でありながら人材育成があまり上手な世界ではない」と感じています。

要因は様々だと思いますが,自前の研修・評価制度が形骸化していることや大学職員としてのキャリアパスや目指すべき姿を組織としてうまく示せていないことがその理由です。このような状況のなかで意識変革を促進していくためには,もちろん制度設計に立ち戻る必要もありますが,他の方法として「外から見せる」仕掛けが必要と考えます。

外から見る手軽な方法は,外部研修への参加です。正直なところ,半日や数日の研修で得た知見がそっくりそのまま職場へ還元できるとは限りません。にもかかわらず多くの職員を(動機の如何を問わず)研修へ派遣する目的の一つは他大職員との交流を通じ,自学や自身の働き方を客観視させ,課題意識を醸成するためだと考えています。

この目的を研修参加者がしっかり理解し,課題意識の醸成や行動への転換ができれば,そこには研修内容以上の付加価値があるといえますし,そのような機会を活用しないとより一層「井の中の蛙」になってしまいかねません。研修以外にも大学職員を対象とした勉強会や学会,専門職能団体など様々な手段がありますが,外から見るという目的はどの場面でも同じといえます。

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もし余力があればさらに一歩踏み出すことをお勧めします。それは大学職員を対象とした大学院への進学です。外から見るだけではなく,「研究する」という視点です。

先に触れたように,大学はいま非常に大きな転換期にあります。この変化を適切に理解し,行動につなげるためには最新の動向や蓄積されてきた知見に目を配るとともに,自学にとってどのように活用できるか思案することが肝要といえます。大学院での学びは視野を広げ,専門性を高める格好の機会であるとともに,「職員」と「学生」という双方の立場から教育現場を俯瞰し,理論と実践を掛け合わせることのできる稀有な環境でもあります。

働きながら研究を進めることは非常に負荷のかかることですが,その分得られるものは非常に多いです。これは「大学職員」と「大学院生」という二足の草鞋を履いた私の経験からも言えることです。ぜひともひとりでも多くの方にこの道へ進んでほしいと願っています。

野村総合研究所の試算(2015)によると,学校職員はAIへの代替可能性が高い職業の一つに挙げられています。AIに取って代わられるか,共存の道へ進むかはこれからの大学職員の「意識」にかかっているといっても過言ではありません。

最後に

研修等への参加や大学院進学が万能薬だとは思いませんが,問題意識の涵養や行動変化をもたらすきっかけになることは間違いありません。外圧を待つのではなく,自ら主体的に動き変化をもたらす。そのような大学職員がひとりでも多く活躍していくことが組織全体の意識変革を促進し,やがては日本の高等教育全体の発展にもつながると信じています。

<参照文献>
■文部科学省「令和元年度 学校基本調査」
■野村総合研究所「日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に」ニュースリリース

[文責:匿名の元大学職員]

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