【株式会社オルツ 米倉豪志氏】価値観を複製するデジタルクローンを通して見えた、ヒトの可能性(2)

Acaric Journal
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― AIは新しいもの・変わったものにはうまく反応できないと言われますが、昨今の新型コロナウィルス感染症に代表される未曽有の状況に、デジタルクローンはどのように反応するのでしょうか

 価値観は、見たことのないものに対しても適用されます。例えば、デジタルクローンの話を聞いて「怖い」と反応します。これは未知の物に対して自分の価値観が反応している状態だと考えられますが、全く同じことがデジタルクローンでも起こります。そのような意味では、デジタルクローン開発において解決しなければならない課題として「知らないことにも答えてしまう」という問題があります。つまり、デジタルクローンは「知らないことを知らないと言えない」のです。知らないということを学習させるには、全てのデータを投入しないと本当に知らないかどうかわからないのです。これをどのように実現するのか、が一つの課題としてあります。例えば、人間の価値観をずっとクローンしてきたものに対して突然「ピアノを弾け」と言っても弾けません。新しいことに弱いというのは、その程度の話だと私は思っています。

― 確かにピアノを弾けと言われても、その人の演奏データがなければ学習できないですね

 「駅のホームから何かが落ちる」というような異常検知は、そのようなデータの学習がなければできません。過去にそのようなデータが存在せず、学習できないから当然だろう、と思います。しかし、この駅の状態についてどう思うのか、ということは言えます。つまり、「特定の未経験のタスク」というような新しさには弱いけれど、自分が習熟した価値観をベースとした『反応』は、どんな新しいことにおいても発現され得るというのがAIの特徴だと思います。

― 先ほどナルティチュードの話がありましたが、他にP.A.I.を用いたサービスをご紹介いただけますか

 AI議事録というサービスがヒットしています。議事録系のサービスは他にもありますが、AI議事録の特徴は、デジタルクローンの技術を投入して、個人を学習していく点です。一般的な議事録サービスでは、平準化された汎用的なコミュニケーションを取るように設計されています。当社のAI議事録は、個人の話し方や内容の特徴に合わせて学習していくため、半年ほど使っていくと、その個人について非常に正確な記録を取れるようになります。他には、AI通訳というサービスもリリースしています。デジタルクローンを作る上で我々が最も重視しているのは価値観ですが、見た目や声、表情といった振る舞いも全て個々人の価値観であると考えています。そのような点を重視して研究を進めていく中で、現在は「話している言葉が突然英語に変わる」ということができるサービスを作っています。デジタルクローンの転用ですね。

― 願わくば議事録だけとは言わず、自分の代わりにクローンが会議に代わりに出てくれるといいのですが

 当社のデジタルクローンでそのような遊びをすることもあります。本人と一緒に会議に出て遊んでいると面白いのですが、だんだん混乱してきます。そういえば、実験的に私のデジタルクローンにAI通訳を適用して、英語をずっと喋らせていたのですが、目の前で自分のクローンが流暢に英語を喋っている姿を見せてくれるのは、最高のイメージトレーニングになりました。そのような利用の仕方も無きにしも非ずだなと思いました。また、毎朝スマートミラーで自分の元気な顔を見ることで、心が軽くなるということもあるかもしれません。

― 今後の会社の方向性と、P.A.I.の今後の展望について教えてください

 会社の方向性として、2つあります。第一の大きな方向性として、デジタルクローンを徹底的に突き詰めていきたいと考えています。社内では「100年かかる、100年かかっても完成するかどうか」とよく言っています。もちろん、その時の技術によってさらに進化したデジタルクローンができるので、いつできるかはわからないのですが。そういう時間軸で考えるのが、最も大きく太い柱です。しかし、企業体ですので、お金も稼いでいかなければ成り立ちません。

 デジタルクローンを作るのは、木星にロケットを飛ばすようなものだと常々言っています。木星にロケットを飛ばすのに、特に理由はありません。新天地にたどり着きたいという人間の根源的欲求です。しかし、そのように根源的欲求に従って物を作っていくと、インターネットやエンジンが生み出されて、社会に実装されて、役立つところへ転用されるわけです。これを当社では事業として捉えています。

 我々がデジタルクローンを作る上で、最も大きな課題かつ最も大きな技術的達成だと想定しているのは、超高速計算です。人間の脳をシミュレートしているわけではないのですが、思考や価値観をリアルタイムに生成するためには、既存の計算力では全く間に合いません。そこで、自前で作ったEmeth(エメス)という仕組みがあります。これは、世界中のGPUをP2Pを使ってネットワークでつないで、巨大なGPUリソースを作るというプロジェクトなのですが、これが機械学習に特化した技術で、おそらく世界で当社しか持っていません。

 AI関連の最新モデルでは計算量がどんどん多くなっています。指数関数的に伸びてきていて、例えばGPT-3であれば1つのGPUで計算しようとすると430年くらいかかります。そのようなモデルにEmethを使うと、分散処理とブロックチェーンによる自律稼動によって非常に高速に、かつ低価格で計算できます。この計算力をビジネスにする、すなわちインフラ事業に大きく舵を切っていくことになると考えています。

― これからのことを伺ってきましたが、過去を振り返って学生時代はどのようなことをなさっていましたか

 私は大学には行っていません。ずっと音楽ばかりやっていて、高校を卒業してから東京行ったりアメリカ行ったりしていたので、学生生活の思い出は存在しないです。作曲ばかりやっていました。先生にも付かずに一人で孤独にやり続けていたという、言うなれば極限のオタクです。

― ビジネスに足を踏み入れたきっかけは何ですか

 私も自分で会社を立ち上げましたけども、他の会社で働いた経験が1年しかないのです。その後すぐに起業したのですが、理由は明確で、現代音楽の作曲はこの世界で最もお金にならない世界なのです。だから音楽をやるためにビジネスをやっているだけです。AIと音楽はとても似ています。プログラムもあまり勉強しなくてもできたのですが、音楽の影響です。楽譜はプログラムですから。

 

― 15年前から海外にお住まいとのことですが、海外に住もうと思ったきっかけ、海外の良さ、日本の良さはありますか

 これは合うか合わないかですね。住んでいるとよくわかるのですが、こちらにどうしても残りたい人と、どうしても日本に帰りたい人に半々に分かれます。ですので、何か理由があるのではないかと思います。私は消極的ですが日本が合いませんでした。他人と同じようには考えられなくて。カナダは「あなたがそう思うのならそれでいいんじゃない」という世界なのです。工事現場のインド人は、ターバンの上にヘルメットを載せていたりして、どうなんだと思うのですがこちらではOKなのです。日本だと許されないではないですか。

 私はターバンの上にヘルメットを載せてるタイプなのでこちらが性に合いましたが、他人と同じであることが心地いい人もたくさんいますので、それこそ価値観の違いなのだと思います。

― 海外に行こうと思ったきっかけは、日本に合わないと感じたからですか

 最初にアメリカに行ったのは、私が東京でぶらぶらしていてある日実家に帰ったら母が「お前はアメリカに行って来い」と突然言われまして。それで行って、「私は日本に合ってなかったのだ」と気づいて北米に住むことになりました。

― ゆくゆくは日本に戻ろうと思われますか

 全く思わないです。ただ、カナダに住んでいる方々、特に移民しているお年寄りの方々からよく聞くのは、年を取ると日本食以外食べられなくなってしまう人がいらっしゃるのだそうです。心理的な問題だと思うのですが、それが原因で亡くなられる方もいるらしいのです。そういう方は日本に行くと回復することもあるそうなのですが、今のところ日本に帰るつもりはありません。

プロフィール(インタビュー当時)

米倉 豪志 氏

株式会社オルツ取締役副社長。1975年愛知県生まれ。2000年にデータ量削減エンジンの発明、開発、特許を取得。国内最大級のモバイル検索サービスの設計を行い、2001年より株式会社メディアドゥ取締役に就任。2013年に株式会社未来少年CTOに就任後、2016年に株式会社オルツ取締役に就任。技術開発、ディレクションを担当。

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