心理職に関する資格といえば、これまで臨床心理士が有名でしたが、2017年新たに公認心理師という資格が誕生しました。
将来心理職に就こうと考えている人、大学または大学院で臨床心理学を専攻している人の中にも、公認心理師と臨床心理士の違いがよくわからない方も多くいるのではないでしょうか。
今回のコラムでは、公認心理師について、従来の臨床心理士と比較していきながら、解説していきます。
公認心理師とは
2017年 (平成29年) に施行された公認心理師法によって、新たに公認心理師という、国家資格が誕生しました。
公認心理師法によれば、公認心理師とは、
- 心理に関する支援を要する人に対する、心理状態の観察、その結果の分析
- 心理に関する支援を要する人に対する相談、助言、指導その他援助
- 心理に関する支援を要する人の関係者に対する相談、助言、指導その他援助
- 心の健康に関する知識の普及を図るための教育及び情報の提供
といった行為を、保健医療、福祉、教育その他の分野において、心理学に関する専門的知識及び技術をもって仕事とする人のことを指します。
参考:一般財団法人日本心理研修センター「公認心理師試験について 」
これまで心理職の資格といえば臨床心理士が有名でしたが、民間資格に留まっていました。
しかし近年、うつ病など心の問題を抱えている人が増えたり、自閉スペクトラム症(ASD)などの発達障害がよく知られるようになったりと、国家資格としての心理職の資格の需要が急速に高まっていました。
そのような中で誕生したのが、公認心理師です。
公認心理師と臨床心理士の違い
公認心理師と臨床心理士は国家資格と民間資格であること以外に、どのような違いがあるのでしょうか。以下では、カリキュラム、受験資格、試験内容の違いから解説していきます。
カリキュラムの違い
公認心理師は、公認心理師のカリキュラムに沿った大学の卒業と大学院の修了の両方が必要になります。具体的には、大学で25科目(うち、実習は80時間以上)、大学院で10科目(うち、実習は450時間以上)を修めなければなりません。
臨床心理士は、臨床心理士の指定大学院(第1種指定大学院、第2種指定大学院、専門職大学院)を修了することが必要になります。具体的には、必修5科目16単位と選択必修26単位(約13科目)を修めなければなりません。また、公認心理師とは異なり、大学はどの学部を卒業していても問題ありません。
詳しくは、次の「受験資格の違い」で見ていきましょう。
受験資格の違い
公認心理師は、合わせて8種類の受験資格取得方法があります。
- 区分A:4年制大学において指定された科目を履修→大学院で指定された科目を履修
- 区分B:4年制大学において指定された科目を履修→指定された施設で一定期間以上の実務経験
- 区分C:区分A, Bと同等以上の知識・技能を有すると認定される(海外の大学・大学院含む)
以下は特例措置になります。
- 区分D1:2017年9月15日以前に、指定された科目を大学院で履修
- 区分D2:2017年9月15日以前に大学院に入学し、以後に指定された科目を大学院で履修
- 区分E:2017年9月15日以前に、4年制大学で指定された科目を履修→以後に指定された科目を大学院で履修
- 区分F:2017年9月15日以前に、4年制大学で指定された科目を履修→指定された施設で一定期間以上の実務経験
- 区分G:実務経験5年→2022年9月までに現任者講習会を受講
他方、臨床心理士を受験するには、日本臨床心理士資格認定協会が定めた受験資格が必要です。受験基準は7種類ありますが、大別すると、
- 協会が認可する第1種指定大学院を修了している
- 協会が認可する第2種指定大学院を修了し、修了後1年以上の心理臨床経験を有する
- 臨床心理系の専門職大学院を修了している
- 医師免許取得者で、取得後2年以上の心理臨床経験を有する
の4種類があります。
試験内容の違い
公認心理師は、筆記試験のみで、4択または5択からなる多肢選択方式の問題が150~200問出題されます。
臨床心理士は、1次試験(筆記試験)と2次試験(口述試験)が行われます。
1次試験では、100問の多肢選択方式試験と、論文記述試験があります。
2次試験は、1次試験の多肢選択方式試験の成績が一定水準以上の人のみが受験できるようになっています。
合格率の違い
公認心理師の合格率は、厚生労働省によると、79.6%(平成30年)、46.4%(令和元年)、53.4%(令和2年)と推移しています。公認心理師の試験はまだ開始されたばかりで、まだ開始されていない受験区分もあるため安定していませんが、今後の合格率は50%前後になっていくことが予想されます。
引用:厚生労働省「第3回公認心理師試験(令和2年12月20日実施)合格発表について 」
他方、臨床心理士の平成28年から令和2年の合格率は、日本臨床心理士資格認定協会によると、約62~65%です。
引用:公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会「「臨床心理士」資格取得者の推移 | 公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会」
公認心理師を取得するメリット
上述の通り、公認心理師は受験資格の厳しい資格です。それでも公認心理師を取得するメリットとは、何でしょうか。
現時点では、公認心理師と臨床心理士の求人に違いがありませんが、今後心理職の国家資格として公認心理師の認知度が高まっていくにつれ、特に国や自治体などの求人では、公認心理師を応募条件とするものが増えてくると言われています。
その理由としては、国家資格である公認心理師には、民間資格である臨床心理士よりも、より厳格な守秘義務が課せられているからです。
厚生労働省の発表している「公認心理師法概要」によると、公認心理師の義務の1つに秘密保持が規定されています。さらにこの秘密保持義務は、違反すると罰則が課せられるという厳しいものです。
引用:公認心理師法概要
それに対し、「臨床心理士倫理綱領」第3条では、「臨床業務従事中に知り得た事項に関しては、専門家としての判断のもとに必要と認めた以外の内容を他に漏らしてはならない。」という表現に留まっています。
引用:臨床心理士倫理綱領
公的な機関であるほど、守秘義務がより厳格であることが求められるため、公認心理師の求人数が増えてくるだろうと言われています。
公認心理師の業務と就職先
日本心理研修センターによると、公認心理師は、「医療・保険」、「教育」、「産業・労働」、「福祉」、「司法・犯罪」の5領域にまたがる資格です。以下、それぞれの領域について説明します。
参考:日本心理研修センター「公認心理師とは」
医療・保険
医療・保険領域での業務は、精神科・心療内科での心理検査や、精神疾患を抱えた患者であったり病気・ケガにより精神的に不安定になった患者の心のケアを担当します。
今後は、医者や一部の医療従事者にしか認められていない認知行動療法の実施も公認心理師が行っていくと考えられています。医療・保険領域での就職先は、病院の精神科・心療内科、保健所などがあります。
教育
教育領域での業務は、生徒や保護者、教職員の相談に乗る、いわゆるスクールカウンセラーです。
教育領域での就職先としては、小学校、中学校、高等学校のほかに、教育委員会などもあります。
産業・労働
産業・労働領域での業務は、企業に勤める社会人の相談に乗るカウンセラーや、企業へのメンタルヘルス教育です。産業・労働領域の就職先としては、民間企業、外部EAP(従業員支援プログラム)機関やハローワークなどがあります。
福祉
福祉領域での業務は、子供や障害者、高齢者の支援などです。
福祉領域の就職先としては、児童相談所、障害者福祉施設、老人福祉施設などがあります。
司法・犯罪
司法・犯罪領域での業務は、犯罪加害者への再犯防止教育、犯罪被害者への心のケアなどです。
司法・犯罪領域の就職先としては、家庭裁判所、少年院、刑務所、少年鑑別所などがあります。
公認心理師を目指すときの注意点
公認心理師の受験資格は非常に厳しく、以下のような方法では公認心理師の資格を取得することができませんのでご注意ください。
まず、複数の大学・大学院で履修した科目や、卒業・修了後に科目等履修生制度によって履修した科目を合算して受験資格を満たすことはできません。また、大学院を修了した後に大学で必要な科目を履修するといったように、大学と大学院の順序が逆になってもいけません。
詳しくは、Q&A | 一般財団法人 日本心理研修センター 公認心理師試験 (shinri-kenshu.jp)を確認すると良いでしょう。
まとめ
心理職における初の国家資格である公認心理師は、まだまだ認知度が低い資格ですが、これから心理職の主流になっていく可能性の高い資格です。
また、心の健康に注目が集まる現代社会にとって、とてもニーズの高い資格でもあります。
心理職に関心のある方は、公認心理師の取得を検討してみるのはいかがでしょうか。