研究支援という仕事<ソーシャルプラットフォーム編>|研究助成金・奨学金情報サイト「コラボリー」(株式会社ジー・サーチ) #博士の選択

インタビュー

※記事の内容は掲載当時(2017年)のものです。

日本最大級の研究助成金・奨学金情報サイト「コラボリー」を運営している株式会社ジー・サーチに取材を行ないました。研究費獲得を支援するソーシャルプラットフォームの運営について、その経緯と目標、こういったサービスを運営・展開する上での困難について、「コラボリー」を担当していらっしゃる長谷川均氏と杉山岳文氏に伺いました。

株式会社ジー・サーチは 日本国内の新聞・雑誌記事、企業プロフィール・財務情報、人物プロフィール、マーケティング情報、科学技術情報、法律・特許情報など多彩なビジネス情報の データベースサービスを提供する富士通グループの企業です。2013年秋より、「サイエンスを加速する」をサービスコンセプトとする研究者ソーシャルプ ラットフォーム、コラボリー(COLABORY)を展開し、公的・民間の研究助成を一括検索できる「コラボリー/Grants」、研究助成に関するニュー スサイト「コラボリー/Beats!」、オープンイノベーションプラットフォーム「L-RAD」を通じ、若手研究者を応援しています。

「コラボリー」の立ち上げとサービスについて

どのような経緯でコラボリーを立ち上げたのでしょうか?

長谷川氏:私どもは元々、法人向けのデータ提供を生業としておりまして、従来はあまりこういう方面はやっていなかったのですが、科学技術振興機構(JST)が提供している科学技術論文の抄録を収録した「JDream Ⅲ」の運営を引き継いだ時に研究者のお客様が急に増えました。そこで「研究者のお客様に対して何か我々でお助けできないか」と新たに考えたのが「コラボリー
というサービスです。最初は本当に手探りで、何をやったら喜ばれるのか、どういう方向性でいこうかと色々考えたのですが、まず『研究者と研究者、あるいは 研究者と企業のベストマッチングにより「日本のサイエンスを加速する」』という方針をつくりました。コラボリーというのはいわゆるプラットフォーム化して おりまして、我々としては研究者を集めて、その上で色々なサービスを提供していこうと考えています。また、他社と共同でやっていこうという目的もありま す。特に日本の場合、アカデミア市場は大きな企業で圧倒的なシェアを占めているというところがなくて、小さいところが色々頑張っています。そういうところ と一緒にやっていこうと思っています。

最初に展開したサービスの「コラボリー/Grants」について教えてください

長谷川氏:「コラボリー/Grants」 は助成金、研究資金に着目したサービスで、2014年8月にスタートしました。国、地方自治体、民間、それ以外の助成金を全部集めた検索サービスを無料で 提供しています。プロフィールを登録していただいた時に興味のある分野を登録していただくと、その分野が対象となる助成金の情報が月2回メールで配信され ます。データは今、公募情報が5000件以上、採択実績は23万件以上収録しています。公募情報は過去の分も入っているので、年間では700件から800 件ぐらいだと思います。今のところは研究助成に特化していますが、共同研究も収録しています。

研究助成金に着目したのは何故でしょうか?

長谷川氏:最初に何をやろうかということで色々なところへお話を聞きに行きましたが、ある方から面白い話を聞きました。研究者というのはお金を集めて、それを使って研 究して、論文を発表して、また次の研究を行うというサイクルを繰り返しています。しかし、助成金は探しにくく、Googleで検索すると一つ一つの財団ご
とにヒットしてしまい、自分の研究分野で使えるものとか、現在募集中のものという条件を付けて検索することができないんです。国とか地方自治体とか民間の 財団から獲得できる研究資金、これを一度に横断的に探せるものというのは意外と無かったんです。そこで、分かりやすいものを作ろうということで、コラボ リー/Grantsというサービスを始めました。

そう考えると確かに民間の助成金を探すのは大変ですね

長谷川氏:実は、民間の財団は広報に使えるお金がほとんどなくて、ポスターを各大学に送るぐらいしかやっていないんです。財団側からすると、新しい研究者、つまり過去 に応募された方とあまり関係のない研究者にどんどん応募してほしいと思っているんですけども、応募してほしい研究者にリーチする方法を持っていないので す。財団の常勤職員数は少ないので、手が回らないという現実もあると思います。一方で、大学では事務の方がポスターなどの情報をパソコンで手打ちしてメー ルとか学内の掲示版で先生方に周知しています。全国のどの大学でも同じ様なことをやっていて、学内できちんとしたシステムをもっているところは本当に少な いです。

民間の助成金にはどのような特徴があるのでしょうか?

長谷川氏:ほとんどの民間財団は、若手を応援したいと思っています。民間財団は、国の助成金が拾えないところをやっていきたいと考えているんです。若手は研究経歴書の 実績欄がどうしても埋まらないことが普通なので、研究計画がしっかりしていればそれで良いですよ、余白のところにアピールポイントや自分の思いを書いて欲 しい、という財団もあります。後は、民間の助成金の特徴としてあげられるのは、分野を問わない助成金や、用途を問わない助成金というのがあることですね。

コラボリーという新しいサービスに対して、企業や財団の方々はどのような反応だったのでしょうか?

長谷川氏:どこでも最初に持っていくと「良いですね」と言って頂けるんですけど、「条件だけ見て一斉に応募されても審査の先生の負担が増えるだけだ」という指摘も頂き ました。それぞれの財団ごとに、助成事業に対する思いがあって、応募してもらいたい助成対象の姿があります。コラボリー/Grantsのようにデータベー スの形で提供すると、その思いが伝わらないという意見でした。そこで「コラボリー/Beats!」というニュースサイトも立ち上げました。

「コラボリー/Beats!」ではどのような情報を扱っているのか教えてください

長谷川氏:コラボリー/Beats!では、Grantsのデータベースにはなかなか入れることができない、財団側の思いを載せています。Beats!に公募情報を載せ る時は財団の『設立目的』を追加しているので、応募される方はそこを必ず見て頂きたいです。財団のお金はその財団の設立目的を達成するためにしか使えない ので、目的に賛同いただける方に応募してもらいたいということになります。

杉山氏:企業や団体がお金を出すということは、すごくハードルが高いことなんです。社会貢献としてやっている企業、R&D(研究開発)を進めたい企業、企業 以外にも病気の子供をもつ両親たちによる財団もありますし、色んな助成金や研究費があります。その性格や主旨を全く無視してアプライ(応募)されても、そ れはノイズになってしまいます。

長谷川氏:それからコラボリー/Beats!には授与式の話や協議会に参加した時のレポートを入れています。Beats!を立ち上げたことで、Grantsに入れられ ないタイプの情報、例えば財団のセミナー情報や共同研究の発表会をニュースとして取り上げることができるようになりました。最近では財団からの認知度もあ
がりまして、公募の時期が近づくと「取り上げてほしい、収録してほしい」と依頼が来るようになりました。

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Research Fund 2.0にて講演中の長谷川均氏

戦略的な研究費の獲得方法について

コラボリー/Grantsの利用者はどのような方が多いのでしょうか?

長谷川氏:やはり研究者が多いですが、実は一番喜んでいただいているのは、大学の研究推進に携わっていらっしゃる方々です。研究者の方々もトップページに出ている情報 は閲覧したり、アラートが飛んできたものは見てくださるのですが、あまり検索してまで探すということはされていないようです。ただ意外だったのは、登録者 の所属を見ていくと東京大学が多いんですよ。東京大学だなんて、研究費に困ってなさそうじゃないですか。でも、彼らが研究費を獲得できているのは、こうし た情報に対するアンテナが高いからなんでしょうね。

研究費獲得にはアンテナを高くすることが重要だということですね

杉山氏:活躍している研究者の方々にトークセッション形式で民間の助成金の活用も含めて話していただくイベントを企画したのですが、その時に若手の研究者から「民間 の助成金の採択率は低いので、なかなか当たりません」という声が出たんです。その若手研究者は3件ほどしか申請していないのに対して、先輩研究者は10件 以上出している。民間助成金の採択率が低いのは絞っているわけではなくて、原資が少ないから。実力のある先輩研究者が仰るには、「どんどん自分の研究をア ピールして、チャレンジするという迫力が、君たちには足りない」「民間の助成金を使って自分がやりたい研究のデータ収集やある程度の実績を作ってから、科
研費のように大きいものにアプライすると通りやすくなる」という話もありました。「研究資金の獲得も戦略的にやっていくべき」とも仰っていましたね。

若手の研究者からの反応はどうだったのでしょうか?

杉山氏:来場者にアンケートを取ると「研究資金をどう調達するかという話はどこでも聞いたことがない」という声がたくさんありました。大学では研究資金の獲得方法や 自分のキャリアにあった助成金の選択に関するマネジメント教育があまりされていなくて、先輩を見て学んでいくという形になっています。我々は研究者がどの ように研究資金を調達して自分の研究をスケールアップさせているかを見ているんですよね。ある大学の研究室では、若手の方が小さめの助成金をポツポツ獲得 してから、研究室として大きい研究費を取ってるとか。戦略がある研究者は、研究助成をうまく組み合わせています。是非コラボリー/Grantsで興味のあ るキーワードを入れて検索してみてください。社会的貢献のために新しく助成団体を新設する企業も出てきています。昨今は技術系の企業が助成する側になるこ とが増えてきていて、そのような会社はサイエンスの重要性を知っているので支援をしたいというケースもあります。最近生まれた助成金は皆さんに知られてい ないでしょうから狙いどころです。でも、もっと研究者が自分で自分に合った研究資金を自分で探すようにならないと、状況は変わっていかないと思います。

長谷川氏コラボリー/Beats!の方に詳しく書きましたが、 トヨタ財団の場合は助成金贈呈式で採択者の一分間スピーチというのがあって、各採択者が一分間思いを伝えるんです。これがとても印象に残りました。その後
に懇親会があるんですが、普通の懇親会は同じテーブルの人に挨拶して、それで終わってしまうんですが、「さっき一分間スピーチでこんなことを言っていた人 だ」とわかると事前に配布された資料の採択者リストを見ながら探しに行くんです。「さっきのお話なんですけど」って声をかけたり。今まで色んな懇親会に出 てきましたが、この体験は初めてでして素晴らしい試みだと思いました。

杉山氏:採択者の受賞式とかの懇親会は、絶対に面白いです。こういうものが採択されるんだなとか、こういう先生と繋がればこうだね、とか。学会の懇親会よりも面白い と思います。採択されなくても、コンテスト形式のものだと応募すれば懇親会に出られるものもあります。異分野の先生とか、全く研究者じゃない人とも出会え ます。

コラボリーでは研究者と企業を結びつける事業も行なっているそうですね

杉山氏:研 究者のアイディアと企業を直接結びつけられるようなことをできないかということで、我々は研究者と繋がりたいと思っている企業を回っているんです。研究開 発系企業は解決したい課題をたくさんもっていますから、機会はたくさんありますよ。ただ、企業の技術課題はオープンに出来ないものも多いので、そーっと繋 げるしかないんです。コラボリーではじめたL-RADは、 研究者のアイディアと企業の課題をお互い持ち寄ってマッチングします。研究者のアイディアが一方的に盗用されないような仕組みを入れてますから、ぜひ皆さ んに利用してもらいたいです。「過去に科研費に申請を出して採択されなかったけれども、こういう研究ができるんだ」と意思表示をしていただければ、企業の 方はちゃんと見ますから。

長谷川氏:L-RADは他の会社と組んでコラボリーのプラットフォーム上で展開するサービスの第1号になります。私どものシステムの構築とコラボリーの認証部分が共有になっていますから、L-RADへ登録する時にコラボリーのIDを使います。

杉山氏:我々もコラボリーはあくまでプラットフォームなので、実力のある研究者にアクセスをしたいとか、研究者を支援したいという会社がうまくつながるようにサービスを広げていきたいと考えています。

今後の展望について教えてください

杉山氏:内々ではリサーチファンド3.0と 言っているんですけど、個々の研究者の方々と実際に研究を助成したい企業や共同研究をしたい企業を、ベストミックスでマッチングしていくというところに フォーカスをしていこうと思っています。コラボリーは『研究者と研究者、あるいは研究者と企業のベストマッチングにより「日本のサイエンスを加速する」』 というビジョンで運営されています。研究者には、研究資金を探すとか資金を獲得することにどこか消極的なところがありますが、研究者も自分の研究をするた めにどうやって資金を集めるかというのを自分で考えて実践して欲しい。例えば若手がキャリアアップするために、コンテストで賞をとっておくとか、大手の民 間の助成金を選んでいくだとか。小規模の資金を組み合わせて実績を作ってから科研費につなげるのもいいですし、そこから企業と共同研究するのも良いと思う んですよね。「色んな方法があるんだ」といったところをいかに演出できるか、マッチングの場をつくれるかが、今後のジー・サーチのビジネスでも重要になっ てくると思っています。

最後に大学院生と若手の研究者に向けて、メッセージをお願いします

長谷川氏:若手こそ挑戦して欲しいですね。財団側も若手の挑戦を求めていますし、応援したいと思っていますので、自分の研究が固まっていない若手の時こそ、民間の助成 金で実績を積んで頂きたいです。留学の時の実績にも使えますし、もっと大きい研究費を申請するときの練習にもなります。繰り返しになりますが、若手こそ挑 戦をして欲しいと思います。

ありがとうございました

(「博士の選択」記事より転載)

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