身近だけど気づかない、近くて遠い、地方の議会

博士の日常

まずは頭の体操から

日本には、47の都道府県、そしてその中に市、町、村と23の東京特別区があり、合計1700ほどあります。これらは一般的に地方自治体と呼ばれ、そのトップを「首長」と呼びます。また、都道府県のトップを「知事」、その他は名称の後ろに「長」をつけて、例えば市であれば「市長」と呼びます。

皆さんは、現在お住まいの地方自治体の首長の名前を答えられますか? 意外と忘れてしまった、顔が思いつくけど名前まで知らない…。思いつくんだけど、前の首長さんだった…と。しかし、日本国の総理大臣なら答えることができます。日本の政治を語るとき、どうしても国のトップ、つまり内閣総理大臣を例に出されやすく、その一方で自分の身近な自治体の首長については、距離的に遠く感じることはよくあります。

地方を自治するとは

地方自治体には「地方自治」とありますが、地方の自治とはどのような意味でしょうか。一般的にはその地域社会の住民の意思によっておこなわれるべきという住民自治と、中央政府から独立した団体によっておこなわれるべきという団体自治の二つの側面があります。つまり、国から独立し、自分の地域のことは自分で決めるというスタンスです。

それでは、なぜ国から独立し自治をおこなう必要があるのでしょうか。もし中央集権的、つまり中央政府の国家公務員が国内の行政事務をすべて処理するとなると、彼らは各地域の事情を無視し、杓子定規的な処理になりやすい。そうなると、全国各地で不平・不満が⽣じ、国内情勢が不安定になりかねません。また、そのような全国一律の仕組みであると、個々の地域だけで解決可能な事象についても中央政府の責任となり、中央政府の負担が増大し、本来の責務が⼗分に果たせず本末転倒になってしまいます。そのような事態を避けるためにも、地方⾃治体を設けて、権限を付与し、分散させているのです。

コロナ禍での国と自治体 の対応

地方自治体に一定の自律性がある一例として、国内で3月以降、感染者が急増しているCOVID-19(新型感染症)の流行に対する対応をあげることができます。2020年4月7日に新型インフルエンザ等対策特別措置法の改正法〔令和二年三月十三日公布(令和二年法律第四号)改正〕に基づく緊急事態宣言が発出されました。同日に閣議決定を経て、4月30日に2020年度補正予算が成立しました。

10万円が支給されると話題の「特別定額給付金」ですが、実際の運営主体は各自治体です。すなわち、支給手続きは各自治体に任されます。そして、人口規模の小さい自治体では、給付時期が早い傾向にあります。

一番早い例として北海道東川町では、補正予算の成立と同日に事実上の支給を開始しました。手法としては、地元の金融機関が10万円を無利子融資で先払いし、町が給付金を返済に充てるというもので、中央政府の想定する給付とは形態が違います。しかし、首長はスピード感を住民にアピールする好機であり、生活困窮者に速やかに届けることができます。

以上のように、地方自治体のほうが意思決定が素早いと言えます。当然、住民と第一線で接しており、地方公務員の給与もそれほど高くないため、住民感情が理解できるともいえます。一方、中央政府の意思決定は、霞が関が手動する官僚主導なのか、それとも内閣総理大臣が主導する首相主導なのか、コロナ禍においてはブラックボックス状態になっており、把握することが難しくなっています。。地方自治体の方が、住民を思いやり、寄り添う姿勢が如実にあらわれています。中央政府から見えやすい都市部に人口は集中していますが、国土の大半を占める中山間地域(注1)にも農業を営む方々を始めとする人々が暮らしているのです。

地方分権と地方議会

私はその自治体の内部組織にあたる「議会」を研究対象にしています。自治体と議会は、お互いに監視機能があり、独立した組織です。国会の中で民主的に決定した決まりごとを「法律」と呼びますが、この法律の地方版を「条例」といい、条例の決定は地方議会でおこなわれます。条例は法令(法律のみならず政令・省令も含む)(注2)に違反することはできませんが、自治体の権限に属するすべての事務について規定することができます(地⽅⾃治法14条に規定)。この条例の作成は、これまで圧倒的に自治体が担っていました。地方自治体には多くの職員がおり、彼らは首長の依頼を受け、関係者に聞き取りをし、首長の考える理想的な条例を作っていきました。実際に地方の行政を処理するのは自治体職員なので、戦後日本の発展には都合が良かったのです。

どうすれば議会も地域も元気になるか

しかし、ここ20年で状況が変わってきました。2000年に施行された地方分権一括法により、機関委任事務が廃止されるなど、法律上、国と地方は「上下・主従」の関係から「対等・協力」の関係になり、国の権限が自治体に移りだしたのです。これが、いわゆる地方分権改革です。それにともなって、地方議会も権限が拡大し、そのため議会も条例を作ろうという機運が高まりました。そこで、議員が頑張って条例をつくろうとするのですが大変です。これまでは、地方行政を担う自治体職員が作り上げていたので問題が起こりませんでした。しかし、議会の構成員である議員が作るとなると、多くの職員がいる自治体職員のような補助機関が潤沢ではありません。議会にも補助機関である「議会事務局(面白いことに出向した自治体職員によって構成されています)」がありますが、町村レベルの小さい自治体の議会だと事務局職員が2人だけということもあります。

そこで、議員や住民が考えている問題やその解決策を条例として形作ることができるのか。それをサポートが乏しい小規模自治体の議会でやっていくにはどうすればいいのか。それらの課題の解決策の1つとして、私は特に条例が作り上げられる「アイデア創出」の部分を研究しています。学問的な考えと実際起こっていることをつなげようと、議員や議会の事務局職員、地方の商工会などの住民の声を収集する団体に足を運び、インタビューを行ったり、地方の今後についての会議で議論するなど、積極的に事実を見つけていくことで、「これからの地方のことを、議会・住民の方向から考える」研究をしています。

注1/「中山間地域とは、農業地域類型区分のうち、中間農業地域と山間農業地域を合わせた地域を指しています。山地の多い日本では、このような中山間地域が総土地面積の約7割を占めています。この中山間地域における農業は、全国の耕地面積の約4割、総農家数の約4割を占める」(出典:農林水産省『中山間地域等について』 )

注2/「法律(国会の決議を経て制定される法規範)と命令(国会の決議を経ないで、行政官庁が制定する法規範)とをあわせてよぶ観念であり、場合によっては、地方公共団体の条例・規則あるいは最高裁判所規則なども含むものと解される。」(出典:日本大百科全書「法令」より)

(文責・柳瀬 祐希)

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