新種が身近な水族館に?!生物学を支える「分類学」の魅力とは【 #アカデミスト学会 #アカリク賞 受賞者インタビュー】

インタビュー
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3月にオンライン開催されたアカデミスト学会にてアカリク賞を受賞した東京大学大学院生(当時)の泉貴人さんにオンラインでインタビューさせていただきました!

学術系YouTuber「Dr.クラゲさん」としての顔も持つ泉さんから、今回受賞した研究のお話から、分類学の魅力、今後の展望、そして皆さんへのメッセージをお聞きしました!

【受賞者】

泉 貴人さん
所属:東京大学大学院 理学研究科 生物科学専攻/学振DC2(当時)
国立科学博物館 連携大学院生(当時)
※2020年度より、学振PDとして琉球大学で活動中

発表タイトル:「水族館で新種発見!?―チュラウミカワリギンチャク Synactinernus churaumi」

顔写真

【選評】

主な選定理由は「知恵の流通の最適化」ですが、より具体的なポイントは、
 1.総合的なインパクト(プレゼンテーション、コンテンツ)
2.非専門家にも分かりやすく噛み砕いた説明

以上の2点です。

【発表内容】

世間一般に「レジャー施設」というイメージのある水族館であるが、最近、その学問的価値が最前線の研究で注目されつつある。

沖縄美ら海水族館(沖縄県本部町)の予備水槽に、正体不明のイソギンチャクが2種類飼育されていた。これらの種は口の縁が葉状に発達するなど非常に珍しい形態をしており、水族館も注目していたものの、どちらも「ヤツバカワリギンチャク科の1種」としか判断できていなかった。演者らがこれらの謎のイソギンチャクについて、その外部形態の観察・切片を用いた内部形態の分析等の分類学的精査を行った結果、片方の種はクローバーカワリギンチャク属 Synactinernus の唯一の種であるクローバーカワリギンチャク Synactinernus flavus であると判明した。実に101年もの間採集された記録がなかった本種が、水槽に10個体以上生きていたのだ!そして、もう片方はクローバーカワリギンチャク属の特徴を持つものの、触手の数が100本以上多いこと・口の縁の葉状の構造が8枚均一に発達すること・体のサイズが3–4倍ほど大きいことなど、様々な形態でクローバーカワリギンチャクと区別された。これらの結果をもとに、演者らはクローバーカワリギンチャク S. flavus を再記載するとともに、大型の個体の方は新種として記載し、飼育していた水族館の名に因んでチュラウミカワリギンチャク Synactinernus churaumi
と命名した。

チュラウミカワリギンチャクは、石垣島の沖で偶然採集されて以来15年もの飼育を経て新種記載されたが、近年行われた沖縄美ら海水族館による無人潜水艇ROVを用いた調査にて、沖縄島沖の水深約300mの深海底にも群れて生息していることが判明した。深海での生態が観察されたのは、ヤツバカワリギンチャク科を通じて初めての快挙である。このように、生物を入手する機会に恵まれる水族館と、専門的な知識を持つ研究者がタッグを組むことは有益であり、近年、多くの動物群において両者がコラボレートした研究が行われつつある。演者が先に新種として記載したテンプライソギンチャクにおいても、その後行われた鳥羽水族館との共同研究の結果、海綿との共生に関して新たな生態が明らかとなっている。チュラウミカワリギンチャクに関しても、今後の水族館との共同研究により、さらなる新事実が明らかとなることが期待される。

この研究に至る経緯

今回発表いただいたチュラウミカワリギンチャクはどのような経緯で研究することになったのでしょうか?

泉さん:沖縄美ら海水族館から、予備水槽(注・展示に使う水槽ではなく、裏側にあるスタッフ専用の水槽)の中で飼育されていた『正体不明のイソギンチャク』について問い合わせが来たのがきっかけです。「科までは多分コレなんだろうけど、属と種がまったく分からない」というのが水族館側の見解でしたね。

実は最初は私ではなく、私の共同研究者に問い合わせが来ました。その方はDNA解析が専門なので形態からでは判断が難しく手付かずになっていたところを、分類学の専門家として私がやってみたら、色々と発見があり、一気に成果が出てきたという感じです。

YouTubeで「Dr.クラゲさん」として活動されていますが、元々はクラゲ研究者という認識で合っているでしょうか?

泉さん:そうですね。私の場合は、将来の夢に小学生の頃にはもうすでに「クラゲの研究者」って書いていました。海の生き物興味持ったのって多分小学校の低学年くらいで、そのころから既に、海の生物の飼い方とかそういったような本が本棚に入っていたりして。

東大ならどこでもいろんな分野の研究してますし、どの大学院に行くにせよ顔も利くんじゃないかと思って入学しました。なので東大に入ってから「どこに行けばクラゲや刺胞動物の研究ができるのかな?」「自分の性に合う研究分野をできる研究室はどこか?」という感じで探していきました。

図1

YouTubeチャンネルDr. クラゲさんの研究室より

現在は主にクラゲ以外の刺胞動物を研究対象としているのでしょうか?

泉さん:クラゲ以外というか、もはや「イソギンチャク屋」として売れていますが、研究対象を変えた理由は簡単です。新種を証明しようとすると標本をとりますよね。でもクラゲって標本にすると自重で潰れたり崩れたりして、きれいな形で長く保たないんですよ。

海から遠く離れたつくば市にある、国立科学博物館の研究施設に所属となった際に、2年も3年も経ったクラゲの標本で分析するのは難しいということがわかりまして。そこで、10年たっても標本として研究できる生物として、あくまで大学院の修行のためにイソギンチャクを選んだつもりでした。

この修行が終わったらクラゲに戻ろうと考えていたのですが、イソギンチャクも想像以上に奥が深く、今も抜けられずにいます。正直に言うと、今はもうイソギンチャクの研究も生涯の仕事になると考えています。

潜水(撮影・伊勢優史氏)

海中での調査の様子(撮影・伊勢優史氏)

イソギンチャクとクラゲで実際に新種が見つかるのは、イソギンチャクの方が多いのでしょうか?

泉さん:研究者の数によりますので何とも言えませんが、どちらも多いです。新種について正確に説明しますと、名前のついてない生き物単体だけではまだ新種とは呼べなくて、論文書いて学名付けてはじめて新種になります。よって、実際に新種と認められた数は、その時代の分類学者の数に依りますので何とも言えません。

何故かと言えば、新種を見つけるための目を長年かけて養うのが分類学者の仕事なんですね。これを私は勝手に「神の目」って呼んでますけど、神の目を得るまでに少なくとも修行で1つの動物につき3年はかかるのがこの分野の特徴です。

日本だと今イソギンチャクの新種を見つけられる人間は、私を含めておそらく3人です。クラゲの新種が分かる人間はもうちょっといるんですが、その中で分類学をやってる人間となると、私をそこに含めたとしても(恐らく)3人目なので、クラゲもイソギンチャクも結局変わりませんという感じですね。

研究室

大学院生時代の研究室にて(提供・泉貴人さん)

泉さんは分類学の魅力はどんなところだとお考えですか?

泉さん:端的に一言で説明するなら、「新種を見つけられるところ」だと思っています。分類学って基本的に生き物の学名をつける学問なんです。学名を付けることによって、その生き物を他の生物学者に対して「世界共通で認識しうる生物」として提供しています。これはアリストテレスの時代から続く生物学の根幹だと我々は思ってるんです。

いろんな学問においてその一番のベースを担ってる、食物連鎖でいえば植物プランクトンみたいな、そういうような存在が分類学であり、それが魅力だと考えています。

名前がない生物って本当に扱いづらい。それを学問的に扱えるようにしているのは我々分類学者が整備しているからこそだと思い、それを矜持にしています。

これからの展望

今回のチュラウミカワリギンチャクの研究はこの先はどう発展していくのでしょうか?

泉さん:直接の発展といえば、DNA解析の結果から、これまで考えられてきたチュラウミカワリギンチャクの分類階級が変わる可能性があるということが分かってきました。世の中にクローバーカワリギンチャク属のイソギンチャクはクローバーとチュラウミしかいませんので、その2つを使ってDNAを解析すると、もしかすると最大で「科」のレベルで分類が変わる可能性があります。今後は水族館の個体たちがそういう貴重なDNAのリソースになっていくのでしょうね。

画像1

a:チュラウミカワリギンチャク
b:クローバーカワリギンチャク
(出典: 東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室, 「水族館で、人知れず15年も飼われていた新種!」, 図1, 2019年12月10日更新(最終閲覧日:2020/05/13), https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/info/6636/ )

間接的な発展としてはどのような可能性がありますか?

泉さん:例えば今ヨーロッパには明治以前の日本から持ち帰って、それ以来一度も見つかっていないというようなイソギンチャク等がいます。そういう種が普通にどこかの水族館で飼われてたりして、それが発見されることで研究が一気に進む、みたいな例もこれからバシバシ出てくる可能性があります。やはり生体の観察は強力無比なんです。

ただ水族館ではどうしても調査研究にそこまで注力できず、詳細を把握できていないことが多いので、研究者である我々が密に連携していくことが大切です。そういう共同研究によって馬鹿でかい成果が出てくる可能性があるよ、という先駆けになったのが今回のテーマかもしれないですね。

公式な記録では『101年前に1個体だけ』採れたような種が、水族館の水槽に10個体以上いたという例も今回普通にでてきたわけです。もしかすると今後もそういう例が、そんなに多くはないかもしれませんけど、あるのかもしれない。そういうことを意識するきっかけを生み出したというのは、ある意味この研究の副産物かもしれないです。

メッセージ

他の大学院生や若手研究者に対して何かメッセージをお願いします

泉さん:この道を惰性で生きて抜けられなくなり、身を滅ぼしかけてる人間は、残念ながら多数いらっしゃいます。惰性で残るのはもしかしたら負け残りなのかもしれない。「興味を失ったりモチベーション保てなくなったらいつでもこちらから去っていいんですよ」「そっちの方が勝ちかもしれないですよ」ということを伝えたいですね。

アカデミアのテニュアなポストはそうそう空きませんし、やっぱり40歳くらいまで任期付きのポストを渡り歩いきたのに、その先が無くなってしまったなんてことを言っている人もいっぱいいます。

私はこのように、普段は「テーマに興味が無くなったら即博士はやめるべきだ」って言ってるんですけど、積極的な方向で言い換えて「テーマに興味がある限りは続けてみろ」ということを最後に皆さんに伝えたいと思います。

ありがとうございました

(インタビューアー:株式会社アカリク 吉野宏志)

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